12. 告白
別宅への帰り道、馬車の中でアレキサンダー様はまずい、まずいといいながら頭を抱えていた。
「アレキサンダー様、どこかお加減でも悪いのですか」
「ちがう…できないのだ」
なにか言いかけたようだったが、聞き取れなかったので聞き返すと
「おれは弓などできないのだ!!」
アレキサンダー様はやけになったように大声でいった。
「しかし、さきほどあのわら束を使った練習法で訓練を続けているといってたではありませんか」
「あれは… あの場にあわせて言ったに過ぎない。まさか、鹿狩りに誘われるとは思わなかった」
「それでは、お断りすればよかったのではありませんか」
「いいか、公爵家主催の鹿狩りはな、参加するだけでも大変名誉なことなのだ。参加したということを話せば大抵の貴族からうらやましがれるほどだ」
つまり、誘われて舞い上がってしまい、つい承諾したってことか。
アレキサンダー様は、また頭を抱えながらぶつぶつと何かいっている。
まあ、いつもその場にあわせて話すことへの報いだろうなと内心笑っていると、アレキサンダーが急に顔をあげてこっちを見てきた。
「そうだ!!あと2ヶ月後の鹿狩りまでにおれが弓をつかえるように、貴様が教えろ」
「2ヶ月でですか、それは少々難しいのでは…」
「無理でもなんでもやらねばならん!!すぐに屋敷に帰り訓練を始めるぞ」
アレキサンダー様は必死な顔をしながらわたしに命令してきた。
別宅にもどると、荷物をまとめてからジョスさんへのあいさつもそこそこに、すぐに屋敷に向かった。
屋敷に到着するとメールビットさんが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、アレキサンダー様」
「ああ、いまもどったぞ。それよりも、以前取り寄せた黒弓を用意しておけ」
「かしこまりました、すぐにご用意いたします」
そのままアレキサンダー様は自室に戻っていった。
「ユエ、ご苦労だったわね。むこうで何か問題はありませんでした」
「誕生パーティーは問題なかったのですが、あたらしい問題がでてきました」
ねぎらいの言葉をかけてくれるメールビットさんに、鹿狩りについてのこととアレキサンダー様の弓の訓練について説明した。
「なるほど、それで弓の用意を命じたのですね」
「あの、訓練場ってこの屋敷にもありますか?」
「訓練場なら屋敷の裏の土地がそうです」
屋敷の裏っていうと、いつも洗濯物を干すのに使ってるな。そういえば、弓の的のようなものが転がっていたような気がした。
「訓練場の準備をしておきます」
屋敷の裏にまわると、確かに訓練場のようなものはあったが、雑草がはえておりすぐに仕える状態ではなかった。
今日のうちに、整備を終わらせないといけないと考えるとためいきをでた。
翌日、アレキサンダー様の訓練を開始した。訓練場にはアレキサンダー様とわたし、メールビットさんが立っていた。
「さあ、弓の訓練をはじめるぞ。おれの弓をよこせ」
メールビットさんがアレキサンダー様に弓を渡した。弓は黒塗りで、全長がわたしの背よりも大きかった。
「どうだこの弓は!!王都の弓製造で有名な工房がつくりあげた一品だ。この弓ではなった矢ははるか遠くの敵を射抜くらしいぞ」
そういいながら、得意げな顔で弓に矢をつがえて、弦をひこうとした。
「なんだ、これは、びくともせんぞ…」
顔を真っ赤にして力をいれていたが、弓をひけていなかった。
「アレキサンダー様、それは大弓です。それをいきなり扱うのはむずかしいので、まずはこちらの短弓からはじめましょう」
訓練場を整備しているときにみつけた弓を渡した。訓練用につかっていたもののようで、扱いやすい弓だった。
「その弓は…」
弓を見て、複雑そうな顔をしていたが、しばらくしてから弓を受け取った。
「わかった、それを使おう」
「弓の構えはご存知でしょうか」
「馬鹿にするな、知っている」
矢をつがえ弦をひきしぼると左腕と背中と矢が平行になり、しっかりとした姿勢になっていた。
基礎はできていそうなのに、どうして弓ができないなんていったのか気になったが、今は訓練を続けることにした。
「それではわら打ちから始めましょう」
昨日のうちにつくっておいたわらの束を的にして練習をしてもらうことにした。
「まずは、一歩はなれた位置から射てください」
矢はボスッというくぐもった音を立ててわら束に突き刺さった。
「その調子です。今日は50射うってください」
「なに!?そんなにやるのか」
「時間がないのでできる限りのことをしていただきます」
「チッ… しかたない」
舌打ちをしながらアレキサンダーさまは黙々と矢を射ていった。
「…47 48 49 50 おわったぞ…」
訓練を始めて2時間すこしたったころ、アレキサンダー様がへとへとになりながら最後の一射をおわらせた。
「お疲れ様です。構えが安定してきているので、明日も続けていって体に覚えこませていきましょう」
「これをあと2ヶ月もつづけるのか。もっと楽な方法はないのか」
嫌そうな顔をするアレキサンダー様に、メールビットさんが近づきタオルと飲み物を手渡した。
「どうぞこちらを飲んでください」
アレキサンダー様は顔の汗をぬぐいながら、飲み物を一気に飲み干しすと、人心地ついた表情をした。
「さあ、汗をかいていらっしゃいますので、こちらへどうぞ」
そういいながら、メールビットさんがアレキサンダー様を屋敷の中へ連れて行った。さすが、アレキサンダー様の扱いに手馴れている。




