間奏
白翼の魔法少女は空を飛び、空に近付くことを誰よりも望んでいました。
しかし現実は甘くなく、少女に変化を強いました。
やがて少女は自分の夢が叶わない空物語であることに気付きます。少女はその現実を受け止められませんでした。そして命を代償にし、無理矢理にでも夢を叶えようとしたのです。
――あの空にまで飛んでいきたい。魔法少女になったら、どこまでも飛んでいけると思っていた。でも現実はそんなことなく、あの空までいけることはなく、ただ地面の餌をつつく鳥のようなもの。羽ばたきたい。禁じられたあの空まで――。
叶わない夢、届かない夢を抱いた少女は愛しき腕の中で静かに眠ります。
天蓋の外、空を邪魔する遮蔽がない平原に、少女は埋葬されました。
時々その場所に、物言わぬ影がやってきます。影は自分がどうしてこのような場所に来るのかを覚えていません。ただここに来ると、影は朝焼けの空に滴を落としました。
天空は悲劇をとげた白翼と黒翼に嘆きなさり、一つの奇跡をお与えになりました。
それがどのような奇跡であったかは当人達しか知りません――。
「で、終わりになるはずないだろう?」
童話の最後のページが破られた。光包まれた物語に一点の闇が生まれ、その中から藍を象る幽幻が姿を現す。空中で軽やかなステップを踏むと、首に巻いた織が主を護るかのごとく張り付いた。腰の帯はぎらぎらと牙を剥き、人の注目を集め、主の印象を薄らげる。金色は力や富の象徴ではない。幽幻に潜む異物だ。
「さあ夢から覚める時間だ」
劇は終演だと両手を鳴らし、演者の尻を幽幻は蹴る。
「本番を迎えてこその予行練習だ。同じ失敗は繰り返さないと誓い、立ち上がれ。これは僕が導き出した、結末の一つ。夢は終わり、現が顔を出す。君が目を覚ましたとき――そこは現実だ。
あぁあぁ、責任転嫁しないでくれ。君には伝えたい言葉があっただろうに。うむ……頑張るんだよ。僕はもう、介入できないんだから。はいはい、この夢は幕引きだ。次の夢物語を奏でようじゃないか! 僕はいつでも、人とともに。たとえ声を交わすことも触れ合うことさえ能わずとも、僕はここにいる」
ページが一枚破られようとも、新しい物語は生み出されていく。
「おや、こういう結末になったのは僕のせいだと言いたいのかい?」
幽幻は歯を見せて、雛鳥に渡したはずのマフラーを背中に投げた。
「……夢を見ているのは僕の方か。ありがとう、いい夢を見させてもらった。ありがとう……ありが……とう。最後の一歩を踏み出す瞬間、人は独りになるとしても」
夢が偽物で、現だけが本物ならば、この物語も泡となって消えゆく運命。だけれども語り続けよう。夢を追い求めた少女の物語を。彼女の心の支えになった機械人形の物語を。聞き手がいる限り、似た夢を抱いて追従する者がいる限り、ときには教訓として、ときには応援歌として、語り続けよう。
夢主らに幸あれ。




