20. ひとさらい
その後数日間、森に入り薬草採取とウサギ狩りを続けたことでお金に余裕がでてきて、夕飯にパンがつくようになった。
「パンは一人一個よ、こら、ひとのをとるんじゃないの」
子供たちは夢中になってご飯を食べていた。
「ふう、おなかいっぱいになるまで食べたのなんて初めてよ」
夕御飯をたべおわり、モニカがおなかをさすりながら満足気な顔をしていた。
他の子供たちもまねをしておなかをさすっていた。
次の日も狩りに行き、薬草の採取とウサギを狩ってきた。
「どーよ、おれもウサギの解体うまくなっただろ」
「そうだな、はじめは出てきた血にびびって手が止まってたからな。そのころに比べればいいんじゃないかな」
狩ったウサギの解体をヤンとパロマがつづけて、二人とも慣れてきたようだ。
スラム地区にはいり家への道をすすんでいると、初めの日にあった3人組が道をふさいでいた。
「なんだよ、おまえらじゃまだよ」
「おまえら最近かせいでるらしいじゃねえか。おれたとにも恵んでくれよ」
髭もじゃの男がにやにやしながらこちらに詰め寄ってきた。
「はぁ?ふざけんじゃねえよ、ほしけりゃ自分ではたらいてこいよ」
「おー、こわいこわい」
ヤンがナイフを出し髭もじゃにつきつけると、降参とばかりに両手をあげて道をあけた。
3人を後ろ目に通りすぎていくと、「あいつにするか」と小さい声で話しているのがきこえた。
日課となった森への狩りにでかけると、後ろからついてきている気配があった。
薬草の採集をしている間も、距離をとりじっとこちらを見ているのを感じた。
「さて、今日も十分とれたし戻ろうか」
森から出ようとしたところで昨日の3人組に呼び止められた。
「おっと待ちな、獲物を置いていってもらおうか」
「あんたらもしつこいな。いい加減うっとおしいんだよ」
ヤンがいらついたように言い放つと、3人が腰に帯びていた長剣を抜いて、こちらにつきつけてきた。
「ガキがいい気になりやがって、いい事を教えてやるよ。街の外では何が起きるかわからない、誰の目にもつかず死んじまうやつがたくさんいるんだぜ」
「くっそ、これだから大人は…」
「ヤン、ここは素直に渡そう。ここで争ってケガをしたくない」
相手を倒すことはできるけど、ヤンたちがケガをするかもしれないからそのほうがよさそうだ。
悔しそうな顔をしながらヤンはしぶしぶうなずいた。
「はじめから素直にしたがってればいいんだ。そうそう、荷物の量が多いみたいだし、おまえ荷物もってついてこい」
「3人もいるんだからそれぐらいの荷物もてるだろ」
髭もじゃがわたしをゆび差したが、ヤンが威嚇するように前にたった。
「そういえば、おまえのところってガキがたくさんいたよな。あれだけたくさんいるなら、2、3人いつの間にか消えてるかもなー」
髭もじゃがとぼけたような口調でいってきた。
これでは、子供たちが人質にとられたようなものだ。
わたしは首をふりながら呆れたような口調で話しかけた。
「しょうがないな~、荷物ももてない虚弱おじさんのためについていってあげるよ」
「やめろ、なにされるかわからないぞ。マーロンも一人になったときに消えたんだ」
「だいじょぶだって、危なくなったら逃げるから。それと、これをもって領主代行様のところにいってきて」
わたしはヤンとパロマに近づき小さい声で耳打ちしながら金のプレートをわたした。
スラム地区に来る前にアレキサンダー様に、衛兵に連絡をするときの身分証明用に渡されていた。
「なにしてる、さっさとこい」
「はいはい、いまいくよ」
男たちについていくと、スラム地区をすすんでいき街壁間際まできた。
そこにも家が雑然と並んでいて、そのうちのひとつの扉をあけた。
「ここが、おじさんたちの家なの?」
「いいから、さっさと中にはいれ」
なかはほこりっぽく人が住んでいる様子ではなかった。
家の奥の扉にはカギがかけられていて、男が鍵をとりだし扉をあけた。
なかにはおびえた様子の数人の子供がいた。
ぼさぼさの髪にボロをまとっていて、どうやらスラムの子供のようだ。
部屋のなかに押し込まれ扉の鍵をしめられた。
「ねえ、あなたたちだいじょうぶ?」
声をかけたがみんなひざを抱えてうつむいたままだった。
「この中にマーロンって子はいない?」
「マーロンは……ぼくだ」
一人が顔をあげてこちらをみてきた。マーロンは目を線が細い男の子で弱々しい様子だった。
「ヤンたちがあなたのこと心配してたわよ」
「ほんとに、でも、このままぼくたちは売られるんだ」
やっぱり、あいつらが人攫いだったか。さらったひとを奴隷としてうっているようだ。
それから数時間たち部屋の中が真っ暗になったころ、扉をあけて3人組のうちの一人が、明かりをもって入ってきた。
「おまえら全員でろ」
家をでると外に明かりがつけられていて、禿げ上がり太った男が髭もじゃの男と話していた。
「ご苦労様です。どうですか、数はそろいましたか」
「旦那には世話になってるからな、苦労してそろえてきたぜ」
わたしたちは太った男の前に並ばされた。
「今回は5人あつめてきた。それに、こいつは高値でうれるだろう。報酬に色をつけてくれよ」
「いいでしょう。この見た目なら貴族に高値で売れそうです」
ひげもじゃの男がわたしを指差しながら上機嫌でしゃべり、太った男はなめまわすようにわたしをみて目を細めていた。
そのとき、路地の暗がりのほうから声がした。
「あいにくだが、そいつはもうオレのものだ」
そこには、剣を構えたアレキサンダー様が怖い顔をしながらたっていた。
「総員、突撃!!賊をとらえよ」
背後に控えていた衛兵たちが訓練された動きで一斉に男たちに近づいていった。
「なんで、衛兵がこんなスラムにいるんだ!!」
男たちはすぐにつかまり、縄で両手をしばられた。
「おい、だいじょうぶか!!」
ヤンやパロマ、モニカ、それに子供たちが衛兵の後ろから走ってちかづいてきた。
「よかった、マーロンも一緒だったか」
「間に合ってよかった。まったく、大変だったんだぜ」
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3人につれていかれる前に、ユエが耳打ちしてきた。
「領主様の屋敷までいって、領主代行様を呼んできて。これを見せればわかってもらえるから」
そういいながら、金色のプレートを渡してきた。
ユエがあいつらに連れて行かれるのをみてからパロマに声をかけた。
「おれは領主代行様を呼んでくるから、パロマはユエの後を追ってくれ」
「わかった、急いでくれよ」
大通りの奥にある屋敷までくると門の前に衛兵が立っていた。気後れしたが、いそがなきゃとおもって声をかけた。
「すいません、領主代行様にあわせてください」
「なんだ、小僧。ここは貴様のようなやつが来るところではないぞ」
オレは事情を話そうとしたが、衛兵はもっていた槍をこちらに突きつけてきた。
「あれ?ヤンじゃないか、どうしたんだ」
「カティナ!!領主代行様に会いたいんだ」
「ふーん、なにか事情があるみたいだね。衛兵さん、ちょっと聞いてあげてよ」
衛兵が槍を下げたので、おれはユエから預かった金のプレートを見せて事情を話した。
すると、衛兵はいそいで屋敷の中に入っていった。
もどってくると、黒い服をきてきびきびした動きのじいさんを連れてきた。
「アレキサンダー様がお会いになるので、どうぞこちらに」
屋敷の中はひろくきょろきょろしていると、2階の奥の部屋まで案内された。
部屋の中央には頑丈そうな机がおいてあり、ふんぞりかえりながらイスに座っている男がいた。
「貴様がこのプレートをもってきたガキか」
「は、はい。ユエが危ないです。助けてください!!」
「クロード、すぐに衛兵を集めろ!!そのあと、おまえはユエがつれていかれた場所まで案内しろ」
立ち上がると、じいさんに指示をだしながら部屋を足早にでていったので、あわててついていった。
「おーい、ヤン」
3人組におどされた場所に案内している途中の道で、パロマが走りながら声をかけてきた。
「なんだ、貴様は」
「こいつはオレの仲間です」
近づいてきたパロマに領主代行様がにらんできたので、このひとが領主代行様だとパロマに耳打ちした。
「さっきまでユエをつけてスラム地区に入ったのですが、入り組んだ道に入っていったため見失ってしまいました」
「スラム地区か、あんなごみごみした場所にいくとは厄介だな」
パロマが落ち込んだ様子で報告し、領主代行様は考え込んでいた。
そうだ、いい事をおもいついた。
「スラムなら任せてください。おれたちの庭のようなものですよ」
「なにかいい案があるのか。いってみろ」
「普段からスラムのいろいろなところを遊び場にしているので、チビたちと一緒に探せばすぐに見つかります」
それから、家にもどりモニカたちに事情を話した。
「そんな、ユエが… みんな手分けしてすぐに探すよ!!」
モニカは顔を青くした後、チビたちに手分けして探すように指示をだした。
しばらく探しているとチビの一人が何か見つけたといってきた。
「ヤン、これってもしかして今日とってきた薬草じゃないか」
「そうか、ユエが目印におとしていったんだな」
道に薬草の葉っぱが点々と落ちていたので、たどっていくと街壁近くの家まで続いていた。
「そうか、見つけたか。皆のもの、いそいで向かうぞ」
領主代行様に報告すると、衛兵たちに指示をだし、問題の家までむかっていった。
あたりはすでに暗くなりはじめていて、あせる気持ちで走りながら先導した。
目標の家につくと3人組と怪しい男が話していて、そこにはユエとマーロンがいた。
それを見た領主代行様は、顔を怒りで歪めながら剣を引き抜き、衛兵を突撃させた。
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衛兵たちが現場をあたらめている中、アレキサンダー様が声をかけてきた。
「おい、ユエ、大丈夫か」
アレキサンダー様が人の心配をしている!?わたしは驚いてアレキサンダー様の顔をまじまじと見た。
「なんだその顔は、まったく手間をかけさせおって」
アレキサンダー様は憮然とした顔をしていた。
そこに、モニカが下目使いでこちらを伺うように聞いてきた。
「ねえ、ユエは領主代行様と知り合いなの?」
「わたしは、領主様の屋敷ではたらいてるメイドなんだ。ひとさらいの情報あつめるためにスラムにきたんだ」
「そうなんだ… ここからでてっちゃうの?」
「うん、ごめんね…」
「そっか…」
わたしの答えをきくと寂しそうな顔をした。
横からヤンが何かをこらえるように叫んだ。
「ふざけんな、おれたちを利用したのか!!」
「ヤン…」
ヤンは苦しそうな表情をしながら怒鳴ってきて、なんて返事をすればいいかわからなかった。
「やめろよ、俺たちを助けるためにやったことだろ。マーロンも助けてくれたんだぞ」
「そうよ、1週間一緒にすんで楽しかったじゃないの。チビたちも喜んでたわよ」
「うるせぇ!!おれは納得できない」
ヤンは自分の気持ちをもてあましたようにこの場から走って離れていった。
「まったくヤンのやつは… たぶんおまえがいなくなるのがイヤなんだろうな」
「ヤンには後でいっておくから、またいつでも遊びにきてね」
それからみんなに見送られてスラム地区を後にした。




