021 踏まれたもの
おかしいな。
確かに後ろから声がしたのに。
たとえ子供だとしても20センチ程の草むらでは隠れられるはずがない。
「お前か。」
「ふぎゃっ!」
声がした辺りでノンちゃんが何かを踏みつけた。
「放しなさいですわよっ。愚猫!」
踏みつけた下で何かが蠢いている。
肉球に隠れるくらいなのでどう見ても人じゃない。
ノンちゃんみたいに話せる動物かな。
「こいつ食っていい?」
「ダメだよ。」
一応首を振っておく。
なんでも食べようとしないでほしいわ。
「その子を放してあげて。うちの猫が踏んでごめんなさい。助けてくれてどうもありがとう。」
しぶしぶ足を上げたノンちゃんの下から這い出て来たのは、黒い鱗に覆われた15センチ程のタツノオトシゴ…のような生き物…が、ぜいぜい言いながら立ち上がった。
手足には鉤爪があり、顔の左右に一本ずつ長い髭が生えている。
タツノオトシゴに腕はあったっけ?
それ以前に陸にいる生き物じゃないし。
「お礼はいりませんですわ。こほん。ご挨拶が遅くなりまして申し訳ございませんですわ。わたくし、ここ数日お姉さまを見ていたのですわ。そして先程お姉さまのピンチに気付いて急いではせ参じた次第ですわ。」
「見てた?お、お姉さまって私?」
「はいですわ!」
当然とでもいうように胸を張りながら発言するタツノオトシゴ。
「…頭おかしいんじゃないか?」
「なんですって?!」
ノンちゃんの呆れ声にタツノオトシゴがムキーッと反論し始めた。
「愚猫が何を言うですわ?!」
「頭悪そうな話し方だな。」
「お姉さまを守れない愚図と話すことは無いですわ。」
「こっちも危なかったんだからしかたがないだろう。」
「ふっ。言い訳する男は駄目ですわね。」
子供の喧嘩のようだよ。
「高見の見物していたくせに。」
「違いますわ!見極めていただけですわ。」
「ちょっと二人共。いい加減にし」
「キューーー!」
トン!
声と共に背中に柔らかいものが当たった。
どうやらロボちゃんが体当たりしてきたようだ。
小さなハムスターが当たっただけ。
その程度の力なのに力が抜けてガクッと膝をついてしまった。
そういえば失血し過ぎてたかもなぁ。
あ。そういえばロボちゃんを木の上に放置したままだったんだっけ。
だから寂しくて飛びついてきたのだろう。
うっかりとはいえ申し訳ないことしちゃった。
おや。視界が歪んでる。
言い合いをしていた二人がギョッとした顔をした直後、こちらに走ってくるのが見えた。
しかし走るのがスローモーションのように遅い。
しかもだんだん斜めになってきた。
そこで意識が途切れた。




