25. おてつだい
屋敷は町の中央にあり、屋敷の前に立っている衛兵にアレキサンダー様から渡された手紙を渡して取り次いでもらった。
屋敷の中から、お見合いのときにみた執事が出てきてエリザベス様の居室まで案内された。
エリザベス様の部屋は壁際に本棚がおかれ本や書類がぎっしりとつまっていた。
部屋のまどぎわに頑丈そうな机が置かれ、飾り気のないワンピース姿のエリザベス様が座っていた。
「ようこそフェアウッド家へ、ここまでくるのは大変だったでしょう」
「滅相もございません。短い間となりますが、お嬢様のお力となれるよう微力を尽くします」
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ。それにわたしのことはエリザベスとよんでちょうだい」
ひざまずいて挨拶すると、エリザベス様は笑いながら気さくなかんじで返事を返してきた。
「エリザベス様、おらはそろそろ牛っこの世話にもどります」
「ご苦労様、それじゃあユエを部屋に案内したら作業にもどってちょうだい」
エリザベス様の居室から辞去すると、執事の人に案内されて隣の部屋に入った。ここが滞在中のわたしの部屋となり、エリザベス様に呼ばれたらすぐに行けるように、この部屋で待機するように言われた。
執事の人は、普段は牛などの世話をしているらしく、執事というより農夫にちかいようだ。他のメイドさんも近所のおばちゃんが手伝いで来ているらしい。
「さて、なにをすればいいんだろ…」
もってきた荷物のなかからメイド服を取り出し着替えたあと、何もすることがなくヒマだった。
そうか、エリザベス様が呼んだらすぐにいけばいいわけだよね。
待っている間、屋敷の中を見て回ることにした。
屋敷は平屋であまり広くなく、すぐに見終わりそうだった。
応接間や、客間、旦那様たちの私室があり、食堂、厨房と見て周り、廊下のつきあたりに扉が中途半端にあいたままの部屋があった。
気になってのぞいてみると、地下に続く階段があった。
階段を下っていくと、空気がひんやりとしていた。
薄暗い部屋の中で目をこらすと、なにかの動物の枝肉がいくつもつるしてあった。
その中で、前掛けをつけ、禿頭の大柄な男性が肉をじっとみていて、こちらにきずいた。
「ん?だれだ」
薄暗い中ふりむいた顔に陰影がついて妙な迫力があり、おもわず声がふるえてしまった。
「ぷ、プレンジア家から出向してきましたメイドのユエです。ほ、本日からお世話になります」
「あら、そうなの~。よろしくね!!」
笑顔でこちらに近づいてきてわたしの手をとり、太く筋肉質な腕をぶんぶんと振り、顔に似合わない高い声を上げていた。
この人はボルトさんといい、この屋敷の料理長だそうだ。
「この部屋はなにをするところなんですか?」
「この部屋でね、牛や豚、羊の肉を熟成して、今年取れた肉の出来具合を見ていたのよ。そうだ、ユエが来た記念に今日はいいお肉をつかいましょう」
ボルトさんはウキウキした感じで枝肉のひとつから肉を切り取り、スライスしていった。
鮮やかな手並みで感心しながら見ていると、部屋の外からチリンというベルの音が聞こえた。
「すいません、エリザベス様がよんでいるので失礼します」
「いってらっしゃーい、今晩のごはんは楽しみにしててね」
わたしはエリザベス様の居室のドアをノックして返事があったので中に入った。
エリザベス様はペンをもって、机にむかって作業をしていた。
「お呼びでしょうか、エリザベス様」
「お茶をお願いできるかしら」
「かしこまりました」
ボルトさんに茶葉や茶器の場所を教えてもらってお茶を用意した。
「お待たせいたしました」
「ありがとう」
一休みするようで、エリザベス様はペンを置き、イスにすわったまま伸びをしてお茶を飲み始めた。
「おいしい、お茶入れるのうまいのね」
「お粗末様です」
アレキサンダー様にさんざんダメだしを受けながらお茶をいれてきた成果がでたようだ。
「フェアウッド領にきた感想はどうかしら」
「のどかで落ち着くとてもいい場所だと思います」
「わたしもうちの領は好きよ、いつも見ている風景だけど、みていると落ち着くわ」
言葉とは裏腹にエリザベス様はどこか物足りなそうな顔をしていた。
「お願いがあるのですが、わたしにもできることがあれば申し付けていただけないでしょうか」
「うーん、それじゃあ、そろそろ羊の毛刈りの時期だし、作業を手伝ってもらえるかしら」
よし!!仕事もらえたぞ。でも、毛刈りってどんなことやるんだろうな。
夕方になると、当主のクレイ様やほかのフェアウッド家の家族が屋敷に戻ってきたので挨拶をした。
普段はあまり屋敷にはいなくて、外で家畜の世話をしているそうだ。
夕食には、ボルトさんの言葉通りおいしい肉を食べることができた。
次の日、作業服姿のエリザベス様や数名の作業員と一緒に羊が柵で囲われている牧場の一画にきた。
若いひとが多く、みなキビキビと動きやる気に満ちていた。
これからハサミをつかって一頭一頭から毛を刈っていくそうだ。
手本を示すようにエリザベスさまがハサミでジョキジョキ音を立てながら刈っていった。
「こんな感じで羊の肌を傷つけないように根元の方から刈っていってちょうだい」
近くにいた羊に目をつけて近づいた。
そういえば、昨日食べた羊肉おいしかったなーと思いながら羊を見ると、羊がおびえたように逃げ出した。
「ちょっと、逃げるな~」
追いかけて捕まえたが羊はとまらず、わたしを上にのせたまま走り回っていた。
その様子をみていたエリザベス様が口を手で抑えながら笑っていた。
結局、わたしが近づくと羊はみんな逃げ出すので、他のひとが刈った毛を近くの小屋まで運ぶ役をしていた。
刈り終わった毛はけっこうな量で、積むと山になっていた。
毛の量を測り、エリザベス様が書類に書き付けていた。
「去年よりとれる量が増えたわね。この調子でがんばっていきましょう」
エリザベス様はその場にいた人たちに笑顔でねぎらいの言葉をかけていた。
うちのアレキサンダー様からは絶対こんな言葉はでてこないだろうな。
今日の作業は終了したので、屋敷のエリザベス様の居室でお茶をいれていた。
「ユエ、あなたも今日の作業で疲れたでしょうから、座って一緒にのみましょう」
「いえ、そんな、よろしいのでしょうか?」
「いいから、いいから」
恐縮しながら、エリザベス様の対面の席に座った。
「今日は貴重な経験をさせていただいてありがとうございました」
「ユエが毛を運んでくれて助かったわ。ほんとは2日に分けてやる予定だったけど、どんどん運んでくれたからはかどったわ。見かけによらず力持ちなのね」
「羊の毛ってふかふかなのに結構重かったです」
「それにしても、今日のユエはおもしろかったわ。あんな風に羊に逃げられるひとなんて初めてみたわ」
「けっこう必死にやったんですよ」
今日のことを思い出しながら笑っているエリザベス様に、ほおを膨らましながら抗議した。
夕食にはしぼりたて牛乳をつかったシチューがでてきた。
厨房の片隅においてあるテーブルで、ボルトさんと向かいあいながら食べていた。
「ボルトさん、すごいですこのシチュー、すごい味が濃厚です」
「うちの牧場でとれた牛乳をつかってるからね~」
ボルトさんはいかつい顔をニィっとゆがめて笑っていた。
「ところで、ユエちゃんエリザベス様とはうまくやれてるかしら」
今日やった羊の毛刈りのことを話すと、ボルトさんにも笑われてしまった。
「楽しそうねでよかったわ。それなら安心だわ」
ボルトさんからなにかをいいたそうにしてる気配を感じて気になった。




