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閑話 メールビットのお茶指導

今日も馬で遠乗りに出かけたアレキサンダー様を出迎えた。


「あたらしい使用人を手に入れたから用意しておけ」


「どのような人物でしょうか?」


いままで多くの使用人を雇っては、すぐにやめていったので今度はすぐにやめないような人物が望ましい。


「ラクヒエ村でみつけた10歳前後の女のガキだ」


いくらなんでも子供では役に立たないだろうとおもいながらも


「かしこまりました、準備を整えておきます」


メイド服の発注や使用人用部屋の準備をし、1週間後に問題の子はやってきた。

衛兵から連絡を受けたクロードが門まで迎えにいき、部屋までつれてきた。


「ユエといいます。よろしくおねがいします」


わたしの胸ぐらいの背丈を縮こまらせながら挨拶をしてきた。

銀色に見えるほど透明感のある白髪に、白い肌をしており金色の目が特徴的な子だった。


教育はカティアにまかせ数日たったころ、いつものようにお茶をアレキサンダー様の居室まで運びにいったところ、機嫌を悪かった。

あの子が何かしたかと思い、カティアに聞きに行った。


「新しい子に関してなにか問題はないかしら」


「いえ、全然ありません。むしろ飲み込みが早くて助かってますよ」


確かに最近二人で仕事をするようになってから、屋敷の仕事が終わるのが早くなっていた。


「それと、アレキサンダー様への対応についても問題なさそうです。あの子なら長く続きそうですよ」


カティアがなにか意味ありげな笑みを浮かべていた。アレキサンダー様の悪癖がでてユエにちょっかいをかけたらしいが、うまく対応したらしい。


「そう、それならいいわ。引き続きユエへの教育頼むわね」


それから1週間後、お茶の時間にアレキサンダー様の居室にはいると、アレキサンダー様が不機嫌な様子でつぶやいていた。


「あいつの苦しむさまを何とか見れないか」


主の独り言には聞かない振りをしてお茶を淹れていると、ふと思いついたようにニヤニヤ笑いながらいった。


「そうだ、1週間後に開催される珍品展示会にあやつを連れて行こう。不慣れな場にきてオタオタする様はさぞ愉快であろうな」


ユエに珍品博覧会のことを伝えると、頭を抱えていた。

アレキサンダー様としては、このまま連れて行きユエの様子を見たいのだろうが哀れなので、パーティーでのマナーや貴族への対応を教えることにした。


いつもの服飾屋に急ぎでドレスの仕立てを頼んだところ、展示会の2日前で出来上がった。

服飾屋の主人は、ユエをみたら創作意欲がわいて徹夜してつくったといっていた。

ドレスは純白で慎ましやかな飾りをつけたものだったが、ユエの肌の白さや髪の色とあいまって神秘的な雰囲気をだしていた。


展示会当日になり、アレキサンダー様とユエが帰ってきたので出迎えた。


「おかえりなさいませ、アレキサンダー様」


「公爵家のヨハン殿の誕生パーティーに招待されることになってな、準備をたのむぞ」


上機嫌のアレキサンダー様から命じられたが、一方でユエは意気消沈していた。

ユエも公爵家のヨハン様に気に入られたらしく一緒に招待されたようだ。


誕生パーティー用のドレスの仕立てを服飾屋にたのむと、疲れた顔をしてるのに目をギラギラとさせながら喜んでいた。

今度は社交場にでることになるので、1ヶ月間かけてダンスをみっちり教えた。

飲み込みが早かったので、社交界で踊ることの多いワルツのほかに、タンゴも教えておいた。


誕生パーティーから帰ってきたアレキサンダー様は浮かない顔をしていて、ユエはおもしろがっているようだ。


話を聞くと、公爵家主催の鹿狩りに招待されたようだが、たしか、アレキサンダー様は弓を習熟していなかったはずだ。


次の日から弓の訓練がはじまった。以前、王都で一目見て衝動買いしたという大弓を武器保管庫から探し出し、アレキサンダー様に渡した。


大弓を引くことができず、代わりにユエが出した弓、たしかあれは幼少の頃アレキサンダー様が使っていらしたものだ。

あの頃を思い出したのか、アレキサンダー様は複雑な表情をなさっていた。

おそらくあの弓は使うまいと思ったが、迷った表情をしたあと弓を掴み取り訓練をはじめた。


それから、アレキサンダー様は精力的に訓練にはげんでいて、その姿を見ていると旦那様と奥様がいらっしゃった頃を思い出した。


昼食がおわり食後のお茶を出しているときに、アレキサンダー様からいわれた。


「午後の茶はユエにいれさせろ。弓のことでアレコレいわれるてるからな、今度はオレがあいつを指導してやろう」


口元をゆがめニヤニヤしながらいっていた。

午後の決まった時間にお茶を飲むのが王国の習慣となっていて、特にアレキサンダー様はお茶の味への注文が多い。


ユエにお茶の淹れ方を教えて、居室にもっていかせた。

メイド長室で帳簿の整理をしていると、悔しそうな顔をしたユエがやってきた。


「メールビットさん、もういちどお茶の淹れ方を教えてください!!」


さんざんダメだしを受けたようで、絶対においしいといわせてみせるといきまいていた。

それから、朝は弓の指導をユエがして、午後にお茶の指導をユエが受けるという流れが続いた。


「メールビットさん、このお茶の葉はどんな味なんですか?」


お茶の味にこだわりのあるアレキサンダー様を満足させるために、様々な種類のお茶が台所に置かれていた。


「それは、さわやかな香りでリラックスさせる効果のあるお茶よ」


ふむふむといいながら、ユエはうなずくと


「今日はこれにします」


「どうして、それにするのかしら」


「今日の訓練でアレキサンダー様、力を入れすぎていたのでリラックスしてもらえたらと思って」


そういうと、ユエは真剣な表情でお茶を淹れ始めた。

アレキサンダー様の居室から戻ってきたユエは、今日は何も文句を言われずにすみましたと笑顔で報告してきた。


鹿狩りの日となり、自身に満ちた表情のアレキサンダー様がでかけたのを見送り、獲物がとれなくとも無事に帰ってくることを心の中で祈った。


鹿狩りから帰ってきたユエは頭に包帯を巻いていて、アレキサンダー様はひどく落ち込んだ様子だった。

クロードから、ユエがアレキサンダー様をクマから守って傷を負ったと後からきいた。


次の日から、アレキサンダー様はお変わりになった。

剣の訓練を再開し、いままでクロードにまかせていた政務にも積極的に関わるようになった。

その姿をみたユエが戸惑っていたのには、クスリと笑ってしまったが、原因は自分にあるとは気づいていないようだった。


執務室のアレキサンダー様にお茶をお出ししていると、咳払いをして気恥ずかしそうにしながら声をかけてきた。


「メールビット、いつも茶をいれてくれて感謝している。これからも頼む」


「恐縮です。わたくしめの務めですので」


戦争で奥様がお亡くなりになって、オルレアン様も砦にずっと詰めるようになってから、屋敷で一人になったアレキサンダー様はいつも不安そうにしていた。

今のアレキサンダー様は自分の拠り所をみつけたように、表情がやわらかくなっていた。


願わくば、こんな日々が続きますように……

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