悪役令嬢のいない王国
「はじめまして、私、カゲのリリーでございます」
と監視対象に挨拶すると。
後ろめたさのないご令嬢は。
「そう、よろしく。ゾフィの隣にいなさい」
歓迎される。さすが、ゾルゲ公爵家フランソワーズ様だわ。
さて、私が報告すると純潔と証明できる。
フランソワーズ様の婚約者、王太子オルテシス殿下には同じく従兄弟のケビンがついている。
この国のカゲは公表なので、婚約破棄などの問題は起きにくい。
何故なら浮気をしたら、すぐに陛下に報告されるからだ。
学園に行く。さすがに授業中は外だ。
学園の庭にはお爺様がいる。ベンチに腰掛けて騎士科の練習を見ている。
ゼムお爺様だ。定点観測を受け持っている。
「リリーかい?それともフランかい?」
「お爺ちゃん。リリーですよ」
「うむ。ワシの若い頃はな。カゲ同士がバチバチやりあっておったのじゃ」
「へえ、そうなんだ」
「それでな。これをやる」
お爺ちゃんからボールくらいの玉をもらった。
「煙玉じゃ」
「ありがとう。お爺ちゃん」
「特異点じゃ。熱狂に対抗するには特異点を作り出すのじゃ」
「分からないよ」
「分かるかもな。最近、校庭が騒がしいのじゃ」
変なの。
平和になった世ではカゲによる空中戦は起きない。
むしろ。他家のカゲとは協力関係にもなる。
さて、お嬢様の後をつけますか。次は二階の生徒会室に行くのかしらね。
お嬢様の後をつけ。階段を登ろうとしたら。
「キャアー!」
1人のご令嬢が階段から落ちてきた。
私はドン!と床を踏み抜いて駆けつける。
ドタン!と音がした。辛うじて、ご令嬢を助けた。
「怪我はございませんか?」
何だ。一瞬、不服そうな顔をしたが・・・。
「大丈夫です」
「私、任務中ですからどなたか保健室につれて行って下さい」
しかし、ご令嬢は。
「大丈夫ですから!」
バタバタと逃げ出した。
ピンクブロンドの小動物を思わせるご令嬢だった・・・
後にマン男爵令嬢メロディだと知った。
彼女とは何回も遭遇したからだ。
フランソワーズ様が噴水の近くでご学友達と話していたら、その後ろをメロディ様が通る。これはマナー的にはOKだが、遠回りをすれば良いじゃないかと注視したら。
「キャア!」
バシャンと音が響き。水が飛び散った。
「大丈夫ですか?」
私が噴水に飛び込み。メロディ様を支えたのだ。
(チィ)
え、舌打ち?メロディ様が舌打ちをしたように聞こえた。
「まあ、リリー、大丈夫かしら・・?すぐに着替えを用意させますわ!ゾフィ!」
「はい、お嬢様」
「申訳ございません」
「いいえ。学友を助けたのですから当然ですわ」
これはお言葉に甘えた。
しかし、ケビンからおかしな報告が上がる。
「リリー、大変だ。王太子殿下が・・・男爵令嬢を寵愛し始めたぞ」
「そう、我らは報告するのみ」
あのマン男爵令嬢メロディ様が接近したのだ。
おかしい。側近候補がいるはずだ。宰相、近衛騎士団長、魔道師団長、大商会のそれぞれの子息がついているはずだわ・・・
5人がメロディ様に夢中のようだ。
これに対するフランソワーズ様の反応は貴族らしかった。
「まあ、殿下の愛妾候補かしら・・・」
歓迎はしないが阻害もせず。そんな感じだ。
「でも、それは王太子の勤めを果たしてからにして欲しいわね」
跡継ぎが生まれてからだと言いたいのね。
これで万事解決だ。
陛下と王妃殿下は・・・そうか、国際会議だわ。
我らは王直轄だから、宰相府に届けるのも違う・・・
そんなセクションイズムに陥ったら事態は急変した。
ケビンに呼び出されたのだ。
「リリー、学園の裏庭に来て欲しい」
「ケビン、何?」
「来れば分かる・・」
裏庭に来たら・・・王太子殿下と側近候補たち。その他、有力家門の子息、令嬢たちがいた。
メロディ様が先頭だ。
「ケビン、これは何?」
「リリーにもメロディ様の素晴らしさを分かってもらいたくて・・・」
逃げよう。と思ったら、メロディ様の目が光った。奇妙な歌を口ずさむ。
「(オルグは楽しい♩オルグ、オルグ♩貴方の出身成分を教えて♩)」
不思議な言語だわ。南方系?原始的にも聞こえる・・・が。力が強い。言霊力はある。
このような時は・・・
動く指で二の腕をつねる。こうすると過去のトラウマがよみがえる。
☆☆☆回想
「お父様、わたし、大きくなったらお父様のお嫁さんになるっ!」
「はは、リリー、それは嬉しいが母さんがいるしな」
「グスン、グスン」
・・・・・・・・・・・・・・・
うわ。おかげで頭が覚めた。
懐にあった煙玉を地面に打ち付ける。
ボム!
急いでケビンの手を引き離れた。
ケビンを思いっきりビンタして覚まさせたが・・・
「あれ、何で・・・」
「ケビン、もうお役御免だよ」
「ええ、そ、そんな」
「一度、汚染されたら・・・」
ケビンは平民になる。これは罰かご褒美か分からない・・・
更に深刻な事態になった。
「お嬢様、危ない!」
フランソワーズ様が学園に行く。階段を登っている最中、男子生徒に押されそうになった。
私は間に入り腕を取りねじ伏せ。床に顔をつけて制圧をした。
「なにゆえ?」
「真実の愛を邪魔した・・反愛分子だ。それにフランソワーズがメロディ様を階段に突き落としただろう」
「王国カゲとして証明します。そんな事実はございません」
どっかの伯爵家の子弟だ。
こんなことが続く。
「反愛分子を潰せ!」
「殿下とメロディ様のが真実の愛よ」
「家父長制度打破!」
変な造語を叫び始めた。
公爵閣下夫妻は領地か・・・・お嬢様は手紙を書いた。早くても一月後には来るとの予想だ。
後、一月もてば、屋敷に籠もればいいのに。
「いいえ。リリー、学園には先生たちもいますわ。私はゾルゲ公爵家の総領娘として逃げません」
先生はつるし上げに合っている。学園生のうち三割程度だが、王太子を中心とした高位貴族たちだ。皆、声を出せない。更に、フランソワーズ様の義弟君も姿を見せなくなった。
「しかし、義弟君もいませんね・・・」
義弟君は王宮に入り浸りだ。これ、陛下が帰ってきたらどうなるのだろう。
王国が侵食されるイメージがわく。
そんなこんなで、今、学園の庭で、私とフランソワーズ様とメイドのゾフィの3人で取り囲まれているのだ。
もう、万事休すだ。
・・・・・・・・・・
「フランソワーズよ。反愛分子にして、家父長制度の奴隷よ!」
殿下もおかしな造語を使い始めた。いや、学園の三割ぐらいだ。
しかし、その三割の声が大きい。
「殿下、何を仰せになっているか分かりませんわ」
「そうであろうな。所詮、真実の愛は分からぬか!」
殿下の隣に男爵令嬢メロディがいる。こいつは危険だ。奴の背後に数百万人の人族の熱狂を感じる。
私、リリーは栄光ある王国のカゲである。フランソワーズ様の前に立つ。背後はレディスメイドのゾフィが守っている。
大勢に取り囲まれて、我が方はたったの三人。
絶望的な状況だ。
その時、何故かお爺さまの言葉が浮かんだ。
『特異点じゃ。熱狂に対抗するには特異点を作り出すのじゃ』
煙玉が特異点か・・・何とかなるのか?一個しかなかった。
その時、お爺ちゃんがやってきた・・・えっ、えっ!
「おう、最近の若い者は騒がしいのだ!」
裸だ。肌色が目立つ。
誰かが叫んだ。
「爺!裸だぞ!」
「何じゃと、こりゃ、服を着るのを忘れた!」
その時、メロディが叫んだ。
「(スチル絵が・・・台無しじゃない!保存!保存・・・出来ない。帰れない!)」
お爺ちゃんはわざとか。メロディの前でブランブランをしたわ。
「まあ、どなたか。服を、お爺さまに服を!」
フランソワーズ様が呼びかけた。皆、躊躇する。それは・・・裸に直に自分の服を着せるのは嫌だ。
「まあ、では、私の膝掛けを!ゾフィ」
「はい、お嬢様」
「すまなんだのう」
お爺ちゃんは膝掛けを腰ノミのように身につけて。中立だった学生達に連れられてどこかに行った。
「フランソワーズ様、今です。逃げましょう」
「ええ」
メロディは頭を抱えてうずくまっている。
周りの親派はうろたえているだけだ。
後に取り調べたら、皆、夢を見ていた気分だったそうだ。
メロディを拷問して取り調べたら。意味不明な言葉が続く。
どこかの民衆派のサロンの回し者と結論がついた。
死刑にもなるであろう。
お爺ちゃんは。
「特異点を出したのじゃ。熱狂には冷ます特異点じゃ」
「お爺さまの裸が?」
「そうじゃ。ニライカナイから来た客人は綺麗な物しか見たがらない」
「お爺ちゃん・・・」
「そうじゃ。三十年ほど前に異世界人の侵略があったのじゃ。結束した側近候補もたやすく崩れた。女はほんまに怖いものじゃ・・機密事項じゃ。それ以来、カゲは公表になったのじゃ」
フランソワーズ様は敬老精神があると評判になった。
また、三十年前と同じで王太子殿下たちは闇に葬られるのだろう・・・・
歴史は繰り返す・・・ただ、学ぶだけだわ。
私はこれからもカゲを続けると決意した。
最後までお読み頂き有難うございました。




