親に捨てられていた私を拾ってくれた女性も、その女性の紹介で婚約することとなった男性も、平気で心ない言葉を発することができるような人でした。
幼い頃、親に捨てられた私アリーナは、拾ってくれた女性のもとで育った。
しかしその環境はあまり良いものとは言えず。
衣食住があるだけ良いじゃないかと言われればそうなのだけれど、でも、すぐに感情的になる女性と過ごす日々はストレスに満ちたものだった。
そんな私にも年頃になれば婚約者ができる。
彼の名はディッサム。
女性が勝手に決めてきた男性と強制的に婚約させられることとなった。
しかしディッサムは私のことを良く思っていなかったようで、母親的存在の女性に対して「あんな女、若さがなけりゃ無価値だぜ」「あんな低レベル女を貰ってやるんだから感謝しろよな」などとたびたび失礼な言葉を投げていたらしい。そして母親的存在の女性もまた、それに同調する言葉を発していた。「もうちょっと綺麗になるかと思ったら、あんな平凡な顔でさ。サイテー」とか「あんなのあたしだって欲しくなかったよ、ホントはね」とか、そんな心ないことを言っていたらしい。
娘のような存在に対して心ない言葉を吐く女性。
婚約した相手のことを悪く言うことを繰り返す男性。
その二人の方がお似合いなのでは、と思いながらも、決められた流れに逆らえなかった私はディッサムと共に生きていくことになってしまう――かと思われた、のだが、ある日突然運命が変わった。
というのも、ディッサムが雨で増水している川を見に行って流されてしまったのだ。
それによって婚約は自動的に破棄に。
思わぬ形で私は再び自由を得た。
だが母親的存在の女性が近くにいる状態で本当の自由を手に入れられるはずもなくて、結局また女性に支配される暮らしに戻ってしまっただけであった。
「ディッサムさんはアンタと婚約したから命を落としたんだね、きっと。アンタって、やっぱ、不幸を呼ぶんだ。あーあ、アンタみたいなの拾わなきゃ良かったよ。そうすればもっと幸せになれたかもしれないのになぁ」
「それは……さすがに、関係ないと思います」
「はあ? 口ごたえしてんじゃないよ! 拾う義務なんてないのに拾ってやったのにさ、それに見合った奉仕もできないアンタなんてどこまでいっても貧乏神でしかない。当然のことだろ!」
ディッサムとの一件があってから、母親的存在の女性が私にかける言葉はより一層鋭く毒のあるものとなってしまった。
……これはあくまで推測だが。
邪魔な私をようやく追い出せると思っていたのにその企みが失敗に終わってしまい苛立っているのだろう。
無理矢理にでも婚約者をあてがえば私はここから出ていくことになる。そうすれば女性は私に対して何もしなくていいようになる。もう縁を切れる。だからわざわざ婚約者となってくれそうな人を見つけたのに、あんなことがあって、それで振り出しに戻る状態に。
だからイライラしている、そういうことと思われる。
ということは。
それを解消するには方法は一つしかない。
――ある春の日。
「私、今日、この家から出ていきます」
「はあ?」
「今までありがとうございました」
家を出ることを決心した。
彼女をもうこれ以上苛立たせたくないから。
「さようなら」
こうして私は家を出て、新たな人生を歩むことを選んだのだった。
◆
あれから数年、王都で仕事をしていた私は、仕事場で知り合った一人の青年と想い合うようになりやがて結ばれた。
「おはようアリーナ、今日も朝早いね。仕事?」
「ええ……昨日の残りがちょっとだけあるの。それを早くやりたくて。張り切り過ぎて思ったより早く起きてしまったわ」
「そっか。手伝えることがあったら言ってね、協力するし」
「ありがとう。でも、貴方は貴方で忙しいでしょう? 無理しないで。体調崩してほしくないし」
自立したことで道が拓けた。
良い人間関係を築くことができるようになったし、楽しいことを学ぶこともできたし、たまには大変なこともあるけれど悪いことなんてほとんどないと言っても過言ではないくらいだった。
なので私としてはこの道を選んで良かったと思っている。
色々苦労してきて、その果てで見つけられたこの道は、控えめに言っても非情に光り輝くもの。だから私はこれからもこの道を歩むつもりでいる。どんなことがあったとしても、それでも進み続ける。
ちなみに、母親的存在だった女性はというと、後に恋愛系詐欺に遭い多くのものを失うこととなってしまったそうで――誰にも知られないまま、一人寂しく、この世界の片隅の暗闇で貧しさに苦しみながら生きているらしい。
◆終わり◆




