004 放り投げられる
職無し。技術無し。頭脳及び容姿平凡。運動神経普通。
しかしトリップ特典により凄まじい魔力が!特殊能力発現が!!…あればよかったが、そう都合よくはいかないらしい。
では知識を!
と思ったが、私程度の知識ではこちらで役立つものは無かった。学力は平民よりはあるけれど魔術師のほうがはるかに上。なんてこった。
豆腐や醤油作りもトリップの定番!と頑張ってみた。
しかし大豆が見つからない。あと麹菌はどこにあるの?こんなことならもっと本を読んでおくべきだった。
「ノンちゃーん。なんかないかねぇ。」
「ニャー。」
答えてくれるわけない、か。
***
トリップして一ヶ月後。
その日も職の加護に代わるものはないかとギルド仮自室で唸っていた。するとひどくうるさい足音が階段を上ってきて、ノックも無しにドアが開く。
入ってきたのはでっぷりした禿おじさん。ラクビト報告を受けて派遣された国の法務部のお偉いさんだそうだ。
「お前が役立たずの子供のラクビトか。フン。本当に小さいな」
体も(横に)デカいが態度もデカい。こういう人が出張ってくるということは、悪い予感しか感じない。
「なんの能力も無いラクビトなどいらん。支援は打ち切りだ。出ていけ」
「え。あの…」
ズシャッ
気付いたら道路に顔を擦っていた。
どうやら首根っこを捕まれ、二階から文字通りポイッと道路に放り出されたようだ。
役立たずは本当だし、出て行かなければならないのもわかる。それならそれで自分で出て行けるのに。
わけもわからず異世界に来て、居る理由を探そうとしていたのに放り出された屈辱。そしてノンちゃんと道に座り込んでいるという状況。
「なんでこんなことに」
この世界に来て初めて泣いた。
その日の夕方。
隣町へ仕事で出ていたアレグラさんは、ギルド裏で砂埃と擦り傷だらけの私とノンちゃんを見るやいなや全てを察し、憤怒の表情を浮かべた。
「あのハゲ!私がいると部屋まで行かせないと思って仕事を振ったんだな。私が出張る仕事じゃないと思ったのよ!」
「…国としては仕方がないのは理解しています」
「それでも放り出すなんて許せないわ。覚えてろよハゲデブ。カノコちゃんの敵はとるわ」
そう言いながら微笑むアレグラさん。
言葉ト表情ガ合ッテナイデスヨ。
その黒い笑みを見ていたら、放り投げられた直後に怒り狂ったノンちゃんが禿げ頭にがっつり爪跡をつけたことを言い出すことはできなかった。
もう少しで冒険者になります(遅)
2015/02/21 途中3行追加。