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26. 市場調査

次の日は、エリザベス様は所用があるそうでこれなかった。

作業場にいた若い男性から、今日やることを説明してもらった。

昨日刈った毛は脂でべとついていて、ごみが付着しているので、ぬるま湯につけおきして、さらに石鹸で何度か洗うらしい。


「お湯をしぼるときはあまりいじらないようにするのがコツだよ」


羊毛から水を絞っているとさきほどの男性から声をかけられた。名前はソルさんといい、茶髪の縮れ毛をしていて人のよさそうな顔つきをしていた。


「羊毛の処理は大変だろう、つかれてないかい」


「お屋敷で洗濯の仕事をしてたので、こういうのには慣れているんですよ」


「その歳で屋敷のメイドをしてるなんて大したもんだよ」


ソルさんは感心した様子でうなずいているけど、年齢を勘違いしてそうだな。


「ぼくの小さい頃なんて遊びまわっているだけだったからね。エリザベス様と木登りとかして遊んだもんだよ」


「ソルさんはエリザベス様と小さい頃からの知り合いなんですか?」


「ぼくたちはエリザベス様の小さい頃からの知り合いで、エリザベス様が始めた羊毛生産のお手伝いをしているんだ」


ソルさんは熱のこもった様子で、エリザベス様のことをしゃべっていた。

羊毛の洗濯がおわり、あとは脱水した羊毛を風通しのいいところで陰干しして終わりとなった。


屋敷にもどりエリザベス様に作業の終了を報告すると、お茶をいれてくるように言われた。


「ご苦労様、ほらあなたも座って」


当然のように勧められたので、対面の席に座った。


「今日は羊毛の洗濯だったわね。やってみてどうだったかしら」


「洗い終わった羊毛って、あんなに真っ白でふわふわになるんですね」


エリザベス様はニコニコしながらわたしの話を聞いていた。


「そういえば、作業場にいたソルたちってエリザベス様のご友人だったんですね」


「昔はよく一緒に遊んだわね。うちの家風のせいなのか、特に貴族や平民でへだたりがないのよね」


昔をなつかしむようにエリザベス様は目を細めた。


「羊毛生産は5年前から新しく始めたことでね、彼らはよくついてきてくれてるわ。お父様たちは代々続けてきた牛や豚の世話をしていれば満足らしくて、あまりわたしのやってることに興味はないみたいね」


そういって、エリザベス様はおどけるように肩をすくめた。


次の日も、昨日の残りの羊毛を洗濯して屋敷にもどってくると、エリザベス様はなにか悩んでいるようだった。


「ああ… ユエ、今日もご苦労様」


「エリザベス様、お茶の時間にいたしましょう」


そうねといいつつ、エリザベス様はイスに深く腰掛けた。

わたしは自分の定位置となった対面の席に座った。


「エリザベス様、わたしでは力不足でしょうが、お悩みでしたら相談にのりましょうか」


「そうね、じゃあちょっと聞いてもらえるかしら。生産した羊毛だけど、いまは通いの商人に牛や豚の素材と一緒に卸しているわ。でも、それだとあまり利益がでないから、できれば毛織物に加工してうちの領の特産品として売りたいのよね」


なるほど、生産量も増えてきたから将来も見据えているのか。


「昔から手に入った羊毛で服を作ることはあったけど、野良着とか自分たちで使う用のものだけだったから、毛織物でなにを作ればいいか思いつかないのよ」


そういって、エリザベス様は困った顔をしてこちらをみていた。


「エリザベス様… それでは、実際何に使われているか見に行きましょう!!」


部屋の中で悩んでいるぐらいなら実際に見に行ったほうがいい案も浮かぶはずだ。


「さあ、いまからならプレンジアの街の閉門には間に合うはずです」


「え、ちょ、ちょっと」


「クレイ様に外出の許可をとってくるので、少々お待ちください」


屋敷から走って牛が放牧されている区画にいき、クレイ様を発見した。

勢いのままお伺いを立てると、すこし怯んだ様子でうなずいてくれた。

走ってエリザベス様の元に取って返した。


「クレイ様の許可をいただきました。さあ、参りましょう」


「はぁ… わかったわ、あなたけっこう強引なのね」


エリザベス様は観念したようにため息をはいた。


「それでは、馬車を用意してまいりますので少々お待ちください」


「ちょっとまって、今回は馬にのっていきましょう」


エリザベス様は乗馬も嗜むそうで、たまに遠乗りに行くこともあるらしい。

乗馬着に着替えたエリザベス様は身長が高くスラッとしているためとても似合っていた。

エリザベス様はひらりと馬の上にのり、手を差し出してきた。

わたしはその手を握って後ろにのりエリザベス様の腰をつかむと、エリザベス様が手綱を叩いて馬を走らせた。


夕日が沈み始めたころにプレンジアの街に到着し、門をくぐることが出来た。


とりあえず、今日泊まる宿を探すことにしよう。


「ユエ、普段あなたが使っている宿でいいわよ。今回はお忍びできたからね」


それじゃあ、じいちゃんに教えてもらった穴熊亭にしようかな。


「エリザベス様、こちらはハンターや商人が良く使う宿です」


「ユエ、ここではわたしが商家の娘ということでおねがいね」


「かしこまりました」


満足気にうなずくエリザベス様を伴って、穴熊亭の中にはいった。


「あら、ユエちゃんじゃないか」


「こんばんは、女将さん。泊まりたいのですが部屋あいてますか」


「1部屋あいとるよ。となりのお嬢さんも一緒かい」


そうですというと、女将さんに部屋に案内された。


「申し訳ありません。部屋を一緒にしてしまって」


「構わないわよ」


エリザベスは鷹揚にうなずき、小声でむしろそのほうが都合がいいとつぶやいていた。

時間もちょうど夕飯時だったので、宿の食堂で食事をとった。


「へぇ、おもしろい味付けね。すこし辛いけどこれもいいわね」


フェアウッド領ではバターの風味を生かした料理が多く、味付けの違いを楽しんでるようだ。

食事が終わり部屋に戻ると、明日の予定を立てることにした。


「屋敷でドレスなどを注文してる馴染みの服屋と、南商業区にでている新しい店をみてまわりましょう」


「南商業区がスラム地区を区画整理してできたっていうところね、かなり活発らしいわね」


他に見て回りたい場所などをまとめて、今日は寝ることにした。

ベッドは2つあるので、片方で寝ようとすると


「このベッドの毛布は薄いわね」


ベッドのマットレスにはわらを袋に詰めたものが使われていて、薄い毛布をかけて寝るだけなので、まだ肌寒い季節だったのですこし寒かった。


「寒いから、ユエこっちにきて一緒にねましょう」


エリザベス様がベッドに腰掛けながら手招きしていた。

わたしがどうしようかと躊躇していると、手をひっぱられてベッドの中に引きこまれた。


「ユエは温かいわね」


胸の中に抱えこまれてしまった。

モニカといいわたしをだきながら寝たがるんだ。


「寝るんだから、頭のメイドキャップはずしましょう」


「頭につけてないと落ち着かないので、このままで大丈夫です」


あわててメイドキャップを抑えながらいうと、残念そうな顔をしていた。


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