16. アレキサンダーの変心
狩りに参加した貴族やハンターたちが野営地に集まり、グエン様が閉めの挨拶を始めた。
「皆のもの、鹿狩りご苦労であった。今回は鹿3頭を狩ることができ、さらにクマという大物まで倒した。止めをさしたのは、今回初参加となるアレキサンダーだ」
アレキサンダー様にみんなの目が集まり、貴族たちは感嘆した顔をしていた。
「これにて今年の鹿狩りを終わりとする。また腕を磨いて来年の参加をまっておるぞ」
帰り際に他のハンターたちのところに挨拶にいくと
「坊主…じゃなかった嬢ちゃん、すまんかった」
タルカスさんがぶっきらぼうに謝ってきた。
「タルカスさんは貴族の皆様を守りきれてました。猟犬をつかってクマを追い返すのはタルカスさんじゃないとできませんでしたよ」
わたしの言葉をきいて、照れたように頬を指でかいていた。
「なにを照れておるんじゃ。もう一度おまえには教育が必要だな」
「勘弁してくれ!!森の中に1週間もこもるとかもうイヤだー」
コルタナさんがタルカスさんをひきづっていった。
森から出発し、馬車の御者席にのり屋敷へと向かっていった。
来たときと同じようにとてもいい天気で、狩りでの疲れもあり眠くなってきた。
「ユエさんお疲れでしょうから、御者はわたくしにまかせて休んでください」
「すいません、それじゃあ、少し休ませてもらいます……」
隣で馬の手綱をつかんでいるクロードさんから声をかけられたので、お言葉に甘えて寝ることにした。
「ほんとうに… おつかれさまでした」
クロードさんがポツリとつぶやいたのが聞こえたがまぶたが完全に落ちた。
目が覚めると、夕日に染まる街が見えた。
「お目覚めですか」
「ありがとうございました、よく眠れました」
街の門を通り屋敷に到着した。
アレキサンダー様が馬車からおりてきたが、なんだか不機嫌そうな様子だ。鹿を1頭狩って、さらにクマを倒して周囲から賞賛されていたのに、なぜだろうか。
玄関の前に立ってメールビットさんが出迎えた。
「アレキサンダー様、おかえりなさいませ」
「今日は疲れた。もう休むことにしよう。それとクロード、後で話があるから部屋に来い」
そういって、屋敷の中に入っていった。
その後、寝る前に部屋でカティナねえさんと鹿狩りであったことを話すと、ケガは大丈夫かと心配されてしまった。
次の日の朝、屋敷の裏で洗濯をしていると、素振りをしているような音がした。
音のしたほうを見ると、訓練場でアレキサンダー様が剣を握っていた。
鹿狩りはもう終わったのに、真面目に訓練に励んでいることに目を疑った。
「よそみしているんじゃない、早く仕事をしろ」
こちらに気づいたようで、気まずそうな顔をしながら言ってきた。
その後も、アレキサンダー様の異変は続いた。
昼食の席ではクロード様と領地の政治に関する話をしていた。
アレキサンダー様の私室の掃除にいったら、いつもは一日で散らかっているのに整理整頓されていた。
ほとんど使うのを見たことがなかった、執務室に入っていく姿をみた。
「大変です、メールビットさん!!アレキサンダー様がおかしくなってしまわれました。もしやご病気なのでは……」
メイド長室にいき、メールビットさんに今日見たことを報告した。
机の前にすわり書類を書いていたメールビットさんは、おちつきなさいと静かにいった。
「アレキサンダー様は領主代行なのです。おかしなことはしてないでしょう」
「いえ、でも、しかし… あんなに領主代行っぽい姿をみるなんて初めてで」
「気にせず、あなたは自分の仕事をしなさい」
メールビットさんにピシャリと言われ、部屋を退出した。
それからも、アレキサンダー様が精力的に政務に励んでいる姿をみた。
この前は、領地内の村から要望書がきて、たびたび洪水をおこす川があるので、堤をつくるための下見にいくなど、領民からの声も積極的に聞いているようだ。
一体、アレキサンダー様に何があったんだろうと首をかしげた。




