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始まりの昼下がり

よろしくお願いいたします。

邪神様@ライジング・サン『蜘蛛っち~?起きてる~?』


ピコン!という電子音と共にディスプレイに書かれた言葉を、俺は片目を少し開けながら読む。

ゲーム友達からのチャットか・・・。カチャカチャっと


地蜘蛛@モテない勢『寝てるよ』


ふぁ~っと気の抜けたアクビをかまし、伸びをして身体を解す。

バキバキという音と共に頭を回転させる為に枕元の近くにある小型冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出して呷る。

ピコン!


邪神様@ライジング・サン『起きてんじゃんwww』


地蜘蛛@モテない勢『目が覚めたばっかで思考は寝てる』


地蜘蛛@モテない勢『つまり俺はまだ寝てる』


邪神様@ライジング・サン『www』



さて、夏休み真っ盛りだけど平日のお昼だ。

この時間にゲームのIDを使ってチャットを送ってきてる時点でお察しだが、コイツ何歳だったっけ?



地蜘蛛@モテない勢『で?こんな真昼間から何よ?つか働けニート』


邪神様@ライジング・サン『働いてるよ~、めっさ忙しいわ~』



「・・・うそくせぇ」



邪神様@ライジング・サン『うそくせぇってか?wほんとほんとw』


邪神様@ライジング・サン『邪神、嘘ツカナイ』


地蜘蛛@モテない勢『ハイハイ』



適当にスルーしながらメールボックスを見る。

一晩で40通か・・・まぁまぁかな?



地蜘蛛@モテない勢『メール確認すっからROMるよ』


邪神様@ライジング・サン『ちょwまてよw話を聞いておくれよぉ!!』


地蜘蛛@モテない勢『@でね』



そういって邪神(バカ)との会話(チャット)をぶった切ってメールを確認する作業に入る。

3件ほどは日本語、残りは英語やらドイツ語やら色んな国の言葉でのメールだ。


「システムコマンド・『翻訳ソフト』を起動」


『翻訳ソフト・起動します・・・・・起動しました。』


起動した翻訳ソフトに日本語以外のメールを翻訳してもらっている最中に日本語のメールに目を通す。

思ってた通り罵詈雑言だった。

翻訳ソフトが全部のメールを翻訳してくれた。昨今の翻訳ソフトは国によってのスラングもかなり忠実に翻訳&意訳してくれて凄く便利になった。

まぁ8割以上が罵詈雑言の嵐で、残り1割が泣き言、残りがフレンド依頼だった。


罵詈雑言のメール・・・それが『あたし』の日常の1つだ。


人気VRMMO『カオス・エイジ・オンライン』ファンタジーな世界観で色々な種族が入り乱れてプレイして、神様だろうが悪魔だろうがプレイヤータウンのそこら辺にいると言う混沌(カオス)さだ。

アマテラスがヒッポグリフに乗って登場したり、オーディーンがフェンリルと飲み友達だと言い張るくらい何かがオカシイ世界観なのだ。


・・・別名『神話ブレイカー』混ぜ過ぎた結果致命的に何かオカシクなった世界でプレイヤーは勝手気ままに過ごしている。



そして、そんな世界でのあたしのプレイヤーキャラ『地蜘蛛』はダンジョンメイカーという職業(ジョブ)を持った盗賊系キャラである。

このゲームのレベルはキャラの能力そのものを上げる物、職業はレベルアップ時の成長に補正をかけたり固有スキルを発動できるようになったりする物として存在する。

レベルの上限はLv100までで、キャラの構成(ビルド)を振り分ける為に職業を得ていく訳だが、このレベルが厄介な部分で、結構直ぐに上がるのだ。


つまり、最初からどんな構成にするかを決めておかないとレベルは高いのに能力が低い・チグハグになった・・・そんな事になりかねない。


ちなみに『地蜘蛛』は3rdキャラである。1stキャラ『平蜘蛛』はビルドミスにより柔らか大盾とかいう戦死になった。

2ndキャラ『斑蜘蛛』はアジダカーハという竜と一緒に大陸を焼いてたら沢山の神様からフルボッコにされて封印され、イベントでアジダカーハが蘇った時のみ使えるキャラになってしまった。

せっかく悪虐ランク4位にまで上り詰めたのに・・・。


そして3rdキャラ『地蜘蛛』は斑蜘蛛の代わりとして作られたキャラで斑蜘蛛より少しだけステータスが高くなったくらいで大体一緒の育ち方をした。

盗賊系キャラだけど1対1でなら戦士を真正面から惨殺し、壁戦士の毛根を無慈悲に散らす。

ついた渾名は『騎士殺し』『糞野郎』『蜘蛛の子はやはり蜘蛛』・・・最後のは渾名じゃないよね?


だけど戦闘がメインではない、メインはやはり『盗み』スキルなのだ。

ただ何度もシュミレーションして、更に2回目という事もあって『地蜘蛛』の盗み系スキルはランキングのトップ陣から『糞野郎』と怨念込めて呼ばれる程に高確率&大量にアイテムや装備を無慈悲に盗む。

むしろ街中にいる神様からすら持ち物をふんだくる。


そして盗んだ物を全部自分で作ったダンジョンの宝箱に入れてダンジョン攻略を強要するのが『地蜘蛛』のプレイスタイルだ。



罵詈雑言、それはレア装備やアイテムを盗まれた者立ちの怨嗟の声であり、それと同時に自分への賞賛の言葉でもある。




地蜘蛛@モテない勢『ROM終』


邪神様@ライジング・サン『やっとかよぉぉおおおおお!!』


地蜘蛛@モテない勢『何をそんなに待ってたんだよ。俺じゃなくてもフレンドくらいいるだろうに』


邪神様@ライジング・サン『グフっ!?』


地蜘蛛@モテない勢『あ(察し』



悪気無く致命傷を叩きこんでしまったらしい。

まぁこういう時こそ



地蜘蛛@モテない勢『安心しろ、傷は深いぞ!』


邪神様@ライジング・サン『致命傷だからな!ちくせう!!』


地蜘蛛@モテない勢『NDK?NDK?』


邪神様@ライジング・サン『お前がモテない理由を垣間見た気分だわwww』


地蜘蛛@モテない勢『イェア゛』



「げっふぅう!」


致命傷を広げてやるはずだったのにパリィされて致命の反撃を受けた。

泣きたい。



邪神様@ライジング・サン『っとまぁ冗談はここまでにして・・・。大事な話があるんだが?』


地蜘蛛@モテない勢『いやすいませんホモじゃないんですみません』


邪神様@ライジング・サン『何でそうなる!?ガチで引いて無いか!!?』



いや・・・だってねぇ?



邪神様@ライジング・サン『大体お前、リア♀じゃないか』




・・・・・・・・・え?



地蜘蛛@モテない勢『何の話だ?』


邪神様@ライジング・サン『いや隠さなくて大丈夫だぞ?リアルでJKなのは知ってる』


邪神様@ライジング・サン『むしろ女を捨てようとしてるけど捨て切れてないのも知ってる』



やばい


「ストーカー?」



邪神様ライジング・サン『ストーカー・・・まぁ付きまとってたのは認めるよ』



待って

今なんであたしの言葉を?

盗聴器!?



邪神様@ライジング・サン『キョロキョロしてるが盗聴器も隠しカメラも仕掛けてないからな?』



な、なんで!?



邪神様@ライジング・サン『いやね?素質ある人材を集めてる最中だったんだよ』


邪神様@ライジング・サン『君の素質は素晴しいものだ ぜひ俺に力を貸して欲しい』



あたしは壁を背に震える身体を押さえる様に抱いて、画面の向こうにいるであろう『ナニカ』に話かけた。










「あんた・・・一体『何』?」







「最初から名乗ってたじゃないか。『邪神』だって」



それは唐突にあたしの『後ろから』聞こえた。

振り向くとそこにはニタニタと笑う黒い影が壁に映っていた。


何コレ!?



「よう、リアルじゃ初めましてだな?『天川(あまかわ) 黒夜(くろよ)』」


あたしの名前を知っている!?


「あんたが?」


「邪神様だよ。まぁこの世界じゃそこまでの権能(チカラ)が出せないんだがね?」



ケタケタ笑いながらヌルリと壁から出てきた黒い人影

大きさはあたしより少し高い程度・・・って言っても180くらいある。

マネキンみたいだけど目が無く、口だけが存在する影のような存在は某錬金術漫画の白い人影の真逆に見えた。



「さっきも言ったが力を貸して欲しいんだよ。具体的に言えばダンジョンマスターとして、君が欲しい。」


「・・・拒否権は?」


「あるよ?・・・けどそうだなぁ。君がダンジョンマスターとして働いてくれるなら『望む願い』を叶えてあげよう。

それこそ、何度でもね?』


「あたしの望みが分かるとでも言うの?」


「分かるとも邪神だもの。君の願い・・・『従兄弟のお兄さんを蘇らせて欲しい』・・・だろ?」


「ま・・・まさか・・・ほ、本当に?」


「可能だよ。その代わり願いの力としてはかなり高い方だから前金代わりに叶える訳にはいかない。

死者蘇生なんてそれこそ大奇跡だ。本来なら不可能なんだけど裏技があってね?

『死んだ人間を蘇らせる事』は出来なくても『死ぬ運命を変える事』は結構簡単にできる。」



ゴクリ、と唾を飲み込む音が部屋に響いた。

あたしの表情を見て邪神は苦笑いしながら続けた。



「『死ぬ運命を変える』・・・つまりは死因を歪めれば良いんだからね。

所謂、過去改変をすれば解決さ。」



「過去改変・・・。」



「そ、君が生き返らせたいお兄さんの死因、それを遠ざけてやればいいだけだからね。

まぁなんで死んだかは知らないけどね?」



「・・・・。」



「まぁ難点もあるよ?流石に過去改変もかなりの荒業だ。だからダンジョンマスターになって1年経つ毎に『願い』を聞いて叶えるんだけど、君の場合は『1年につき1年前を改変できるようになる』ってとこかな?

お兄さんが亡くなられたのは?」



「・・・・5年前。」



「じゃあ簡単だ。5年間ダンジョンマスターとして存在してくれれば君の願いは叶う。

ちなみにダンジョンを作る世界は、この世界じゃないから時間を止めておける。

1年経ったから1年前に戻っても『今に戻ってしまった』なんてミスも無い。

死んでも君の意識はこの世界に戻ってくるだけだ。

死んでも結果が残っていれば再度同じ条件でまたリトライさせてあげよう。



さぁ?どうする?黒夜さん・・・いや『地蜘蛛』さん?」



「・・・やるわ。」


俯いていたあたしは改めて邪神の目の位置を見つめる。


覚悟はある。

たとえそれが自己満足であろうとも。

自分の願いの為に何を犠牲にするとしても。



「・・・良い目だ。

では行こうか地蜘蛛さん」



邪神の身体が人型からグネグネと動き、扉を模った。



「君で13人・・・いや13柱目だ。

踏ん反り返ってる神様を引き摺り下ろし(ハコらせ)てやろう。

さぁ|神様(俺の敵)よ、俺の(コマ)は集まったぞ。」



「邪神・・・あんたさぁ・・・もうちょっと待とうよセリフ的にシリアスが死にかけてんじゃん。」



「おっとこれは失敬。」





これは一人の少女が己の為に世界を冒涜するお話である。

血に濡れ、怨嗟を浴び、屍を踏み越えてでも手にしたい願いの為に頑張る





そんな物語

この作品では後書きでの会話はありません。

他の作品では会話をしてますので知らない方はご注意ください。

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