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18. あたらしい仕事

屋敷に帰ってから数週間がたち、あのふらふらしていたアレキサンダー様はどこにいってしまったのだろうと思いながら掃除をしていると、執務室に呼び出された。


「きたかユエ。クロード説明してやれ」


「以前より、スラム地区で子供がさらわれるという問題が街の衛兵より上がっていました。しかし、スラムの住人からの協力をとることがむずかしく、犯人の足取りをつかむのが困難な状況です」


「そこで、おまえの出番だ。おまえの見た目ならスラムの住人も油断し、犯人もおまえに接触してくる可能性が高い」


「えーと、つまり、わたしが囮になるってことでしょうか…」


「その通りだ。なかなか理解が早いじゃないか」


そういいながら、アレキサンダー様がニヤリと笑いかけてきた。


「犯人をつかまえるのは衛兵の仕事だ。無理をしない範囲で情報を集めれば十分だ」


「かしこまりました。お力になれるようにがんばってまいります」


部屋を退出しようとしたら、後ろから声をかけられた。


「ああ、それと、メイド服では目立つだろうから、適当な服でいけよ」


適当な服か、メイド服以外だと狩りのときの服しかないな……


「…というわけで、服選びお願いします」


「しょうがないね、そういうことなら協力するよ」


服なんてほとんど買ったことがないので、カティナねえさんに付き合ってもらうことにした。


街の大通りの一画にある服屋に到着し、扉を開けて挨拶した。

この店はメイド服やドレスなどを注文していて、店長さんとは採寸のときに顔を合わせていた。


「いらっしゃいませ、おや、カティナさんとユエちゃんじゃないか」


「こんにちはブラウンさん、今日はわたしの普段着を買いにきました」


ブラウンさんはノリのきいたシャツを着た細めの男性で、この店の店長だ。

ちょっとまっててねというと店の奥にいき、いくつかの服を持ってきた。


「こっちの服ならユエちゃんのサイズにも合ってるし、おすすめだよ」


そういって取り出したのは、肌触りのいい生地でできていて花の刺繍がされている白いワンピースだった。


「すごくいいと思いますが、もうちょっと地味な感じのでお願いします」


「そっかー、ユエちゃんが着ているところを見てみたかったんだけどなぁ……」


残念そうな顔をしながら、丈夫そうな生地でできた濃紺のワンピースを渡してきた。


「それなら目立ちにくくて良いんじゃないかな」


カティナねえさんがうなずいたのでこれにすることにした。


「それじゃあ、サイズの調整をするからちょっと着てみてくれる」


試着用の部屋に一人で入りワンピースに着替えた。


「肩と腰まわりがだぶついてるから調整しようか」


ブラウンさんがわたしを見ながら具合を確かめてる横で、カティナねえさんがなんだかもやもやしてる顔をしていた。


「うーん、なんていうか… 貴族のお嬢様がおしのびで平民の服を着ているって感じだね」


「やっぱり、そう思うよね!!ユエちゃんは素材がいいから服が負けてるんだよ」


ブラウンさんがカティナねえさんの言葉に大きくうなずいていた。

しょうがない… 狩りのときに着てるフードつきのマントでごまかすか。

ワンピースを脱いでメイド服に戻ると、ワンピースの調整をしてもらった。


「代金は銀貨5枚ね。今度はかわいい服を買いにきてね」


代金を渡して服屋を後にした。


次の日の昼過ぎに、買ってきたワンピースに着替え、マントをはおってフードをかぶり、スラム地区に向かっていった。


スラム地区は大通りからはずれ、街の南側防壁近くに広がっているせいか、太陽がさえぎられて日中も薄暗い。

ありあわせの材料でたてられた家が不規則にならんでいて見通しがわるく、道端にはごみが落ちていて雑然としていた。


歩いていると、道の脇には酒をちびちびと飲みながらボーっとしているひとや、身じろぎもせずにずっとうつむいているひとなどを見かけた。


さて、なにから始めようかと考えながら歩いていると、3人の男が横に並んで道をふさいでいた。


「おいガキ、このへんじゃみねえ顔だな」


真ん中の髭もじゃで太めの男が、こちらをねめ付けながらいってきた。

左右の細長いのと小柄な男がこちらを見下すようににやにや笑っていた。


「だまってねぇでなにかいえや」


左右の男が取り囲むように近づいてきた。

そのとき、右側から石がとんできて細長い男の頭にあたりゴツッと音を立てた。


「いってぇ」


「だれだ!!」


石があたった男は頭に手をあててうずくまり、他の2人が叫びながら石の飛んできた方向をみた。

今度は逆方向から石が飛んできて他の2人にも当たった。


「くそっ、どこにいやがる」


男たちが背を低くして頭をかばいながらあたりを見回していると


「こっちにこい」


男の子が右の路地から手招きをしていた。


後ろをついていくと、男たちが顔を真っ赤にして叫びながら追ってきていた。


「まちやがれ!!」


「ここをくぐって」


塀でかこまれた袋小路にくると、塀の一部がこわれて子供が通れるぐらいの穴ができていた。


「ここまでくれば、だいじょうぶだ」


「助けてくれてありがとう」


穴をくぐり道をぐねぐねと進んでいき、ついた先の家の中に連れてこられた。


「おまえみない顔だけど、スラムにきたのははじめてか」


「今日きたばっかりだよ」


「ここは危ないから、すぐにでていくんだ」


男の子は怒ったような顔をしながら言ってきた。

そのとき、玄関の扉が開き、女の子と男の子の2人が入ってきた。


「ただいま~、大丈夫だったみたいだね。よかった~」


「まったく、おまえの無茶につき合わされるのは疲れる」


女の子が笑顔で声をかけてきて、もう一人の男の子がため息をついていた。


「わたしはモニカ、こっちがヤンで、もう一人がパロマね。あなたの名前おしえてほしいな」


「わたしはユエよ、さっきはありがとうね」


モニカはくりっとした大きな目でわたしを見つめていた。

ヤンは最初に声をかけてきた男の子で、口をへの字にしていてやんちゃそうな感じだ。

もう一人の男の子のパロマは、子供にしては落ち着いた雰囲気をもっていた。


「ここはあまりよくない場所だから、早くもどったほうがいいよ」


「ちょっと事情があって戻れないんだ」


「村の口減らしか……」


何かを察したようにパロマがつぶやき、それをきいたモニカがわたしの手をにぎりながらはげましてきた。


「だいじょうぶ!!ここで一緒にがんばっていこ」


「おい、なに勝手に決めてんだよ」


「なによ、ヤンは反対なの」


ヤンとモニカがにらみ合っていた。そこにパロマが割って入った。


「採集にいくときに人手が欲しいって言ってたろ、ぼくらと年も近いみたいだしちょうどいいだろ」


「ちっ、しょうがねえな」


しぶしぶヤンはうなずいた。


「それじゃあ、おばあちゃんと他のみんなにも紹介するね」


モニカが家の奥にむかっておばーちゃーん、と声をかけると、腰の曲がった老婆が杖をつきながら出てきた。


「なんだい、さっきからさわがしいね」


「タニアおばあちゃん、新しい子をいれたいんだけど、いいかな?」


「ふん、いまさら一人二人増えようがかわらんよ」


タニアさんがこの家の主人のようだ。

ところで、さっきから奥の扉のスキマから何人かがのぞいてるのが気になる。


「おーい、他のみんなもでておいでー」


モニカが奥に声をかけると扉がひらき、小さい子供がわらわらとでてきて、わたしのほうをじっと見ていた。


でてきた子供は5人で、なんでこんなに子供がいるんだろうか…


「まさか、みんなタニアさんの子供!?」


「そんなわけあるかい!!勝手にあつまってきたガキどもさ」


タニアさんに大声で怒鳴られた。


気を取り直してみんなの方をむいて、かぶりっぱなしだったフードをとった。


「えーと、ユエっていいます。突然お邪魔することになりましたがよろしくお願いします」


反応がなく、みんなが黙ってわたしの顔をみていた。


「ユエって、もしかして貴族様?」


「なにいってんの、ただの平民だよ」


変なことをいってきたモニカにあきれながら返事をした。

そのとき、ぐ~という腹の虫の音が聞こえ、子供のひとりがモニカの服のすそをひっぱった。


「おねーちゃん、おなかへったー」


「ごめんね、ちょっと待っててね」


食事の用意を手伝おうかとおもって声をかけたら、あっためるだけだから大丈夫といわれた。

鍋にスープがつくってあり火にかけて温め終わると、よそった皿を配ってからみんなで席についた。


「コラ、のこさないの」


「えー、これきらーい」


野菜クズのはいった味の薄いスープで、苦手な野菜を残そうとする子供をモニカがしかっていた。


「食べねえと、おおきくなれねえぞ」


「みてみてヤン、ぼくは全部たべられたよ」


えらいえらいといいながらヤンがほめていた。

10人近くの人間がわいわいと食事をしていて、とてもにぎやかだった。

食事の片付けがおわり、そろそろ日が暮れそうになっていた。


「さあ、みんな寝るわよ」


モニカがこどもたちを奥の部屋につれていった。

部屋の床にはわらが敷いてあり、薄いシーツをかぶって寝るようだ。


季節は冬に入りかけていて、だいぶ寒くなってきているので、みんなで身を寄せ合って寝た。


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