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17. ある日の公爵家

わたくしはレティシア、公爵家の長女だ。

将来は王家に嫁ぐことになっているため、貴族学校に通いマナーや教養などを学ぶ日々を過ごしている。


王国の総騎士団長を務めるお父様の跡をつぐマルク兄様は、貴族学校の騎士課程を優秀な成績で卒業し、バルンシュタイン家も安泰だといわれている。


弟のヨハンは兄様のような立派な騎士になりたいといってがんばる姿は、とてもけなげでかわいらしかった。


しかし、最近の弟のヨハンの様子が変わった。

以前まではマルク兄様の後を追って武術の訓練をしているようだったが、最近はなにか目標にむけてがんばっているようだ。


変わったのはこの前の誕生パーティーあたりからだろうか。あの子も来年成人を迎えるからがんばってるってことかしら。


学校からもどってくると、今日も訓練場の方から矢を打ち込む音が聞こえてきた。

訓練場の方に顔をだすと、わら束にむけて真剣な目つきで矢を打ち込むヨハンがいた。

もともと真面目な子ではあったが、最近はさらにひたむきにやるようになっていた。


「ヨハン、ただいま」


声をかけるとこちらに気づいたようで、構えをといてこちらを振り向いた。


「姉上、おかえりなさい」


こちらに笑いかける顔はまだ幼さを残していてとてもかわいい。

タオルを渡すとありがとうといいながら汗をぬぐっていた。


「あなたも毎日がんばるわね」


「うん、早く上手くなりたいんだ」


そういって、手元の弓をみつめるヨハンの目はなにかを追い求めるようにまっすぐだった。

がんばってねといって訓練場をでて、居間でお茶をのんでゆっくりしていた。


「おかえり、レティシア。わたしもお茶をもらおうかな」


マルク兄様がわたしの前に座り、メイドに注文していた。

ただいまと返事を返し兄様をみた。


「兄様も大変そうですね」


兄様は学校を卒業した後、公爵家の跡取りとして父様の手伝いをしていて忙しそうだ。


「そうでもないさ。毎日やりがいがあって充実してるよ」


顔に疲れをみせず微笑んできた。このひとが、とまどったり疲れたところをみたことがないな。


「最近、ヨハンががんばってるようですけど、なにか知ってますか?」


「それはわたしの口からはいえないね。ヨハンにもがんばる理由ができたってことだよ」


何か知ってるようだったけど、はぐらかされてしまった。


秋になり、グエン父様とマルク兄様が鹿狩りにいって帰ってきた。

ひさしぶりに一家揃って夕飯の席につくことができた。


「今年の鹿狩りはなかなかの成果だったぞ」


お父様が上機嫌に、今日の鹿狩りについて話していた。

ヨハンはお父様の話を、目をきらきらさせながら聞いていた。

この子は、冒険譚などの話が好きで、話にでてくるような立派な騎士になりたいといっている。


「なんといっても、今日の大物はクマだろうな」


「クマですか、それはずいぶんと大物を狩られましたね」


「うむ、倒したのはプレンジア家嫡男のアレキサンダーとその従者の二人だった。できればおれも戦ってみたかった」


「危ないですからよしてください」


息まくお父様にお母様がたしなめていた。

プレンジア家といえば救国の英雄オルレアン様の家だったな。さすがは、英雄の息子といったところか。

そこに、ヨハンが身をのりだして聞いてきた。


「父上、その話をもっと詳しくお聞かせください!!」


「オレも実際の戦いをみてないからわからないが、クマの死体には脛と首筋に深い切り傷がついてて、目に刺さっていたナイフがとどめになったと、検分していたハンターがいってたな」


ヨハンは食いつきに気をよくしたお父様は気分よく話していた。だけど、ヨハンの聞き方が従者の方に偏っている気がした。


従者について気になったので、夕食後マルク兄様に聞いてみた。


「アレキサンダー様の従者ってどんな方でしょうか」


「ユエっていうかわいらしい女性だよ」


女性とは意外だったが、騎士のなかにも少数であるが女性もいるので不思議ではなかった。


「たしか、レティシアもあってるはずだよ」


心当たりのありそうな女性を思い出そうとしてしていると


「今年の夏に開いたヨハンの誕生パーティーにアレキサンダー殿が来ていただろ。そのときにパートナーとして連れてきた女性だよ」


「思い出せないですわ」


「たしか、タンゴのときにアレキサンダー殿と踊っていたはずだよ」


思い出した!!小さい女の子と激しいダンスを踊っていて印象に残っていた。

そういえば、ヨハンともワルツを踊っていたわね。


透き通るような白い髪をもち人形みたいに整っていた女の子だったな。

どこの家の子かとおもったけど、まさかプレンジア家の使用人だったとはね。


「お兄様、わたしを担ぐのはよしてください。あんなかわいらしい子がクマをナイフで倒すなんてありえないでしょう」


「見た目で判断するのはよくないよ。彼女はハンターをやっていたらしくてね、誕生パーティーの後にうちに招いて、ヨハンに弓の指導をしてもらったのさ」


そういえば、わら束を使った訓練方法をするようになったのも、その頃だったな。

もしかして、ヨハンがあんなにひたむきに弓の訓練をつづけるのも、あの子に教えてもらったからか。


「お兄様、もしかして将来はあの子をうちの家にいれることを考えているのですか?」


「それはヨハン次第だろうね」


相変わらず微笑みながらはっきりとした答えを聞けなかった。お兄様って、なにを考えてるか分からないことが多い。

婚約者のアンジェリカ義姉様もこの人相手だと苦労しそうだ。

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