10. ダンス ダンス ダンス
パーティーの日まで別宅の掃除などの手伝いをして過ごし、パーティー当日になった。
今回のために用意されたドレスに着替えて、パーティー会場となるバルンシュタイン家の邸宅に馬車で向かった。
これからのことを考えて緊張してきたので、馬車の中でパーティー会場にはいるときの手順を思い出していた。
「えーと… パートナーと入場してから主催者に挨拶をして、それから挨拶まわりをする間ついてまわって」
「おい、ぶつぶつとうるさいぞ、貴様はおれの後ろについて回ってるだけでいいんだ」
心の中で復唱してるつもりが、口にだしてしまっていたようだ。
頭のなかでパーティーのことを考えてるうちに、バルンシュタイン家にいつのまにか到着していた。
クロードさんが門の前で衛兵に招待状をみせると通してもらえた。
邸宅の前に横付けされた馬車からおりた。玄関口から邸宅のホールまで赤い絨毯がひかれており中からはにぎやかな音がしていた。
とうとうここまで来てしまった。覚悟を決めて、アレキサンダー様と腕を組んで入場しようとしたが、背の高さが違いすぎて組めなかった。
アレキサンダー様が吹き出すように笑うと、手を差し出してきたので手を握って会場に入った。
「アレキサンダー・フォン・プレンジア様とパートナーのユエ様のご入場」
会場内に入ると、名前が読み上げられて、人々がわたしたちのほうを向いた。
さすが公爵家の誕生パーティーだけあって来ている人は貴族ばかりで緊張してきた。
今回の誕生パーティーの主役であるヨハン様のもとに向かうと、ヨハン様の前には祝辞を述べる客の列ができており後ろに並んだ。
「ヨハン殿、誕生日おめでとうございます。このような盛大なパーティーに招待していただきありがとうございます」
「アレキサンダー殿、ご足労いただきありがとうございます」
ヨハン様はすこし緊張した様子ながらも、しっかりとした受け答えをしていた。
よし、次は、わたしの番だ。鏡の前で練習した笑顔を浮かべながらヨハン様に声をかけた。
「ヨハン様、誕生日おめでとうございます。わたしのようなものに声をかけていただいて感謝の極みです」
「ユエさん、きてくれたのですね!!ありがとうございます」
ヨハン様はパッと表情を明るくして答えてきた。もう少し話したそうな様子であったが、次の挨拶の方がきていたので、その場を離れた。
そのあと、アレキサンダー様は積極的に他の貴族たちに話しかけていった。領地の政務も同じぐらいやってくれればいいのにと思いながらも、アレキサンダー様のよこで控えていた。
パーティーにきてから少し時間がたち、会場のステージにがっしりした金髪の男性が立つと、会場が静まりみんなが注目した。
「今日は我が息子ヨハンの誕生パーティーに来ていただき感謝する。今年でヨハンも10歳となり、将来は王国の力となるだろう。王国の発展を願って、乾杯!!」
それから、ワルツの音楽が流れ始めると、公爵家当主と奥様が中央に並んで立ち、続いてマルク様とその婚約者が並んで進んできた。そしてヨハン様と年が同じぐらいの姉と、ヨハン様が手をとりながらが中央に立ち、ダンスを踊り始めた。
これが貴族のダンスか、踊ってる人が美男美女ばかりなのでとても絵になっている。あそこに混ざる勇気はないなと思いながら眺めていた。
公爵家の面々が踊り終わると他の人たちも混ざり踊り始めた。アレキサンダー様もダンスの相手を探すために離れていった。
ここまできたら、あとは壁の花となってパーティーが終わるのを待つだけだ。
なかで踊るきらびやかな人たちの中でアレキサンダー様をみつけたが、どうも相手が見つからないようだ。貴族の令嬢たちに声をかけて誘ってるが軽くあしらわれている。
社交会などでのダンスは男女のお見合いの意味も含んでいるため、相手は重要となってくる。アレキサンダー様にはあれだけよくないウワサがながれてるし、相手も敬遠するよなぁ。
踊っている人々をみているとヨハン様がこちらに近づいているのが見えた。
「ユエさん、よろしければぼくと踊ってくれませんか」
ヨハン様が少しうつむき加減に耳を赤くしながら、わたしの前で手を差し出してきた。みんなみてるし、断ると相手に恥をかかせるよなぁ。
「はい、よろこんで」
ヨハン様がわたしの手をとって、手の甲にキスをしてから会場の中央に進んでいった。
まずは、スカートを引いてヨハン様にむかって礼をしてから、ヨハン様がわたしの右手をそっとつかみ、腰に手を回した。音楽の節目に入ったのを見計らってダンスが始まった。さすが貴族だけあって、ヨハン様は踊りなれているようで、こちらをしっかりと支えてくれてとても踊りやすかった。
音楽がつぎの節目に入ったのをきき、手を離して礼をしてからヨハン様と離れた。また、壁の花となろうと思っていたらアレキサンダー様が近づいてきた。
どうやら相手がみつからなかったらしく、落ち込んでいるのかとおもったが、わたしの手をつかむと中央に歩いていこうとした。
「一度も踊らずにすませたら、おれの面目が保てん。この際、貴様でも構わん」
「あの、わたしとの身長差では難しいのではないでしょうか」
注意したが、構わずアレキサンダー様は中央まで来てしまった。
さあ、どうしようかと思ったとき、音楽が変わってタンゴの曲になり踊っていた人たちがはけていった。
タンゴはテンポの速い曲で激しいダンスとなるのが特徴なので、踊り疲れたひとは一休みすることにしたのだろう。
これはチャンスだと思いアレキサンダー様の片手をがしっとつかみ、にやっと笑いかけた。
「待て、なにをするつもりだ」
「しっかりつかまっててくださいね」
アレキサンダー様が不安そうな表情を浮かべたがもう遅い、さあ片手でおどるタンゴを披露してあげましょう。
片手でつかみながらわたしが振り子の先のように前進と後退をし、さらには回転もしていった。
アレキサンダー様は必死にわたしの手をつかみながら、転倒しないように足を踏ん張っていた。
曲の終わりがちかづいてきたので、最後のフィニッシュを決めることにした。
ジャンプしてからつかんだままの片手を支点にしたまま、アレキサンダー様の背後に着地した。そして、アレキサンダー様の手をとってポーズをとると、丁度曲が終わった。
会場の人々がいつのまにかわたしたちに注目していて、踊り終わった瞬間に拍手をおくってきた。
わたしは手を離して礼をし、アレキサンダー様は目を回しながらも必死に立っていた。
「貴様…」
アレキサンダー様がこちらをむいて、いいかけたところでマルク様が話しかけてきた。
「アレキサンダー殿、見事なダンスでした。あのような激しいダンスは初めて見ました」
「いや、あれはですね…」
まずい、つい悪乗りしてやってしまったことだから、アレキサンダー様になにかいわれる前にフォローしなきゃ。
「あれは本日の余興としてアレキサンダー様が振り付けを考えたダンスです。みなさまも大変お喜びのようでなによりですわ」
「おお、そうでしたか。アレキサンダー殿はダンスについての才能もおありのようだ。それにしても主従での息がぴったりなのがまた見事でしたな」
褒められて気をよくしたのか、アレキサンダー様は上機嫌になってしゃべり始めた。
「そうなんですよ。ヨハン殿への誕生日プレゼントになにが良いかと考えまして、このような余興で盛り上げられればと思いまして」
そして、さきほどのダンスのおかげか、アレキサンダー様を誘う令嬢たちがちらほらといた。
さて、今度こそ壁の花になろうと思っていると、ヨハン様がこちらに近づいてくるのがみえた。




