006 一日
採取スコップ、採取袋、短剣、リュック、水筒、非常食、ポーション、毒消し。
以上、初心者セット。これにお昼のお弁当。準備OK。
「行くよノンちゃん」
「ニャー」
ギルドを出て村の門をくぐって砂利道を歩き、大岩を右へ。20分程で採取場所の草原に到着。今日の依頼は常時受付のホポの若葉とマプ花。最低ランクGの近場での薬草採取。
黙々と若葉とキノコを採取する。ずっと中腰で腰が痛くなるので何度も伸び。お昼休憩を挟んで再び採取。
「ニャッニャッ」
前足で地面をトントン。
「あ。これでマプ花20個目だ。ノンちゃんありがとう」
数が揃った。
頭を撫でると、目を細めてゴロゴロ。
「かわいいぃぃっ」
思わずノンちゃんをギュウギュウ抱っこ。
「ニ゛ャッ!」
抗議の鳴き声をあげながら腕の中から逃れ、町に向かって歩き出してしまった。
「うう、待ってよぅぅ」
慌ててあとを追いかける。
「ただいま戻りました。マプ花とホポの若葉20個ずつです」
「おかえり。…よし、20個。指輪翳して」
ギルド受付に採取した物を渡して水晶玉に指輪を翳すとほんのり光る。依頼完了。
ノンちゃんがまた水晶玉に猫パンチ。今日はノンちゃんに小さな雷が落ち、全身静電気を帯びて毛が逆立った。毎回なにしてんだ。
冒険者ギルドは村人のお使いから国依頼の魔物討伐までなんでも受け付ける処。それらはG~SSまでランク付けして掲示され、ギルド員は自分のランクとランク±1を受託。完了すると報酬が貰える。
家族も家も能力も仕事も無い自分には有難いシステムだ。
「はい。報酬の500Nね」
「ありがとうございます。ノンちゃん宿に戻るよ」
「ニャー」
撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で
「フニャー!」
しつこかったようで抗議され、入念な毛繕いを始める。
撫でるくらいいいじゃん。
ギルド前の道を渡り、賑やかな笑い声が聞こえるお店に入る。
「ベルさん、ただいまです」
「ニャー」
「おかえり。今日はメラヒ魚のソテーかボルスの煮込みと野菜スープだよ」
放り出された日に泊まった安宿は、冒険者御用達の宿兼飲み屋。あの日から3ヶ月定宿にしている。ベルさんはここの女将さん。旦那さんがコックで、今もキッチンで巨大フライパンを振っている。
「ソテー美味しそう!ソテーで」
「お。カノ坊来たな。魚より肉食えよ、肉」
「そうだぞ。だからチビなんだぞ」
「うるさい。チビ言うな」
「ノンの左足にこのイカ墨塗って真っ黒にしてやろうぜ」
「それいいな。ノン、こっちこい!」
「シャーーーッ」
既にできあがっている冒険者たちにいじられるのにも慣れた。8割方肉体派の彼等から見れば私はチビなんだろう。
「お待たせ。パンはお代わり自由だからたんと食べて大きくおなり」
「ベルさんまで…」
「はい、ノンちゃんもソテーね」
「ニャーー♪」
スープの野菜はよく煮込まれて旨みが溶け出し美味しい。
ソテーは白身魚にバターの風味が最高。お皿に残ったソースをパンで掬って食べる。ソテーに添えられている温野菜も味が濃くて美味。
異世界での食生活にそれほど違いがなくて助かった。魔物も調理されているけど気にしない。美味しければいいのだ。郷に入っては郷に従えである。
「ニャー」
「ごちそうさまでした」
「あいよ。あとで体拭き用のお湯取りに来な」
「はーい」
「お子様は早いな。夜はこれからだぞ」
「カノ坊。一杯奢るからもう少しいなよ」
「…おっさん達お酒くさッ」
「おっさんって!俺はまだ25だぞ」
「その髭面じゃ十分おじさんだろう」
ああ、うるさい。でも、そのうるささも楽しい。
ベルさんから部屋の鍵を受け取って階段を上る。
お風呂は無いので体は拭くだけ。ギルドへ行けば1回30Nで『シャワル』という全身を綺麗にする魔法をかけてくれるのだが、今は節約して貯蓄に回している。
そう。この世界には魔法がある。魔法はトリップの醍醐味の一つだと思う。だが私には使えない。
ステータスのMP欄が「0」だったのだ。
トリップにより規格外のMP所持で魔法無双!とか中二病なことがあればよかったのに。女神様、ここで加護を付けるくらいの気概を見せてよ!
お湯を貰って体を拭き、就寝。
軽くドタバタしているが、なんとか生活している。未だできそうな仕事は見つからないけど、生きるだけの収入は得られている。そんな日々。
***
2015/01/16 金額一桁変更。