ツンデレロリババア
「もう最悪じゃ! あの酒屋の小僧、儂を小娘扱いしよって!」
帰宅するなり怒声を飛ばしたのは、小学生くらいの少女だった。小娘扱いされたことが気に入らないようだが、どこからどう見ても小娘である。
「おかえりなさい。今日はまたずいぶんとご立腹ですね、師匠」
居間でくつろいだままの青年は笑顔でそれを迎えた。
「儂はもう三百歳じゃぞ⁉︎ だというのにあの小僧……」
「その見た目ですしねぇ。妖怪も大変だ」
「うるさい! 妖怪舐めんな祟るぞ!」
そう吐き棄て、少女は高く積み上げられた座布団の上へぽふっと腰を下ろす。彼女専用の定位置だ。
しばし、場に沈黙が訪れる。
「そ、それにしても今日は妖会の皆がとても親切じゃったなー。儂、こんなの貰っちゃった」
おもむろに、懐から藁人形を取り出してみせる少女。なんとも悪趣味だ。
「何かの記念日なんですかね」
「……あ、あとさっき三百って言ったけど、三百一歳の間違いじゃったわ!」
「へー、そうなんですか」
何かを期待するようにモジモジしていた少女だったが、青年のあまりの平坦さについにしゅんとしてしまう。
それを横目に、耐えきれなくなった青年は笑いを弾けさせた。
「な、なにを笑っておる!」
「いや、そんな泣きそうにならなくても。ちゃんとわかってますよ? はいこれ」
青年が手渡してきたのは、桜模様の美しい盃。
「三百一歳の誕生日、おめでとうございます、師匠。酒屋の代わりに、今夜は僕と呑みましょう」
弟子からの不意打ちに、酔ったように赤らむ少女。
「……ありがと」
溢した不慣れな言葉は、盃へ注がれる酒の音で届かない。