3. はじめての街
出発前の準備のために村まで買出しにいくと、昨日のことは村に広まっているらしく村の人たちからがんばってねと同情をふくむ声をかけられた。
トマスおじさんのところに挨拶にいくと
「昨日は大変だったらしいな、いつ出発するんだ?」
「明日の朝出発するつもりだよ」
「そうか、路銀の足しにでもしろ」
おじさんが多めのお金をわたしてきたので、こんなにもらえないというと
「いざというときのために使え…」
何か含みのある言い方をしてきたので、逃亡資金用かと察した。トマスおじさんまで逃げることをすすめてくるとは、そこまでひどいところなのかと不安になってきた。
次の日の早朝、じいちゃんと一緒に街への道をすすんでいた。道すがら、この国についてじいちゃんから説明をうけた。
いまいる国であるアルステーデ王国は、大陸の西端に位置していて、平原と森をもち豊かな大地が広がっている。
中央部に王都があり、東西南北の各地域には中心となる街がある。わたしが住んでいる地域は南側であり、いまからいくのは南の街プレンジアだそうだ。
「南の街の領主のオルレアン様は、南のカスール神聖帝国から侵攻を受けたとき、敵の猛攻を防ぎったことから英雄とよばれ、街の住民からも信頼されているのだよ」
じいちゃんは誇らしげに領主さまのことを語っていたが、話がすすむにつれて顔が曇ってきた。
「オルレアン様は、帝国からの侵攻を防ぐために国境の砦に常時いるため、息子に領主代行をさせていてな」
「息子っていうと、この前あったアレキサンダー様?」
「そうだ。アレキサンダー様はあまり政務には関心がないようで、方々で遊びまわっているそうだ」
それでうちの村に貴族様が一人できたのかと合点がいった。気まぐれできたときに偶然カチあうなんて、運が悪かったと重い気持ちになった。
それから、半日ほど道をすすんでいき街についた。
「わぁ、これが街かおっきい~」
街を囲む壁を見上げながら、その大きさに驚いた。
「まずは、街の入口で手続きをすませるぞ」
じいちゃんについていくと、街の入口で列が並んでいて、兵士が入っていく人の確認をしていた。列の最後尾にならんで、わたしたちの番がきた。
「身分証明書の提示をお願いします」
兵士が丁寧な態度で声をかけてきて、じいちゃんが胸元からとりだした、チェーンつきの小さい銀色のプレートを兵士にみせた。
私は身分証明書をもってなかったが、じいちゃんの同行者ということで通ることができた。
街の中にはいり中を見回すと、建物が規則正しく並び、通りには露天が立ち並び客をよびこむ声があちらこちらから聞こえてきた。
わたしがキョロキョロと見回してると、じいちゃんがはぐれるんじゃないぞと手をつないできた。
「まずは、いつも使ってる宿屋にいく。いざというときはここに来い」
多くのひとが行きかう道を、じいちゃんがわたしの手を引っ張りながら歩いていった。通りから少しはずれた場所にある『穴熊亭』とかかれた2階建ての宿屋の前に到着した。
じいちゃんといっしょに中に入ると、恰幅のいい中年の女性がいた。
「いらっしゃいませ、あらニコラスさんと…その子はお孫さんかい?」
「ああ、おれの孫のユエだ」
中年の女性は宿屋の女将で、じいちゃんは顔なじみらしく親しげだった。わたしも女将さんにあいさつすると、笑顔で返してくれた。
「今日は泊まりですか、それとも食事ですか?」
「おれが宿泊する予定だ、しばらく泊まりたい。それと、今から食事を2人前おねがいしたい」
「はいよ、食事を用意しとくから、先に部屋に案内しますね」
お昼過ぎに街に到着したため、かなり腹が減っていた。部屋にじいちゃんの荷物をおいてから、食堂で食事がくるのを心待ちにした。
女将さんが食事を運んできてくれて、パンとスープ、肉を焼いたものがテーブルに並んだ。
いい香りがただよってきて、おもわずおなかが鳴ってしまった。女将さんにきこえたらしく笑いながらたくさん食べるんだよといってきた。
おなかが減ってたこともあったが、食事はとてもおいしくすぐに食べ終わってしまった。
すると、女将さんがおかわりはいるかと聞いてきたが、逃亡資金のことも考えるとあまりお金の余裕がないと考えてためらっていると
「そんな物足りなそうな顔をしながら厨房のほう見てたら、落ち着かないよ。サービスだから、たくさんお食べな」
女将さんが苦笑しながらおかわりをもってきてくれたので、お礼をいった。そんなに物欲しそうな顔してたのかとおもうと、恥ずかしくなった。
残りの料理をたべてると、じいちゃんがこちらをじっと見ていた。
「どうしたの、じいちゃん?」
「これがおまえと食べる最後の食卓だと思うと…」
「なにいってんのよ、これで死に別れるみたいなこといって、いつでもとはいわないけど、また会えるでしょ」
じいちゃんが神妙な顔をしながら不吉なことを言い出した。街に来る途中も思いつめた表情してたし、もともとの心配性がさらにひどくなってるようだ。これは、早めに屋敷にいって元気に働けてることを見せたほうがよさそうだ。
「ごちそうさま、よし、屋敷にいこうか」
「ああ…、そうだな」
じいちゃんに声をかけると、じいちゃんが重い腰をあげるようにゆっくりと立ち上がった。




