閑話 ユエからの手紙
ユエが屋敷で働きはじめて1週間たったころの話
ユエを屋敷に送ってから、しばらく街に滞在していた。その間、ユエが領主の息子にひどいことされているんじゃないかと、気が気ではなかった。
滞在費を稼ぐために狩りにでかけ、宿に戻ると女将から声をかけられた。
「少し前にユエちゃんがきてね。ニコラスさんに手紙を渡すように頼まれたんだよ」
手紙を受け取ると、オレはすぐに部屋にもどり中身を読んだ。
『 ニコラスじいちゃんへ
会いにいったけどいなかったから手紙で伝えるね。
屋敷で働き始めてからちょうど1週間がたったけど、問題なくやっていけそうです。
他の使用人のひとたちはみんないいひとばかりで、おいしいごはんも食べさせてもらってます。
じいちゃんがいっていたアレキサンダー様も、少し意地悪なところがありますが、いいところは……これから見つけたいと思います。
また会える日を楽しみに待ってます ユエ 』
文面から、ユエが屋敷の生活を楽しんでる様子が感じられた。
だが、まだ不安だった。
「うーむ… よし、見に行こう!!」
うちの家訓は思い立ったら即行動だ。
次の日、朝日の昇る前に屋敷の裏手まできた。この時間なら人通りもなく忍び込みやすそうだった。
塀をよじ登り敷地の中にはいり、あたりを見回すとどうやら裏庭にでたようだ。
(さて、ユエはどこにおるかな)
近くを探すと、馬小屋があったので中をのぞいてみた。
(さすが領主様の屋敷だ。なかなか、いい馬がそろっているな)
「カールさん、おはようございます」
「おはよう、ユエちゃん」
メイド服姿のユエがあいさつをしながら馬小屋にはいってきた。
(おお!!メイド服もなかなか似合ってるではないか。しかし、なぜ馬小屋にきたんだ?)
疑問に思いながらも見ていると、ユエが馬の世話を手伝い始めた。
朝日が昇りきる頃になると、ユエは屋敷の方に戻っていき、もう一人の若いメイドと一緒に玄関の掃除を始めた。
(馬の世話に続き、屋敷の掃除までやっているのか)
それから、屋敷内の掃除をするユエを見ていた。
「ユエ、廊下を走ってはいけません」
「申し訳ありません!!なるべく足音は立てないように気をつけます」
「そういう問題ではありません。それになんですかその量はもっと小分けになさいな」
「一度にたくさん運んだほうが早いとおもってですね」
体がうずもれるほどの大量のシーツを入れたかごを両手で持って運ぶユエを、初老のメイドがしかっていた。
大量の洗濯物を干し終えたユエは、各部屋の掃除、廊下の窓拭きなどをやり終えた。
「おっし、終わった。カティアねえさん、こっち片付きました」
「相変わらず早いねえ。お昼ごはんにしようか」
厨房の窓越しに、部屋の隅におかれたテーブルの前に座ったユエの姿が見えた。
そこに、コック姿の男がいいにおいのする料理を持ってきた。
「わぁ、おしいそう。ボルクさんいただきますね」
幸せそうな顔をしながら食事をするユエに、男が話しかけた。
「ユエ、すまないが、イノシシの肉が必要でな。とってきてくれるか」
「わかりました!!その代わり、晩御飯期待してますよ~」
食事が終わってから少しすると、屋敷の裏口からユエがでてきた。
ユエはメイド服姿で、矢筒を背負い弓を持っていた。
(弓をもって一体どこにいくんだ?)
裏門からでて、そのまま町の外の森までいくユエの後を気配を殺してついていった。
森の奥にすすんでいくと、ユエは身をかがめゆっくりと歩き始めた。
その先には、1メートルを超えるイノシシがいた。
ユエは、イノシシを狙いやすい位置にくると弓を構え矢を放った。
矢はイノシシの目に突き立ち、断末魔の悲鳴をあげて倒れた。
「おし、これで晩御飯が豪華になる~」
ユエはうきうきした様子でイノシシに近づき、よっと、と声を上げて背負った。
(おいおい、大人のイノシシは100kg以上あるんだぞ)
イノシシを背負ったまま、来たときと変わらない早さで街に戻っていった。
いつもは、オレが獲物を運んでいたが、まさかあんなに力があるとはな。それに、目を正確に射抜いていたし、弓の腕前の上達には目を見張るものがあった。
ユエに狩りを教えはじめたのは、たしか3歳の頃だったろうか。
目を離すとすぐに外に出ようとするから、狩りに連れていくことにした。
一緒に歩いていると、急に走り出したので後を追うと、身をかがめて、茂みの中にいるウサギに飛び掛ろうとしていた。
そのときは、ウサギに逃げられてしまったが、天性の狩人の才能を感じさせた。
それから、狩りの仕方を教えるとあっという間に覚えてしまい、獲物をどんどん仕留めるようになった。
(はぁ、なんだか見ていてつかれてしまったわい)
宿に戻ると、女将が出迎えてくれた。
「おや、ニコラスさん、おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
「明日、オレは村にもどるよ。世話になったな」
「お孫さんのことはもういいのかい?」
「ああ、あいつはもう大丈夫だ」
リアナにユエのことを任されて、おれがなんとしても守ってやらねばとおもっていたが、いつのまにかあんなにたくましくなってたのか。
いや、女の子にたくましいという表現はあれか、だけど8歳ごろからあまり体の成長がないんだよな…
次の日の朝、女将にあいさつをして宿を出た。
そういえば、ユエについているアレのことを調べたら、村のばあさまから手がかりになりそうな話をきいた。
昔、ばあさまのばあさまが森の中で、同じような特徴をもつ人間と出会ったことがあるといってた。
森の人と呼ばれていて各地にいたが、その特徴から人間扱いされず、奴隷にされたり、悪魔として教会に捕まったりして姿を消していったそうだ。
村の医者であるトマスに話したら、もしかしたら先祖返りかもしれないといっていた。
「ユエにとって、そのままの姿で安心して暮らせる場所はないのだろうか…」
せめて、オレだけはユエが帰る場所を用意しておこう思いながら、村への道を歩いていった。




