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21. お願い

捕まえた男たちを衛兵が取り調べたところ、太った男は南の国のカスール神聖帝国からきた奴隷商人ということらしい。

カスールは宗教国家で、自国の民を神に選ばれしものとし、侵略した国の民やさらってきた人々を奴隷としているそうだ。


奴隷の中でも子供は教義を教え込み洗脳しやすいため、兵士として教育するなど使い勝手がよく、高くうれるそうだ。

子供たちをさらっていた3人組は元ハンターで、ケガで仕事ができなくなりくすぶっていたところを、奴隷商人に声をかけられたと自供した。

スラム地区側の街壁の一部がくずれていて、抜け道として利用し、すでに何度か連れ出したらしい。


屋敷にもどった次の日、メイド服にきがえたわたしは執務室のドアをノックした。

アレキサンダー様の返事が聞こえ、ドアをあけた。


「提案がありまして、お聞きいただけないでしょうか」


「なんだ、いってみろ」


「スラム地区のことですが ――― 」


「ふむ、いいだろう考えておこう」


わたしの提案をきいたアレキサンダー様は、考え込んでからクロードさんと相談をはじめた。



屋敷にもどってから1週間がたち、わたしはスラム地区を歩いて、タニアばあちゃんの家にむかっている。家に近づくにつれて緊張してきた。


「大丈夫だって、あいつら気にしてないから」


「でも、わたしはみんなをだましてたから…」


横を歩くカティナねえさんが励ますように声をかけてくれた。


スラム地区にいくことを話すとカティナねえさんもついてくるといってきた。

カティナねえさんはタニアばあちゃんのところで昔世話になっていたそうで、ときどき会いにいってるらしい。


家の前につき、扉の前で深呼吸した。よし、大丈夫おちつけわたし。


「や、やあ、モニカ」


「ユエじゃないの!!よかった…もうきてくれないかと思ってた」


扉をノックするとモニカがでてきて、驚いた顔をしてる。


「メイド服姿のユエもかわいい~。ほんとに屋敷で働いてるんだね」


モニカがこちらをしげしげみていて、いつもどおりの態度で安心した。


「今日は、みんなに話したいことがあってきたんだ」


「ヤンとパロマももう少しで戻ってくると思うから、中でまっててね」


家の中にはいると、1週間だけ過ごした場所なのにすごく懐かしく感じた。


「ユエだ~」


わたしに気づいた子供たちが近くによってきた。

少し時間がたったころ、ただいま~という声が玄関の方から聞こえてヤンとパロマが帰ってきた。


「カティナと、ユエ!?」


「よう、元気してたか」


ヤンは驚いた顔をしていて、カティナねえさんが気安い口調で話しかけていた。


ヤンにどうやって話しかけようか悩んでいると


「ほら、ヤン。いいたことがあるんだろ」


「あ、ああ… その、ユエ、この前はごめんな」


パロマが促すと、ヤンがうつむき加減に謝まってきた。


「わたしこそ、利用する形になってごめん…」


わたしも上目遣いになりながらヤンの顔をみて謝り、部屋のなかがなんだか妙な静けさに包まれた。


「あー、ごほん、ごほん」


「ほら、見詰め合ってないで、話すことがあるんだろ」


モニカが咳払いをして妙な間が破られると、カティナねえさんがにやにや笑いながら切り出してきた。


「あ、はい、そうでした。こんど孤児院がつくることになって、みんなにそこに移ってほしいんだ」


「孤児院?どんなところなの」


「スラム地区近くのつぶれた商家を改装して使う予定でね。それと、毎月生活に困らない程度のお金が支給されて、返済義務もないよ」


そういうと、みんな顔を見合わせていた。急にこんなこといわれても戸惑うよね。

そこにカティナねえさんが安心させるように声をかけた。


「安心しな。領主代行様の命令でやってることだから、特に裏はないぞ」


「ほんとに? すき間風の吹かない家で、ご飯をおなかいっぱい食べられるの?」


モニカが確かめるようにいってきたので、うなずくと、みんなが喜んだ顔をしてはしゃいでいた。


「なんだい、さっきから騒がしいね。おや、あんたらもいたのか」


「ようばあさん、くたばってなかったか」


タニアばあちゃんが奥の部屋からでてきたようだ。


「タニアばあちゃん、今日は話したいことがあってきたの」


孤児院ができて、みんなそこに移ることを話した。


「けっこうなことじゃないか、これでやっとこさ静かになるよ」


「それでね…… ばあちゃんには孤児院の院長やってほしいんだ」


「ばかをおいいでないよ、そんな大層なもんはあたしに似合わんよ」


そういってひらひらと手のヒラを振っていた。


「ばあさん、あんたも年なんだしいつまでもここにいるわけにはいかないだろ」


「ふん、どこにいたって死ぬときゃ死ぬさ、死に場所ぐらい自分で決めるさ」


やはり一筋縄ではいかないか。どうしたものかと考えていると


「おばあちゃん、一緒じゃないとやだー」


「な、なんだい、あんたたち…」


子供たちがばあちゃんの腕や足にとりついて揺さぶりながら、口々にいってきた。


「…まったくうるさいったらありゃしないよ、どこにでも好きなところに連れて行くがいいさ」


ため息をはきながらめんどくさそうに言うと、子供たちはうれしそうに笑った。


「それじゃあ、孤児院の準備ができたら呼びにいくから、引越しの用意しといてね」


「荷物なんてほとんどないから、いますぐにでもいけるぐらいだよ」


モニカたちに笑っていい、家をあとにした。

帰り道、カティナねえさんのおかげで上手くいったのでお礼をいった。


「はぁ~~~、よかった。みんな孤児院に移ってくれて」


あの家に愛着あるだろうからどうやって説得しようかと悩んでいたが、すんなり受け入れてくれた。


「スラムの住民にとって、思い出よりも今日たべるごはんと安全な寝床の方が大切だからね」


カティナねえさんは物憂げな表情をしていた。

とりあえず、第一段階はクリアしたけどやることはまだたくさんある。


執務室では、アレキサンダーとクロードが話していた。


「ユエの話には驚いたが、なかなかおもしろいな。ただ孤児院の設置を言ってくるかと思ったが、同時にスラム地区の改善まで提案してくるとはな」


スラム地区の住人が街の店で雇ってもらえることはほとんどなく、結局低賃金な仕事で日銭をかせいでなんとかしのいでいる。


「ユエさんの提案ではスラム地区に店を誘致していき新たな雇用を生み出すということでしたな。スラム地区を新たな商業区として開放し、店をもちたいという商人を募る。店の維持には近隣から従業員を雇うためスラムの住人が雇用されていくでしょう」


「店を建てていくさいに区画整理を行い、スラムの住人用に公共住宅をつくり移らせる。すんでいるものには家賃を徴収し、もしも雇用先がみつからないものは、公共事業で働いてもらう」


「孤児院の子供は一定年齢にたっしたら、公共住宅にうつり雇用先をさがすものとすれば、また働き手が増えていきます」


「ユエは気軽にいってくれたが、これから商業ギルドに話をつけねばならんな」


「微力ながらお手伝いいたします」

疲れた顔をしながらもアレキサンダーは楽しそうに笑みを浮かべていた。

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