スキル・ライフ・オンライン~サイバーテロ~
以前書いた物を手直しするつもりが、消してしまった為UPし直しました。
VR機器が一般家庭に、浸透して早10年以上たったある日。3年続いたVRMMOスキル・ライフ・オンラインが終了を迎える日がやって来た。
スキル・ライフ・オンラインは、レベル制+スキル制で、どちらも存在する。また、1日の連続ログイン可能時間が8時間ではあるが、ゲーム内時間はその9倍で進むのも、魅力の一つだ。
生産でもレベルが上がる! と言う触れ込みで、生産特化の割合が他のVRMMOより多いのが特長で、人気投票でも3年連続1位を取った。
なぜそんなゲームが終了するかというと、「世界容量が足りません!?」と言う事が発端だった。では、アップデートすれば良いのでは? などが良く聞こえたが、現状のままエリアMAPを増やすと容量が大きくなり過ぎ、ハードの方が持たず、強制シャットダウンしかねない。そして新たに第2部が完成した事で、本日12月30日終了を迎えた。
「ギルマスまたな。新世界でも宜しく!」
「こちらこそ、新世界で」
【ストラーノ】のGHで最後のギルドメンバーと別れて、自分だけの個人ホームへ向かう。
紫のセミロングの髪を結わずに流し、アーモンド型の緑の瞳のドワーフと見間違う身長に、細い四肢の少女は、【始まりの街・アルフォリアス】の南区と東区の奥にある土地に入っていった。
「ホームに着いたー。皆と最後の収穫して終わりにするか。《コール》ピノ、黒里、ジズァ、ユーリ、フィナ」
少女の声と共に、虹色に輝く宝石の様なスライム=ピノ、黒曜石の様に黒い鱗を持つ五本の爪を持つ巨大な東洋の龍=黒里、墨の様に黒いトレント=ジズァ、白金色の巨大な西洋の神竜=ユーリ、ニジマスサイズの青い魚=フィナが現れた。
「《人化》」
少女が新たなスキルを発動すると、青い魚が成人女性に変化した。10人が10人美人と賞する様な姿だった。
癖一つない滝の様な青い髪に、優しげな目元の水色の瞳。透き通る様な白い肌に、ギリシャ神話に出てくる女神が着ている服を着ていた。
「ユイ、今日で対に最後なんですね……」
優しげな目元に涙を浮かべて、ハープの様な音楽的な声が少女、ユイに向かって喋った。
「そう……『師匠帰って来たのね(んだね)。っぶひゃ』」
『痛い、ピノひど「きゅー! 」
ユイが喋り出した所で、15、6位の長いプラチナブロンドの尖った耳を持つハイエルフの少女と、12位の短い赤い髪のハイドワーフの少年が、虹色のスライムにタックルを食らってふっ飛んだ。
「ピノありがとう。シェラ、プアト話してる時に割り込まない」
『はい……。ごめんなさい』
虹色のスライム、ピノに怒られるシェラとプアトのやり取りが、今日で終わりかと思うと物悲しい。でも、最後なら楽しまないとね。涙を見るのは悲しいから。
「さあ、皆。最後の収穫よ!」
『はい!』
さて、畑の植物を収穫しよう。
皆の笑顔が、最後に見られて良かった。空元気であっても。
〈《注意!》30分後に強制ログアウトします。それまでにログアウトして下さい〉
「うわぁー、もうこんな時間!? 封印してたホットチョコ結局飲んじゃった」
慌てて時計を見るてと、リアル時間がPM23:30と表示されていた。
「ユイ! もしかしなくとも今飲んでいたのは、あのバレンタインイベントで作った、ホットチョコですか? あれは、完全封印物ですよ‼」
「ごめん。日の目を見ないと可哀想かなって」
「効果を思い出して下さい‼ SSに残ってませんよね?」
「SSには残ってないよ」
フィナに怒られて、今年のバレンタインイベントで作ったホットチョコのスクロールを思い出す。
[ ホットチョコ レア度6 品質10+
種の品質改良や土壌改良、水質改良し、最上位植物栄養薬を惜し気もなく使い、育てたカカオを原料に使ったチョコと神牛のミルクで作られ、バレンタインイベント時に作られた原料の栽培から手作りの凝りすぎた品。
バレンタインイベント用
・効果 ステータス+5 効果時間 制限無し
・効果 寒無効 効果時間 120分
・効果 満腹度8%
使い道 食用 製作者 ユイ ]
出来上がった瞬間メモ&レシピを処分した。もう二度と作れないだろう。条件も揃わない事だし。
「あ! 最後位これ着よう」
取り出したのは、ピンクのベスト。このゲーム(スキル・ライフ・オンライン)で初めて作った装備、ホーンラビットベストを[服 上 2]に装備する。
[服 上 2]とは、鎧等を装備する場所である。下着や一般服は[服 上 1]で、鎧や上着は[服 上 2]に、なる。妙な所で、リアリティーを追及している。
[ ホーンラビットベスト レア度1 品質4
・効果 DEF+3
使い道 服 上 2 装備 製作者ユイ ]
スキル・ライフ・オンラインのレア度は、1~6まであり、数が増えるほど珍しくなる。1がノーマル、2がレア、3がスーパーレア、4がユニーク、5が伝説級、6が神話級と別けられている。
品質は1~10と10+が存在する。10であればそれなりの腕と、素材があれば作り出せるが、10+だけは、確かな腕と運、素材が必要になり、ハンドメイドになるため、10人中2,3人しか作り出せない。
――閑話休題(こんな話は置いといて)――
(さあ時間だ、皆今までありがとう‼)
強制ログアウトの時間まで、この光景を眼に焼き付けておこう。
〈《警告》強制ログアウトをし…――――〉
(?)
「ゔっぐっ、えっぐ……」
カタカタカタ。ポチ、カタカタカタ。
目の前に広がるのは、青い空間。そこに小学3年生位の栗色の髪の少女が、PCのキーボードを叩きながら泣いていた。
すごくシュールだ。
って現実逃避している場合じゃない。
「アイスちゃん!? 何で泣いてるの?」
「ぅゔ、ぞの声は、ユイざん。ずいまぜん。巻ぎ込んでじまいまじだ」
アイスちゃんは、ゲームのAI。キャラ設定やイベントの時に活躍する。そんな少女(AI)が泣いているとは、どういう事だろう。
「アイスちゃん、まず深呼吸。す~は~、す~は~。……説明できる?」
「はい。すいません。実は10分ほど前からウイルス攻撃を受けています。それで撃退はできましたが、一部にウイルスが残ってしまいました。」
「ウイルスは撃退できたのね。で、私がここに居るのと、残ったウイルスって何か関係あるの?」
「はい。ウイルスが入り込んだ先は、このⅠとⅡの接続部分です。Ⅰとはこのバージョンで、Ⅱは次のバージョン。通称【新世界】です」
ウイルスは入って欲しくない場所に入ってしまった様だ。接続部分という事は、このバージョンの300年後に設定されている、新世界に行けない。
「解決方法はあります。ⅠとⅡの間に入り、ウイルスを除去する事です。そこで、……その……」
アイスちゃんの間。それに私がここに居る訳はきっと――
「私にその空間に行って欲しい、って事?」
「う、はい」
「拒否権ないのね。取り残されれば死んでしまうかも知れないのに。……ハァ、何時までに解決すれば戻れるの? 情報を教えて」
アイスちゃんから「っごく」っと、喉の鳴る音が聞こえる。厳しい事を言ったと、自覚している。否、と言う事が言えなかった昔とは違う。今は否と言える。でも否が存在しない。
現実には、守りたい人がいる。愛してる人も居るのだから。来年大学を卒業したら結婚する相手、そんな人ともう会えない可能性があったら、誰だって厳しくなる。
「拒否権はありません。情報は一部メニューとスキルが仕様できません。また、始まる場所は240年後の、【始まりの森】南部です。街が見えて来ましたら、装備をなるべく目立たない物へ。最後にゲーム時間で、126日以内にウイルスを除去して下さい。その期間内でしたら、現実に戻れます。死なないで下さい。死んでしまうと現実に帰れません」
「OKデスゲームって事ね。絶対死ねないわね、送ってちょうだい」
「はい! お願いします」
アイスちゃんが土下座する勢いで、頭を下げて来る。厳しく言い過ぎた。また、泣かないと良いけど。
スキル・ライフ・オンラインでは、感じた事のないほどの緑の匂いに、風の音。清々しい早朝の日差し。だか、現実とは若干違和感がある。
ゲーム=現実、に着いた様だ。
「メニューとスキル確認しないと」
メニューで使える物の方が少なかった。私しかいないから仕方ないとは言え、ステータスに装備、スキルやアイテムしか使えないとは、チャットは一切使えない。シェラとプアトに連絡する事はできなかった、スキル・ライフ・オンラインではNPCともチャットが可能なのだ。当然ながらログアウトはできない、ついついログアウトアイコンをつついてしまう。
スキルは、空間魔法や古代魔法、魔銃関係スキルや最高位スキルの幾つかが機能しない様だ。
「空間魔法のテレポートでショーカット移動できないのか、って重大なのはそこじゃない! いつものスキル使える! 《コール》ピノ、黒里、ジズァ、ユーリ、フィナ《人化》って、うわー」
『~~‼』
「重い。ピノ、フィナ。ギブ、ギブギブ。首絞まってる。……ぷはー、ゼーハー、ゲホッ……、黒里ありがとう」
コールして出現した瞬間、ピノとフィナに抱き着かれてしまった。ピノは器用に触手? を使って。フィナは人化してできた腕と手、胸で。窒息して体力(HP)が赤くなった所で、黒神龍の黒里が空間魔法スキルを使って助けてくれた。
「あれ? 空間魔法使えないんじゃ?」
『スキル制限されているのは主だけだ。プレイヤーが去ってから240年、使える者は一握りだがな』
「へー。って、黒里が喋ってる!?」
『ウム。我だけではないぞ。主の相棒の内、最後に出現していた者は皆喋れるぞ。フィナだけは元々だがな』
喋るだけ喋った黒里は、腕を組んでウンウンと頷いている。私の相棒は、AIの割に色々行動していたが、こんな行動は初めてだ。
「黒里、随分個性出たわね。そう言えば、何時から喋れる様になったの?」
『主達プレイヤーが去ってからだな、違和感は主が去る1時間半ほど前からからだ』
「随分しっかり覚えてるのね」
『あの時は1分1秒でも、覚えていたかったからな。たとえ240年経とうが忘れられぬ』
そうか、私だけじゃない。相棒達も離れたくなかったんだ。しかも240年も待ってくれたんだ。
「皆、ごめんなさい。そして、ただいま! 今度は離れない。次もただいまって言いたい。力を貸して下さい‼」
深々と相棒達に頭を下げる。現実に戻る時、アイスちゃんを捕まえて交渉仕様。ウイルス除去できたら、其れ位の報酬は欲しい。譲らない。
「『『『『お帰りなさい』』』』」
「私が、戻ってきた事なんだけど。かくかく然々で……――」
――説明中――
『主様は、相変わらずトラブルに愛されているのう。妾が産まれたのも、その性分のせいとも言える故強くは、言えぬが……』
エルダートレントのジズァが♀なのは知っていたが、こんな女性とは知らなかった。もうちょっと女性的な名前の方が良かったかな。
トラブルで思い出せる中で、一番は今。その他のゲーム中のトップ3は以下の通り。
3位。最初のイベントの〔サマーキャンプ〕。
βテストも終わって、正規版にも慣れての最初のイベント。鬼畜運営が満腹度を、アップデートした日にあったイベントで、別名サバイバル。
イベント期間SPが1Pしか使えなかったため、料理スキルを覚えられても(そもそも料理スキル持ちが、料理に興味ある少数しかいなかった)、生産系スキルを3つ以上持たないと、出てこない特殊スキルの鑑定がないと、食べ物(食材)に含まれる状態異常毒が解らなかった。私や参加した生産職の皆さんや料理スキル持ちは、目まぐるしい時間だった事を覚えている。お陰でサマーキャンプの入選者のほとんどが、狩りを一切しなかった生産職だった。持ち帰れた植物を、底辺を走っていた農業スキル持ちと一緒に栽培して、ポーションや香水作りをしたのは良い思い出だ。
2位。個人ホームの庭で、試験栽培していた木がトレントになった。
魔力砂や魔力水、魔力肥料等を使って育てた結果、ジズァが産まれた。育ってエルダートレントになった後、伐採で取れた枝をG紋章(メビウスの輪を、縦と横を真ん中で重ねた、四つ葉のクローバーの様な形)を掘って、ジズァの樹液を精製した物を塗った腕輪を作ったら、【自動回避】と言う特殊効果が着いた。
その後Gアイテムとして、Gメンバーに配ったら生産主体のメンバーに「何て物作ってんだよ(トレント含めて。普通はテイムできない)!」と言われた(トレント系はフィールドボス設定)。……ハハハ、ご愛敬だろう。
1位は。どう考えても【バレンタインイベント】の【チョコ】と【ホットチョコ】。
リアルでバレンタインの1週間前から、女キャラがカカオを使った料理を作ると、成功率400%UP、特殊効果率200%UPするイベントが毎回開催されていた。
工程としては。
土壌を作り、カカオ、葡萄を育てる。
収穫し、それぞれ熟成させる。
料理スキル使って調理する。ここで気を付けなければいけないのは、料理及びその派生スキルを、しっかりセットしないといけない。
完成。
短いって。大変だよ。細かく言うと。
①収穫
②ブランデー作り(省略します)
ワイン作る→蒸留する→成熟させる。(この間スキルで、促進&熟成を使う)
③チョコ作り
収穫したカカオポッド(実)を割る(ラグビーボールっぽい)。
中の実(カカオ豆)を取り出し、バナナの葉っぱを使って発酵させる(発酵スキル仕様)。
カカオ豆をスモークする(天日可)。
カカオ豆の殻と胚芽を取り除く。一部分離させる(カカオバター)。
流石にゲームでも自力では無理なので、石臼を作りオリハルコンゴーレムのシヴァをコールして作ってもらった。
カカオバターを混ぜる。固まって重かったので、シヴァに任せた(シヴァに5日間混ぜてもらった)。
テンパリング。大理石とナイフを使って伸ばしたりする 、TVや漫画に出てくる場面です。お好みでブランデーを少量加える。
形にはめる。
熟成(熟成スキル)
完成!
作るの大変でした(主にシヴァが)。
完成したチョコ見てビックリですよ、スキル+3になるんですもの!
消去作として、近くにあった牛乳(Gメンバーが育てた神牛)に入れて、温めた物が封印していたホットチョコ。青くなって市販の牛乳で改めて作ったホットチョコはGメンバーとフレンドに人気で、攻城戦で仕様されました。
[ ホットチョコ レア度6 品質10+
原料の栽培から手作りの凝った品
バレンタインイベント用
・効果 ステータス+400%UP 効果時間 120分
・効果 寒無効 効果時間 120分
・効果 満腹度5%
使い道 食用 製作者 ユイ ]
因みにホワイトデーには、バレンタインイベントで貰えた人のみ、成功率400%UP、特殊効果率250%UPがあるため、あるクエストのためバレンタインチョコ欲しい人が殺到した。
――閑話休題――
「皆の声も聞きたいんだけど、喋ってみて」
私が話しを降るとピノとユーリが、恥ずかしそうに話し出す。
『ご主人、改めて初めまして。俺がピノだ』
『やっと話せるよ、ご主人様。僕がユーリだよ』
「改めてよろしく」
感覚でいうと、ピノはが13歳位で、ユーリが8歳位だろうか。ピノは初級武器の代わりに、仲間になったチュートリアル武器(?)。ユーリは卵から育てた、実に考え深い。
「他の皆とも会いたいな、誰かリターンできない?」
『ご主人、言いづらいけど他の皆とテイム状態になってるか? 確認してみてくれ』
「え? あれ? 文字が黒くなってる!?」
ピノに言われて、メニュー画面を操作しても名前が黒く、心話スキルを仕様しても反応がない。
どういう事!? 心話にも答えてくれない。これじゃあまるで、居ないみたい。どうして……。
『主よ、驚いている所悪いが。エーアイと言ったか、あれの更新が途絶えているのだ。そのせいで活動できる生物が減った、主達が居なくなって、いや、居なくなる少し前か』
どういう事? 黒里の言う事からするとウイルスと関係している? これは何がなんでもウイルスを除去しないと。その為には、まず【始まりの街・アリフォリアス】の個人ホームで、情報仕入れないと。
「黒里、ジズァ、ユーリ。認識阻害スキル使うよ」
私の認識阻害スキルはMax、看破スキルMaxじゃないと見抜けない。
「黒里、ジズァ、ユーリ。【始まりの街・アリフォリアス】に着いたら、人に気を付けてね」
『解った』『了解じゃ』『わかったよ』
3人。私は相棒達を「人」と呼ぶ。
「装備変えないと。……っと、ベストはこのまま。よし、ok! さあ、【始まりの街・アリフォリアス】に出発! ユーリよろしく‼」
急いで装備を変え、ユーリに乗り【始まりの街・アリフォリアス】に向かった。こうして、私の異世界での冒険が始まった。
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字や御意見御感想等ありましたら、御気軽にお願いします。
修正
11/10
5年→3年