始まりのダンジョン~会話~
邪神の扉を抜けた先は土で出来た洞窟のような部屋だった。
「ダンジョン・マスターの部屋?」
『ぃえ~~っす!』
「うわっ!?」
あたしの呟きに反応した邪神が上げた声が余りに気持ち悪くて驚いた。
なんか生理的に気持ち悪い音を繋ぎ合わせて声にしたような声音だった。
『あ、声ミスった。メンゴ!』
あ、いつもの声に戻った。
「どうでも良いけど調子に乗らないでウザったいから。後、さっきの声は何?」
『あれは勇者とか聖女とか言われてる奴等用の声だよ。まぁ邪神としてのお仕事用の声ってことだよ。
声優って声がそのままで固定する人と仕事とプライベートで分ける人が居ると思うけど、僕は後者って事だねぇ。
というより僕の今の声自体が他人様からの借り物なんだけどね?』
あぁ、どうりでコイツの声が人気声優に似た声だった訳だ。
この邪神とつるみ出した理由の1つが『あたしがファンである○○ ○○さんに声が似てる』って理由だったのに・・・。
『まぁ僕の声より自分の格好の事気にしようよ?』
「は?格好って・・・・うわぁお。」
言われて初めて気がついた。
Tシャツジャージだった服装が男物の皮製の服になってる!?
色は白と黒と赤。
長袖の白いカッターの上に黒字に赤い色で魔法の紋様が描かれたベスト。
艶の無い黒い皮の裾長コートの袖は赤く、赤黒い手袋と併せると完全に殺った@みたいな雰囲気が醸し出されてる。
そしてブカブカの赤い呪印が刻まれた黒いカーゴパンツとそれを留める銀細工の蜘蛛のようなエンブレムを象った白いベルト。
カーゴパンツは膝下の当たりから包帯でグルグル巻きにしてあるが、脛当て(レガース)を巻き込んでいて細いという印象は抱かない。
そして頑丈そうな作りの無骨なブーツ。
天川 黒夜のプレイヤーキャラ『地蜘蛛』の装備だった。
長袖のカッター『白蛇の抱擁』伝説級
魔法の紋様が描かれたベスト『狡猾な悪魔の指図』幻想級
艶のない黒いコートは『邪竜の威光』幻想級
銀細工が施された白いベルト『カンダタ』伝説級
呪印入りの黒いカーゴパンツ『暗き夜の惨劇』幻想級
最後に無骨なブーツ『ウォークマン』古代級
上位プレイヤーでも持つ者が少ない幻想級の防具を3つも所持している時点であたしが『何をやったか』理解できたのは何人いるだろうね?
そして腰に手を当てると、やはりあった。
曲がりくねった刃を持つ短剣『多頭蛇王の毒短剣』幻想級
ネタ武器であり《壁役を一撃必殺する》トンファー型・決戦兵器『断固としたお断り』特異級
ここまで揃ってれば負ける可能性の方が低いと思う・・・思いたい。
地蜘蛛のステータスを受け継いでいるのだとしたら、問題はHPの低さなのである。
早いけど柔らかいボスとか数の暴力が1番天敵なパターンだ。
ただでさえダンジョンに挑む輩は準備万端・人数揃えてから挑むって奴が多いので正直HPがそのまんまだとかなり厳しいものがある。
・・・まぁボス部屋に来させる前に仕留めればOKなのでそこは頑張ろうと思う。
「これゲームの時と性能同じ?」
『違うよ~。伝説級までなら同じだけど幻想級はちょっと強化されたみたいだね。
『狡猾な悪魔の指図』は発動する時のダメージ量が減ってるから発動し易くなってるし『暗き夜の惨劇』は範囲が広がってるみたいだ。
『邪竜の威光』はかなり強化されてる・・・正直僕にも効果が出掛かってるとか予想外だよ。
『多頭蛇王の毒短剣』は毒が強化されてるくらい・・・だと思うけどどれだけ強化されてるのかは分からない。』
「至りつくせりって感じね。」
『僕と係わり合いになり過ぎたせいで色々と狂ったみたいだねぇ。
ダンジョンの状態見てよ。』
そういって邪神がダンジョンの心臓であろう宝石を指差す。
あたしがその宝石に触れると頭の中に見慣れたダンジョン管理画面が浮かんだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ダンジョン名『地蜘蛛の巣穴』
・強欲型ダンジョンLv1
・洞窟ー2F-
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ん?ちょっと変わってる。
「ねぇこの『強欲型ダンジョン』ってどういう意味?」
『強欲か、まぁそうなるだろうね。
どういう意味かっていうと、この世界のダンジョンって7つの属性に分けられるんだよ。
7つの大罪っていう君達の世界の概念を取り込んで定着しちゃったから普通に認知されてるよ。
『傲慢』『憤怒』『暴食』『怠惰』『色欲』『嫉妬』そして『強欲』。
それぞれによってダンジョンの内容が変わるんだ。
ちなみにどの属性になるかってのはダンジョンマスター次第だよ。』
あたしは『強欲』ってことね・・・。
まぁ盗賊系だし分かる気がする。
『強欲系ダンジョンを簡単に言うと『ダンジョンマスターの影響を受け易い』ってとこだね。
ダンジョンに召喚できるモンスターは、戦闘力が低い代わりに手癖が悪かったり、悪知恵が働いたりする者が多いよ。
あと、外から持ち込んだ物や侵入者から奪った物を『複製』したり『贋物』を作ったりできるよ。
だから個人の色が出易い。その代わりにモンスターが倒された時、ドロップするお金が多くなるから即物的な冒険者に集られ易い。』
結構難点もあるんだ。
というか・・・。
「モンスターってゲームみたいにアイテムやお金をドロップするの?」
『するよ。
つかダンジョンモンスターは死体が残らない代わりにアイテムやお金をその場に残す・・・つまりそれを媒介にして召喚してるって感じだね。
外にいるモンスターはお金をドロップしたりしない代わりに素材が剥げるから武器・防具なんかを強化したいなら野性の方が良いのさ。
@ダンジョンモンスターの一部がアイテムとしてドロップしてるのって媒介にした魔力やお金が時間をかけて召喚されたモンスターの身体に変質していった物だからねぇ。
半分だけ受肉したようなもんだよ。
だから長い年月をかけると本当に1個の生命体として根を張るモンスターも出てくるんだ。
・・・それと食事はするけど何も食べなくても死なないし、食べた者はアイテムやお金に成るから排泄とかはしないよ。」
「・・・貴重な話をどうも。」
どうやら意外と世界というのは上手く回ってるらしい。
・・・あれ?
「この世界のお金って共通なの?」
『共通だよ。
だから換金とかしなくても良いし、魔力を沢山含んでるからモンスターのおやつにも最適だよ。」
なんて罰当たりな・・・。