22. スラム地区の変化
小隊を組んだ衛兵たちがスラム地区の入口に立ち、そのうちの一人が立て札を地面に突き刺しよく通る声で叫んだ。
「みなのものよく聞け!!領主代行様のお触れである」
声をきいてスラムの住人たちが路上に集まってきた。
「当地区は区画整理の対象となった、住人用にあらたな住居が用意してあるので移るようにとのお達しである」
「ふざけんじゃねぇ、いきなりきて住処をうつれなんで横暴がすぎるぞ」
「なお、この住居の数には限りがあるため先着順だ」
衛兵に食って掛かるように数人が怒鳴っていたが、その後の言葉をきくと顔を見合わせた。
「おれはうつるぞ」
「きったねえぞてめぇ、おれだって」
最初の男につられるように次々と同意を示すものが現れた。
「このことは他の仲間にもしらせておくようにせよ」
衛兵たちは足並みをそろえキビキビとした足取りで離れていった。
「隊長よろしかったのですか、あのような競わせるようなことを、住居は人数分用意するとの連絡をうけていますよ」
「ああ、あれはな、領主代行様からの指示だ。もしも、ごねてくるようだったら、そう言えと」
「なんだか、領主代行様かわりましたね、以前は街の政務にかかわってくることはなかったのに」
「まあな、だが、以前から問題だったスラム地区の問題に着手してくれたのはとても助かる」
衛兵の詰め所で、中年の衛兵が若手の衛兵にこれで仕事がはかどると上機嫌に話していた。
商業ギルドでは、新規に店をもちたいという若手商人が多くいて、もろ手をあげて提案を受け入れたそうだ。区画整理をすすめる上で、店舗の配置などを協議している。
公共住宅については、当初用意していた分に移った住人からの反応は良好で、それを見たほかの住人も移る意思を示してきたため、住民に建築作業の仕事を与えて自分たちで住むところを建てていっている。
以前より予定していた堤防工事の人足を募集したところスラムの人間からの応募が多数あり、工事現場付近に住み込む形となった。
区画整理のための工事と住居や店舗の建築、堤防工事でスラムの人間は分散されていった。
さらに、区画整理をすることで、ほかに破損していた街壁も見つかった。
以前、カスール神聖帝国に攻め込まれたときの爪痕だそうだ。
孤児院の改装が終わりタニアばあちゃんたちに移ってもらう日がきた。
「それじゃあ、みんないくわよ」
「は~い」
モニカが声をかけると子供たちが元気な返事をして、わいわいとついていった。
元商家だった建物に到着すると、みんな驚いていた。
「ほんとに、ここに住んでいいの!?」
建物は木造2階建てで元商家だけあってかなりしっかりした造りをしていた。
「みてみて~、すごくひろいよ~」
子供たちはなかを見てまわりながら、これからの生活を想像して笑顔になっていた。
「ねぇ、ユエ」
「どうしたの、モニカ?」
子供たちが建物内の探検にでかけていなくなったところで、モニカが神妙な顔で話しかけてきた。
「どうして、ここまでしてくれるの?」
「わたしはなにもしてないよ。アレキサンダー様がやってくれたことだよ」
「カティナねえさんから、ユエが領主代行様に孤児院のことをいってくれたってきいたよ」
「あー、えっとね… 理由はとくに考えたことがないんだ。なんとなくかな~」
ごまかすようにあははと笑うと、モニカはため息をついたあとに
「ユエ、わたしたちはみんなあなたに感謝してるからね。なにか困ったことがあったら力になるからね」
「うん、ありがとうね…」
たぶん、わたしは、生まれや育ちがスラムだったというだけで苦しい生活を強いられているのが気に食わなかったんだとおもう。
それはわたしが生まれつき普通の人間ではないということで、共感したのかもしれない……
数日がたち、子供たちは孤児院での生活に慣れてきたようで、モニカはタニアばあちゃんを手伝いに孤児院で子供たちの面倒をみている。
ヤンとパロマは区画整理の工事の仕事にいっている。
スラム地区では人々が忙しそうに行きかい、気の早い商人は露天を広げて工事の人間に食べ物を売っている。
「なんということでしょう、にごった空気のただようスラム地区がいまでは人々でにぎわう地区に~」
忙しそうにしている人々をみながらつぶやいてみた。アレキサンダー様から、お前のせいでいそがしいのだから少しは手伝え、といわれて工事現場の監督や商業ギルドとの連絡係をしている。
屋敷とスラム地区と商業ギルドを行き来して、あまりの忙しさについ現実逃避をしたくなってきた。
気を取り直し、早く監督さんのところに行こうと足早にすすんでいった。




