24. お見合い
クロードが書類を手に向かいあっていたが、おもむろに豪華な装丁をほどこされた冊子を取り出した。
「お話は変わりますが、見合いの申し込みがきております」
「ふん、どうせ貴族の家に取り入りたい商家だろう。断っておけ」
以前、他の貴族に見合いを方々に申し込んだがすべて断れられた経験があった。
「フェアウッド家からの申し込みで、次女のエリザベス様との見合いをご所望とのことです」
「フェアウッド家か、我が領内の北側に領地をもつところだったな」
「昔より牧畜が盛んで、最近では羊毛の生産で収入を増やしていると聞いております」
アレキサンダーが興味をだしたところに、クロードが畳み掛けた。
「アレキサンダー様も、今年で18歳となられました。そろそろお世継ぎのためにも婚約者を決めていただかないと困ります」
「わかった… 会うだけだからな」
アレキサンダーが観念した様子で了承すると、クロードは笑みをうかべて執務室を辞去した。
わたしとカティナねえさんはメールビットさんに呼び出された。
「3日後、アレキサンダー様のお見合いを当家で行います。くれぐれも粗相のないように対応しなさい」
アレキサンダー様がお見合いだって!?と驚きながらも仕事の指示を受け準備を進めていった。
昼食の席でカティナねえさんと今日のことを話した。
「カティナねえさん、大変なことになりましたね」
「屋敷にほかの貴族がくるなんてあまりないからね」
「そこも大変なんですけど、万が一結婚できたとしたら、相手の人が毎日いじめられるんじゃないかと思うと不憫じゃないですか」
「それは大丈夫じゃないかな、最近のアレキサンダー様は真面目になったし」
「だまされたらダメですよ。いままでやられてきたことを思い出してください」
入った直後に受けた嫌がらせや、なれない場に無理やり連れて行かれたことなどを思い出した。
「そうですよ、最近ではスラム地区に一人でいかされて誘拐されたりして、でもちゃんと助けにきて心配もしてくれて… あれ?」
そういえば、おいとか貴様とか呼ばずに名前で呼ばれるようにもなっていたな。
混乱するわたしを見ながら、カティナねえさんがなんだか生暖かい目をしていた。
お見合いの当日となり、準備も万全にして、出迎えのために玄関で待ち構えた。
黒塗りの家紋入りの馬車が、門を抜け庭の石畳を通って近づいてくるのがみえた。
馬車を玄関前で止め、御者をしていた執事服の黒髪の初老の男性が馬車のドアを開けると、中から貴族風の服をきたよく日に焼けた人のよさそうな顔をした小太りの中年男性と、ドレスをきた栗色の豊かな髪を流している長身の若い女性が降りてきた。
中年男性のほうがフェアウッド家当主のクレイ様で、女性のほうが今回の見合い相手となるエリザベス様だ。
「ようこそ、当家へおいでくださいました。どうぞ、こちらへいらしてください」
クロードさんが案内し屋敷にはいっていく二人を、わたしは頭を下げながら見送った。
「ふうん… いたわ、あの子ね」
エリザベス様がわたしの前を通り過ぎるとき、つぶやいたのが聞こえた。
見合いは食堂で行われ、挨拶を交わしながら始まった。
「ようこそ、当家までご足労いただき感謝いたします。父は任務のため不在となりますがご容赦ください」
「ほ、本日はご都合いただきありがとうございます。こちらがわたくしの娘、エリザベスです」
「はじめまして、エリザベス・トリア・フェアウッドと申します。今回はお父様にわがままをいって、ぜひアレキサンダー様にお会いしたいとお願いいたしました」
おどおどした様子のクレイ様に比べると、エリザベス様は落ち着いた様子で笑みを浮かべながら話していた。
フェアウッド家は昔から牧畜を営んできており、当主自身も参加している。貴族らしく社交界にでるより、牛や豚の世話をしているほうが多く、他の貴族との交流は不慣れなようだ。
「アレキサンダー様のご活躍はかねがね聞いております。最近は新しい商業区を開発なさってるそうですね」
「商人や住人との折衝に手を焼いておりますが、やりがいのある計画ですよ。エリザベス殿も領内での活躍なさってると聞いてます」
「ええ、羊の飼育数を増やして羊毛の生産量を増やしておりますの」
エリザベス様とアレキサンダー様の間で会話ははずみお見合いはすすんでいった。
お見合いのなか、エリザベス様にお茶を配る際に、エリザベス様がこちらを横目で見ているのに気づいた。そのときの目つきが獲物をねらうような目をしていた。
「本日はありがとうございました。色よい返事をおまちしております」
挨拶を交わし、フェアウッド家の親子は馬車にのって帰っていった。
あとは相手からの返事を待ち、何度か交流を深めることで婚約までの段取りを決めていく。
数日後、フェアウッド家から届いた手紙をアレキサンダーが読んでいた。
「見合いの話は進めたいが、その前にこちらの家に嫁ぐ前に雰囲気をしるためにだれか一人使用人を1週間ほどよこせといってきたぞ」
「見合いでは話せないような、こまかな部分を使用人から聞き出すということは、貴族の間で行われることがございます。今回の場合ですと、エリザベス様の側付きとなりますので女性の使用人が望ましいでしょう」
「うちのなかから出せそうなやつか… メールビットの仕事の穴は空けられないし、そうだ、カティナはどうだ」
「カティナは屋敷内全般の雑事を担当しているので無理でしょう」
「そうなると… ユエだけか」
アレキサンダーは顔をしかめながら悩んだ。
執務室によばれ、アレキサンダー様から指示を受けた。
「わたしが、フェアウッド家に出向!?」
「いいか、くれぐれも妙なことをしてくるなよ。婚約が成立しなくても、フェアウッド家と良好な関係を築くことをできれば、肉類、皮革の取引先が確保できるのだぞ」
むこうでなにをするかを聞くと、クロードさんが答えてくれた。
「基本的にはこちらでのメイドの仕事と変わりないでしょう。それに加えてエリザベス様の御付として動くことになるでしょう」
なんだ、やることは一緒なのか、それなら大丈夫そうだと思っておまかせくださいといったら、アレキサンダー様は不安そうな顔をしていた。
送り出されたわたしは、乗り合い馬車でフェアウッド家の屋敷があるカロンの町に向かった。
向かう途中、策で囲まれた牧草地で放牧された牛をそこらでみかけ、牧歌的な風景をみて心がなごんだ。
カロンの町はプレンジアの街に比べるとこじんまりとしており、街を守るための外壁も形ばかりのものだった。
町の門にはのんびりとした表情の衛兵が立っており、町の雰囲気が感じ取れた。




