002 ファンタジーな世界
おじさんの後を追いながら周囲を見渡す。
この辺りは商店街のようだ。
店頭には野菜、果物、雑貨、陶器。
蛍光オレンジのキャベツなんて思わず二度見しちゃったよ。
人々の服は木綿と動物の皮のように見受けられる。
たまにいる上品な人は絹も使用。
ポリエステル素材が全く見受けられない。
そもそも顔立ちが西洋寄りの人が多いし、なにより髪の色が金銀赤青黄なんでもあり。
コスプレ会場にしても違和感がある。
建物は大抵木造。
大きなお店は煉瓦造り。
ここまでアレな材料が揃うと嫌な予感しかしない。
「お嬢ちゃんこっちだ。」
「はい。」
ツッコミおじさんに続いてログハウス風の建物へ入る。
「おーいアレグラ。ラクビト拾ってきたぞ。」
「あら、こんな田舎に落ちてくるなんて初めてじゃない。中へどうぞ。」
「失礼します…。(ノンちゃん、これは予想が外れるといいけどダメっぽいね)」
「(ニャゥゥ)」
「じゃあな、お嬢ちゃん。」
「あ、はい。どうもありがとうございました。」
「おう。早く慣れるといいな。」
“慣れる”ってナニさ。
アレグラと呼ばれた銀髪ショートの綺麗なお姉さんに個室へ案内される。
「お茶どうぞ。猫ちゃんはミルクね。」
「いただきます。」
「ニャ。」
ああ、お茶美味しい。
ジャスミンティーみたいな香りがしてホッとする。
「あら。黒猫かと思ったら左前脚だけ白いのね。」
「はい。珍しいですよね。ほぼ黒猫のノンっていいます。あ!向原カノコです。」
「ノンちゃんとムコーハラカノコ…ちゃん?長い名前ね。」
「カノコが名前です。」
「私はギルドチーフのアレグラ。ここの責任者ね。」
名前だけでよかったのかも。
「早速だけどカノコちゃん。あなたは異世界に来たのよ。」
「ブフォッ!」
「フニャァァァ!」
うっかりノンちゃんに向かって紅茶を噴き出してしまった。
「ごめんノンちゃんっ。いきなり核心から来るとは思わなくて。」
猫パンチ連打された。ごめんってば。
「あー…ごめんなさいね。普通はここに来るまでに泣いたりわめいたりするそうだから、てっきり大丈夫かと思って。」
「いえ、風景とか髪の色とか明らかに私の居た所と違うのでなんとなく予想していただけです。」
まあ、よく漫画や小説の設定にあったしね。
その後はほぼ予想通り。
数十年に一度、異世界から落ちてくる”大人”を『ラクビト』という。
普段は存在しない脇道から出てきて、ラクビトが出た途端に脇道は消滅してしまう。
そしてラクビトはギルドで説明及び生活基盤ができるまで保護するのが通例。
その後も様々な優遇があるらしい。
それらの費用は国が負担する。それだけラクビトのもたらす加護は大きいんだとか。
「概要はこんな感じ。何か質問ある?」
「…帰れるんですよね?」
アレグラさんの眉がハの字になった。
「ごめんね。帰れた人はいないのよ」
うわぁーーー。
「国を挙げて魔術士たちが研究しているんだけど、異世界転移は手がかりすらなくて。」
魔術士?!完全にファンタジーだ。
ということは家族や友達にも二度と会えないの?
ようやく自分の状況の現実が把握でき、急に頭が冷える。
こういうのは漫画や小説だけでいいよ。
異世界に一人ぼっち。
これからどうしたらいいんだろう。
すると手に肉球の手触り。
ノンちゃんが慰めるかのように私の手をポンポンしている。
「ありがとノンちゃん。」
「ニャ。」
そうだ、一人じゃなかった。
ノンちゃんもいるんだ。
少し落ち着いたところでアレグラさんは更に詳細を教えてくれた。
2014/12/27 訂正。
2015/01/21 アレグラ髪色髪型追加。
2015/02/16 訂正。
2015/05/05 校正。