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その一、空想との邂逅

二作目となりました。

ご指摘などあれば嬉しい限りです。

 みなさんは化け猫とやらを知っているだろうか?

 十数年生きて神通力を得た猫、自分に酷い事をした人間に復讐するために化ける猫。そして恩人となる者の恨みを晴らすために化ける猫……とまぁ、文字通り人にとって都合の良い能力を持った空想上のキャラクターの事だ。

 そして、空想上にしか存在を許されない妖怪という生命体の一種でもある。

 妖怪というモノはこの世に存在しない生命体で、今の僕等よりも想像力が豊かだった大昔の人達が紙に墨に漬けた筆で作り出したおとぎ話のキャラクターだ。

 だから、本当ならこの世にいてはならない存在。

 ……茫然自失としてる僕の足元にいてはならないのも当然のはずである。

 目をこすってもう一度足元を確認する、ソレはやっぱりうずくまるように眠っていた。

 頬をつねってもう一度足元を確認する、ソレはやっぱり幸せそうな寝顔で眠っていた。

 僕の足元にいるのは一匹の猫、だったもの?

 初めに現れたのは確かに明るめの黄土色でふさふさな毛をした猫だったけど、ソレは突然その愛らしい口を開いて「見つけた」と見事な人語を操って体を震わせて明るめの黄土色した煙を噴出してうごめいて。

 それで、女の子になった。妖怪変化というのは服も用意できるらしく、裸でなかったので僕の思考回路がショートせずに済んだ。

 しかし、女の子が裸で現れて僕の脳がパンクして気絶してしまえばどれだけ楽だった事だろうか。ソレは女の子になるや僕に微笑んで、そこで体力が尽きたのか倒れてしまって今の現状に至っているのだから。

 化け猫に関する話を唐突に切り出したのは現実逃避に他ならない。何せ今の僕は脳こそ正常に働いているとはいえ、熱暴走しているのだからまともな思考もできるはずがない。

 まぁ、かといって今眠っている女の子? が猫から化けたとはいえ化け猫という妖怪に断定するのは早計だろう。きっとどこかで僕に恨みを持った人が腹いせにトリックを使って僕を驚かせるために仕組んだ罠だ。

 これは一種の自慢だが、僕、大木正司(おおき せいじ)は良くも悪くもあくまで普通の人間だ。成績も中ランクで女の子とはモテてるともモテてないともいえない程度の交流をし、性格の方だってどちらかといえばお人好しなだけで特徴も無い。本当にあくまで普通の人間なのだ。

 そんな僕が誰かの恨みを買ったというのなら僕はその事実を肯定するだろう、敵を一人も作らないクラスの人気者じゃないんだから僕を快く思ってない人は少なくとも知っている人の中で上げればざっと三十人はいる。その中で恨まれるような事をしたのかもしれない。

 だからこれは夢なんだ、さっき頬を文字通り千切れるほどの強さで引っ張った時に痛みは感じたけど、夢の中なら何があってもおかしくないんだから痛覚があったっておかしくない。

 それと最近は友達の生徒会選挙に裏方で協力してたから慣れない仕事に疲れやストレスを感じてありもしない幻覚を見てる可能性だって否定できない。さっき化け猫がどういう妖怪かを考える現実逃避をしたが、化け猫の事なんて今日の帰りに寄った図書館で妖怪図鑑という本をたまたま読んだから知ったんだ。だから「女の子に化ける猫もいるのかな?」とか頭の中でこっそり考えたりしたから目の前の幻覚が見えるっていう事もありえる。

 それなら僕がこのまま立ち止まっていては不審がられるだろう、すぐに立ち去ってしまおう。

「おーい、そこの黄昏てる凡人!」

 幻覚を見捨てて歩き出そうとすると背後から実に不愉快な声で呼び止められる。

 振り向くと、僕に走り寄る野郎が一人。

「君は誰ですか? 僕には他人を凡人と呼ぶ凡人の知り合いなんていません、いるとしたら高校二年生にもなって二次関数もできない無能ぐらいです」

「それはまさしく俺の事だろうな、誰が凡人だ!」

「お前だよ、っていうか少し黙れ無能」

「無能言うな凡人って言え!」

「引き篭もってろ天才」

「そこであえて天才と呼ぶか、やはり俺のライバルは強敵だ」

 無視(シカト)して先へ進もうかと思ったが、それはそれでこいつの対処が面倒なので付き合っておこう。

 で、騒々しさにクラスの不評が集中してるこいつは新山風太(にいやま ふうた)。不本意な事に僕の悪友をやっている。もしも突然腹痛が起きたりしたらこの無能がエセ黒魔術をやって失敗した影響で巻き込まれたせいだと思っていい、そのくらい馬鹿をやりまくっている馬鹿だ。

 しかし、丁度良い奴が来てくれた。

「丁度良い、今からお前の視力検査をしてやる。俺の足元に何があるかを言い当ててみろ」

「それは宣戦布告か! いいだろう受けて立つぜ!」

 こんな唐突で突拍子も無い事を平気でやってのける、風太という人間はそういう奴だ。

 それと無能の癖に風太の言うセリフには妙な説得力があって、嘘を吐けないようなタイプ。こいつの言葉なら足元の女の子が本当に存在してる事が納得できる。

 もっとも、それは夢じゃない時の話だけれど。

「おいおい、お前は俺をなめてるのか? 何もないじゃないか!」

 何もないという事はこの女の子は僕が脳内で作った幻覚らしい。明日あたりにでも病院に行った方がいいかな?

「何もないか、なるほど……」

「あぁ、俺の華麗な視力にはすんげーめんこい女の子とゴキブリの足以外は映ってないぜ!」

「十分何かあるじゃねぇか無能!」

 無駄なボケをされたのでツッコミを入れながら鞄に入れてあるツッコミ用の木材で頭を振りぬいた。そういえば事ある毎に僕をツッコミ役にしようとボケを繰り返す癖があるんだった、やっぱり無視して帰っておけばよかったな。

 しかし、幻覚でないと解ってもやっぱり問題が残る。

「この女の子に見覚えあるか?」

「お前がこっそり飼ってる子なんて見覚えある訳ないだろ」

 まだいらんボケを抜かすので木材で喉仏を突いて黙らせた。

 困ったな、これが夢だとしても女の子を見捨てていくのは今更ながら躊躇われる。特に風太が隣にいる今では余計に見捨てる選択が許されなくなる。人前では見栄を張りたくなる性分はこんな時に厄介だ。

 風太に任せて逃げる事もできるが……この無能に無防備な女の子を差し出したらどんな人体実験に使われるか解ったもんじゃない。

「お前は力ある方だよな、この子を担いで警察まで送ろう」

「な、何を言ってるんだお前!」

 僕が提案すると風太が本気で驚く、この提案は至って普通のはずだけど?

「お前は目の前に女の子が倒れているというのに、そのチャンスをみすみす逃すつもりか!」

「意味不明だから今度は目に木材叩きつけていいか?」

「アホ、お前には下心という男に必要不可欠な物が抜けている、つまりお前はオカマだ! そのオカマから脱却するために女の子はお前の家で介抱して恩を売るんだ!」

 下心通り越して犯罪になりかねないという事はこの無能の常識には無いらしい。

 で、僕は何度も警察へ届けようとしたが風太が本気モードになってやたらと何か偉そうな御託を並べられて、結局猫が化けた女の子を僕の家まで連れて行く事になってしまった。

(何でこんな事になったんだ……)

 早い所見捨てていけばよかったと、心底後悔しながら家への帰路を辿る。


 そして、女の子を家へ連れて行った時に、僕は今起きた事がどうでもよくなるくらいに前途多難で不可解な出来事に巻き込まれる。

 その時の僕は頭を抱えてこう言った。

 僕に何の恨みがある、と。


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