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閑話 カティナと新人メイド

お昼をすぎよく晴れた陽の下、メイド服のスカートを揺らしながら孤児院を目指してスラム地区を歩いていると、そこらから金槌を叩く音や露天商が客の呼び込みをする声などが聞こえてきた。


「変わればかわるもんだね、もうスラム地区ってよべんなこりゃ」


5年前まですんでいたスラム地区を思い出しながら、まわりを見て独り言をつぶやいた。

物心ついたときからタニアばあさんのところで世話になりながらスラムで育った。

母とタニアばあさんが知り合いで、母が亡くなったあとまだ幼かったわたしをあずかったそうだ。

わたしの口がわるいのは、あんなばあさんに育てられたせいだろうな。

ばあさんはどこからか子供をひろってきては家の中にすまわせ、そのなかにヤンやパロマ、モニカたちがいた。わたしが一番年長ということで、自然と世話をするようになっていた。


12才になったとき、領主様の屋敷のメイド募集がハンターギルドに張り出された。

スラム育ちというレッテルをはられると定職につけないので、これはチャンスと思いすぐに応募した。

屋敷に勤めてから色々あったが、今に至っている。


孤児院の玄関をくぐり声をかけると、モニカがでてきた。


「こんにちはー、邪魔するよ」


「カティナねえさん、いらっしゃい」


「これお土産ね、みんなで食ってくれ」


わたしはここに来る途中にかった焼き菓子を渡した。


「わぁ、ありがとう。みんな~カティナねえさんがきたわよー」


モニカは嬉しそうに笑いながら受け取り、奥に声をかけるとどたどたと子供が走ってきた。


「カティナだー」


チビッ子たちに囲まれてメイド服のスカートのすそを引っ張られた。


「カティナねえさんが、おいしいものもってきてくれたからおやつにしましょう」


子供たちは嬉しそうな顔をして食堂に向かった。


「おや、ばあさんもいたのかい」


食堂に向かうと、長テーブルの席の一つにタニアばあさんが座っているのをみつけた。


「ふん、あんたがもってきたものに点数でもつけてやろうと思ってね」


「たべたら、びっくりしてくたばるんじゃないかな」


あいかわらず、会うと憎まれ口ばかり叩くなと思いながら返事した。

みんなでわいわい言いながら食べていると、ヤンとパロマが帰ってきたようだ。


「よう、カティナじゃねえか。うまそうなものくってんな」


ヤンが目ざとく見つけて物ほしそうな顔をしているのをみて、となりのパロマが苦笑しながら挨拶してきた。


「二人とも手を洗ってきてから席についてよね」


「へいへい」


モニカが注意するとヤンがめんどくさそうに手を洗いに行った。

戻ってきたヤンがうまいうまいいいながら口いっぱいにほおばって食べているのを眺めていると


「そういえば、ユエはどうしてるの?」


「あー、ユエはな… ちょっと用事でこれなくてね」


ユエは、アレキサンダー様に商業ギルドや工事監督者への連絡係としてそこら中に走り回らされている。


そっかーといいながらモニカは残念そうな顔をしていた。


「ユエってほんとに何者なの?見た目は貴族のお姫様みたいだし、孤児院とかスラムのことを立案したのもユエなんでしょ」


「本人からは、ハンターの祖父に育てられたただの平民だって聞いてるよ」


「ふーん…」


モニカはどこか納得していない顔をしていた。


「屋敷でユエってどんなことしてるか教えてよ」


「そうだなぁ… 色々ありすぎてどこからはなせばいいやら」


わたしは、ユエが屋敷にきたときを思い出しながら語った。


ある日、新しいメイドの子が来ると聞き、今度は何日もつかな~とあまり期待していなかった。

新しい子はユエという名前で、第一印象はずいぶんと小さい子だと思った。ばあさんのところにいる子たちとあまり変わらない大きさだった。年をきくと12歳といわれ驚いたものだ。わたしがこの屋敷にきたのも、そういえば12歳だったなと親近感がわいた。


翌日から一緒に仕事を始め、なれない作業に戸惑っている様子だったが、教えていくうちにだんだんとなれてきたようだ。

手分けして仕事をするようにしたら、案の定、アレキサンダー様からの嫌がらせを受けたようだ。


領主様の屋敷で働く人間は、身元がはっきりしていてそれなりの教育を受けたものがなるのが普通だが、わたしのような身元が怪しい人間が採用された理由は働き始めてからわかった。領主様の息子が、入ってきた使用人に度重なる嫌がらせをするため、長く居つくひとがいず方々に募集をかけたという事情があるらしい。

わたしも入ってから嫌がらせを受けたが、スラムの悪ガキどものイタズラとあまり変わらないレベルのものだったので、特に気にならずに続けることができた。


いままで来たメイドたちは、落ち込んだり怒ったりして、数日すると辞めていった。

ところが、この子は怒った後、考え込んだとおもったら不敵な笑みをうかべた。

次の日、自分の仕事をしつつユエのことを横目で見ていた。

洗濯物を干しているユエの死角から、シーツを干している物干し竿の支柱を倒そうとしているアレキサンダー様が見えた。

昨日の同じことになるかと思ったが、ユエがすばやく立ち上がり支柱を手で抑えた。

その後も、窓拭きでつかっているバケツがひっくり返される前に防いだり、数日間アレキサンダー様と攻防を繰り返していたが、どうやらむこうがあきらめたらしく、嫌がらせがなくなった。

嫌がらせがなくなった後のユエは、仕事の早さが格段に上がっていた。イタズラに注意しながらやっていたので、仕事に集中できていなかったらしい。


仕事の大半が半日で終わるようになったので、ばあさんのところに顔をだせる頻度が増えた。

ユエは屋敷の仕事が終わると弓をもってでかけ、夕食を豪華にするために近くの森で狩ってきたらしく、その晩の食事は一品増えていた。

ユエの能力を買ったのか、料理長のボルクさんから食材調達も頼まれるようになっていた。


あの子少し働きすぎじゃないかと思い、街にお使いにいったときに息抜きに喫茶店に誘ってみた。あの子は喫茶店が初めてらしく、大喜びで菓子を食べていた。

でも、わたしの心配はいらないお世話のようだった。


ある日、ユエを庭でさがしていて、名前を呼ぶと屋根の上から飛び降りてきた。

驚きながらか聞くと、日差しがきもちいいので、屋根の上で寝ていたらしい。


この子をみると、スラムに住み着いていた猫を思い出した。そこら中を元気に飛んだり跳ねたりして子供と遊んでいた。


「ユエのいつもの様子はだいたいこんな感じかな。それと貴族の誕生会とか鹿狩りにも連れて行かれたらしいね」


「ユエが…12歳だって!?おれより年上なんてうそだろ」


ヤンが驚いた顔をしていた。ヤンとパロマが11歳で、モニカが10歳になったところだ。


「驚くところそこかよ、まあぼくも意外だったけど、いろいろありすぎてどこから突っ込めばいいのやら」


「貴族の誕生会… ドレス姿のユエみてみたかったなぁ~」


そろそろいい時間になってきたので、みんなに別れをつげて孤児院をあとにした。


半年間ほど一緒に過ごしてきたが、あの子はどこか他人と距離をとろうとしているところがあるのに気づいた。

あの子は着替えや水浴びをしてるところは絶対に見せようとしない。

ひどい傷跡でも隠してるのかもしれないからそっとしておくのがいいだろう。

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