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13. 訓練の時間

次の日、アレキサンダー様を訓練に呼びにいくとベッドの上でうなっていた。


「訓練の時間ですが、どうされましたか」


「体中が痛い、今日は無理だ」


「普段使わない部分を使ったので、筋肉痛になってるいらっしゃるようですね」


「そんなことはわかっている、なんとかせんか…」


こちらをうらめしそうな顔でみてきた。


「それでは、体をほぐしますので失礼します」


うつぶせになってもらい太ももや腰のあたりをゆっくりとほぐしていった。

わたしの背丈では立ったままではやりにくかったので、ベッドの上にあがって体重を使ってほぐしていった。


その時、ドアをノックする音がしてからクロードさんが部屋の中に入ってきた。


「……アレキサンダー様、メイドと関係をもつのはよろしいのですが、このような昼間からいたしますのは感心いたしません」


「バカモノ!!そんなわけあるか」


アレキサンダー様が上にのっているわたしを跳ね除けながら叫んでいた。


「ちがいますよ!!体が痛いとおっしゃるのでほぐして差し上げてただけです」


ベッドから転げ落ちて、受身をとって立ち上がりながらクロードさんに抗議した。


「これは失礼いたしました。ところで、この書類へのサインをお願いいたします」


すずしい顔をしながら書類をアレキサンダー様に差し出していた。クロードさんの顔をよく見ると口元が若干ゆるんでいた。


次の日、アレキサンダー様の筋肉痛がひいたようなので訓練を再開した。


「前回で弓を射る感覚がつかめたようなので、今日から一歩ずつ的から離れて距離になれていきましょう」


「今日は二歩離れた場所からか…」


アレキサンダー様は嫌そうな顔をしながら訓練を始めた。


訓練が終わった後、アレキサンダー様から腹いせに、なれないお茶を淹れるように命じられてさんざんダメだしをされたのは、また別の話。


訓練を始めて1週間したあたりからアレキサンダー様はコツをつかめたようで、訓練を進んで受けるようになった。


「今日は80射する。わら束から10歩以上はなれても当ててみせるぞ」


アレキサンダー様が真剣にわら束を見つめがら、黙々と矢を射っていた。その様子をメールビットさんと一緒に見ていた。


「アレキサンダー様の調子はかなり良いですね。そろそろ、次の練習に移ってもよさそうです」


「ええ、そうね。こんなに真剣なアレキサンダー様をみるのは久しぶりです」


メールビットさんが昔を懐かしむように目を細めていた。そういえば、気になっていたことがあったので聞いてみることにした。


「アレキサンダー様は弓の基礎ができていらっしゃったようですが、以前にも訓練をしていたのですか?」


「父君であるオルレアン様と奥様が、仕事の合間を縫って、訓練をなさっていたわ。でも、戦争後、オルレアン様が国境の砦に詰めるようになってからは、訓練はなくなったわね」


メールビットさんは静かな口調で話してくれた。

そこに、アレキサンダー様が矢がささったわら束を得意気な顔で指差していた。


「おい、みてみろ!! 12歩離れても当てられるようになったぞ」


その様子をみてメールビットさんの口元が緩んでいた。


「1日1歩づつ離れていく予定でしたが、1週間でここまでこれるとはすばらしい進歩です。明日からは次の練習に移りましょう」


「ほう、つぎからはどんな練習にするのだ」


「それは明日説明いたしますので、今日のところはこれで終わりにしましょう」


アレキサンダー様は少し残念そうな顔をしながら屋敷に戻っていった。


次の日、呼びに行く前にすでにアレキサンダー様が訓練場で待っていた。


「おそいぞ、早く始めろ」


「申し訳ありません。それでは今日の訓練をはじめます」


「それで今日の練習はどんなことするんだ」


アレキサンダー様が待ちきれないような顔をしながら聞いてきた。


「今日は的の上空に向かって矢を放っていただきます」


「なぜだ、的に向かって射ればよいではないか」


「いままでは、短い距離でしたので風の影響を受けませんでしたが、長い距離で射た場合の風による矢の変化を実感していただきます」


あまり納得できていない表情をしながら、矢を上空に向かって放った。


「今は風が東に向かって吹いています。矢の変化を覚えてください」


それから、十数発上空にむけて矢を放った。


「なるほど、風であおられて矢がけっこうずれるな」


「風の強さや向きでも変わるので、風せいでずれた矢の変化を意識しながら、的を狙ってみましょう」


「ようやく的を狙えるのか。見ていろ一発であててやる」


アレキサンダー様はニヤリと口の端をゆがめると、的に向かって弓を引き絞り矢をはなった。


「くそっ、外したか」


矢は的からはずれそばの壁に突き刺さった。


「一射目であそこまで近くにいけば上出来ですよ」


「当たらなければ意味がない」


アレキサンダー様は悔しそうにしながら矢を放っていき、十数発放つ頃には的の近くに刺さるようになった。


それから1週間、的にむかって矢を射つづけた結果、的の端に矢が刺さるようになった。

アレキサンダー様は、的に刺さった矢を見て満足そうな顔をしていた。


「おめでとうございます。訓練をつづけた賜物です」


「次は中心にあててやる」


喜びをおさえきれないのかアレキサンダー様の口元が緩んでいた。


「鹿狩りにはこちらの弓でいくのでしたら、今のうちになれておくといいですよ」


わたしは訓練初日にみた黒い弓を渡そうとした。


「いや、鹿狩りにはこの弓でいく、ここまで共に練習してきたのだ」


練習でつかってきた弓をかかげて、大事そうに見ていた。


「それに、そんな力を入れないとひけない弓など不良品だ。貴様にくれてやる」


「このような高級品よろしいのですか?」


驚いて聞き返したが、アレキサンダー様はそっぽをむいていた。どうしようかと思ってメールビットさんの方をみると


「これまでの訓練の褒美とおもっていただいておきなさい」


アレキサンダー様に礼をいったが、まだそっぽをむいていた。


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