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1. プロローグ

初投稿作品です。生ぬるい目で見てやってください。

街の中にあるレンガ造りのしっかりした商家の中で、若い男が一室の前でうろうろと落ち着かない様子で歩き回っていた。男は、若いながらも商家を継ぎ、その商才を発揮させており、その服装にも裕福な様子がみてとれた。


時折時計をみてはため息をはきながら部屋をチラとみることをつづけ、小一時間がたったころ、部屋の中から赤ん坊の泣き声がきこえてきた。男ははじかれたように部屋に入っていった。


部屋の中には赤ん坊を抱く母親である若い女と、助産師の恰幅の広い中年女性がいた。


「マーカス、私たちのこどもよ」


女は疲れた様子であったが、とても満足した笑顔をうかべながら夫である男にむかっていった。

一方で助産師の女性がひどく困惑した様子であることに気づいたが、いまは我が子のことが一番であったため、子供の顔をみようと近づいた。

女は子供の顔をのぞいている男の顔を見た。


「なんだ、これは、人間なのか」


「なにいってるの、私たちの子供よ」


男の顔は恐怖でひきつっていた。


「リアナ… おまえ、悪魔と交わったのだな、だからこんな子供が生まれてきたんだ」


男はおびえるように後ずさり、女をにらみつけながらいった。


「そうだ、すぐに教会の方をよんで浄化してもらおう」


そういうと、扉を乱暴に開けて家を飛び出していった。

女は男にいわれたことに呆然としながら、男が出て行く姿をみていた。


そのとき、赤ん坊が不穏な空気を感じ取ったのか激しく泣き出した。

泣き声をきいて我に返った女は、いまなすべきことを考えた。


(このまま、教会の人間がくればなにをされるかわからない)


女はすぐに出産用の服からきがえ、ふらつきながら外にでていった。

道端にとめている辻馬車をみつけると、御者に焦りながらいった。


「ラクヒエ村までお願いします」


「お客さん、これは市内巡回用の馬車ですよ」


御者が嫌な顔をしながら断ってきたので、金貨をちらつかせると


「お客さんは運がいい、ちょうど臨時でラクヒエ村に向かおうとおもっていたんだ」


御者の態度は一変して笑いながら、女を馬車に乗せて走り出した。

走り出した馬車の中で女は一息つきながら、わが子を大事そうにギュッっと抱いた。


「お客さん、ラクヒエ村に到着しましたよ」


「ありがとう、無理をいってしまって悪かったわね」



金貨をわたすと御者は満足気な顔を浮かべ、馬車を走らせて行った。


女は村のはずれの方にある一軒家につくとドアをたたき大声をだした。


「ニコラス父さん、リアナです。助けて!!」


「おまえ、一体どうしたんだ」


家の中からでてきた初老の男に、抱いている赤ん坊をみせ


「追われているの!!子供を助けて」


男は驚いた表情をしながらも「入れ」と短くいった。


辻馬車の御者が、今日は変な女がきたがいい収入になったとニヤニヤ笑いながら、馬車組合に到着すると、教会の人間がいることに気づいた。


辻馬車の御者は組合の馬車を借りているため、組合に馬車を帰りに戻す必要があり、ここで御者に今日乗った人間についてたずねて回っているようだ。


相手は街の教会の司祭と自己紹介をし、今日、赤ん坊を抱いた女を乗せなかったかときかれた。相手を観察したところ、となりにはひどく焦った様子の商人風の若い男が立っていることに気づいた。


若い男の様子をみながら、思い出そうと頭をひねる仕草をした

「そういえばそんな女をみたような、みないような…

もう少しで思い出せそうなんですがねぇ」


「なんでもいい、教えてくれ」


若い男が御者の手に銀貨をにぎらせると、御者はニヤリと笑い、今思い出したようにいった。


「そういえばラクヒエ村に送った、女が一人いました」


御者の言葉をきくと、司祭と商人の二人は急いでその場を立ち去っていった。


激しくドアを叩く音がしたので、ニコラスがドアをあけると、娘の夫であるマーカスと教会の人間らしき男がいた。


「お義父さん、夜分遅くにすいません。妻が子供を産んだ後急にいなくなってしまい、探している最中でして、こちらにきていないでしょうか」


「こちらにはきてないな、娘になにがあったんだ」


「実は妻が産んだ子供には呪いがかかっているようでして、おそらく妻は悪魔にたぶらかされている恐れがあります。そこで、この司祭様に助けていただこうとおもいまして」


そういいながら、司祭に目配せをし、司祭が一歩前にでてきた。


「悪魔は狡猾です、普段どおりにみえてもすでに篭絡されている可能性があります」


「司祭様、もしや義父もすでに悪魔によって惑わされている可能性があります」


「好きにさがせ」


2人の様子をみて、ニコラスは態度をかえないまま家のなかを指差した。

マーカスと司祭は2人で家の中をさがしまわったが、みつけることができず、マーカスに詰め寄った。


「どこに隠した、ここに必ずいるはずだ」


「はじめからここにはいないといっているだろう」


2人はあきらめ切れない様子をみせながら街に戻っていった。


ニコラスは2人が戻っていったのを確認すると、家の隣の納屋の中に入った。

つまれている薪を崩すと下から床の収納扉があらわれた。開けると、中には、干し肉などの保存用の食品がはいっていて、奥の方に赤ん坊を抱いたリアナが青い顔をしてねそべっていた。


「行ったぞ」


「ごめんなさい、お父さん、迷惑をかけてしまって」


女は申し訳なさそうな様子で男に謝りながらでてきたが、ふらつき倒れそうになったところを、ニコラスが抱きとめた。


「おい、大丈夫か」


リアナは意識を失っており、血の気のない顔をしていた。

急いでリアナをベッドにねかせ、赤ん坊も隣にねかせると、ニコラスは急いで村の医者を呼びに行った。


村の中央にある診療所につくと、ニコラスは激しくドアを叩いた。中から白衣をきた中年太りの男がでてきた。


「なんじゃ、こんな時間に」


「すまないトマス、悪いがすぐにきてくれ」


ニコラスは有無を言わせないようにトマスの手を引っ張り、家につれていった。


「リアナじゃないか、どうしたんだ一体」


「事情は後で説明する。いまはとにかくすぐに診てやってくれ」


トマスはリアナの方から先に診療すると、厳しい表情をしていた。


「この衰弱の仕方はひどいな、みれば出産直後のようだし何をかんがえてるんだ」


「なんとかならんのか」


「あとは本人の体力次第だ、目覚めたらこの薬をのませてやれ」


ニコラスはトマスの言葉をきき、表情を暗くした。次に女の隣で寝ている赤ん坊もみようと、赤ん坊をくるんでいる毛布を解くと驚いた表情をした。


「こいつは…… 一体」


トマスはニコラスに事情を聞こうと顔を向けると、ニコラスは固い表情をしていた。


「その子については俺もわからないが、リアナの子供だ。助けてやってくれ」


トマスはうなずき、赤ん坊の診療を始めた。

赤ん坊の健康には問題ないといい、トマスは帰っていった。

ニコラスはまんじりともせずに、リアナが寝ているベッドのわきで一夜をすごした。


明くる朝、リアナが目を覚ましキョロキョロと部屋の中をみわたすと、ニコラスと目が合った。


「おお、リアナ、目をさましたか」


「お父さん・・・わたしの赤ちゃんはどこ?」


「おまえの横でよくねむってるよ」


リアナは、横にいる赤ん坊をみて、その胸に抱くと安心した様子をみせた。


「体の調子はどうだ、苦しいところはないか?」


ニコラスは不安そうにみながらきくと、リアナは大丈夫とうっすらと笑みを浮かべながらいった。

リアナが無事そうな様子をみて、ニコラスは深いため息をはいた。


「ここは安全だ、薬をのんでゆっくり寝ていろ」


ニコラスは聞きたいことが山ほどあったが、体を気遣って休ませることにした。


次の日、様子をみようと部屋にはいると、リアナが赤ん坊をあやしていた。


「おい、おきて大丈夫なのか」


「ええ、だいぶ調子がよくなったの」


リアナの様子をしばらく見ていたが、今まであったことを質問していった。

夫が生まれた子供をみて、悪魔と交わったといいだし教会の人間を呼ぼうとしたので、ここまで逃げてきたことを、ぽつぽつと説明した。


ニコラスはリアナに大変だったなといいながら、赤ん坊をじっとみた。赤ん坊は女児のようで、母親ゆずりの白い髪をしていてとてもかわいらしかったが、普通の人間にはついていないものがついていた。


「それで、その子に名前はつけてあるのか」


「この子のなまえは、ユエよ」


「そうか… この年でまた子育てすることになるとはな」


男は笑いながらいい、女は安心した表情をみせた。


2ヵ月後、ニコラスが赤ん坊を抱きながら墓の前で立ち、となりにトマスがたっていた。


「産後の肥立ちが悪かった。おれの力不足だ…」


「いや、よくいままでつきあってくれた、お前のおかげで2ヶ月ももったんだ」


無力感を感じているトマスに、ニコラスは悲しそうにしながらもいった。


「これから、その子の世話はどうするんだ?」


「おれが育てる。リアナにも頼まれたしな」


ニコラスは覚悟を決めた顔をしながら墓を離れていった。

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