ウィリアム
文法破壊な部分が多々あります。めげずに読んで下さる皆様ありがとうございます( ;∀;)
ブクマ・評価・リアクション励みの糧にしております
誤字報告様の活躍で文がまともに修正され感謝です(^人^)
感想ありがとうございます。
ですが返信に手間取ってしまうので(汗)
返信できない方向で(>人<;)
執務室にはハーミット公爵の他にリッター医師も待っていた
ヘクターに連れてこられたウィリアムの左頬を見て、リッター医師が扉の外に控えている侍従に氷嚢を持ってくるようにと指示を出す。
ウィリアムは三人掛けソファに座って項垂れた。
ヘクターも座るように言われて壁際にある一人掛けソファに座る。
ハーミット公爵はクレアの障害について書かれた書類をウィリアムの目の前にあるテーブルに置き
「陛下に殿下が来たら渡す様に言われました。お読みください」
公爵がそう言った所で、リッター医師は固く絞ったタオルをウィリアムに手渡す。
「取り敢えず今はこれで冷やしましょう」
ウィリアムは受け取った濡れタオルを頬に当て
書類の一番上、解離性同一障害の症状についての記述を読む。
解離性同一障害
一人の人間のなかに存在する多数の〔別人格〕が入れ替わり表に出てくる。
人格が交代している間の記憶が無い・あるいは断片的にしか覚えていない。
複数の人格が存在するが、一番長く表に現れている人格を[主人格]他を[交代人格]と呼ぶ。
発症の原因は 少ない統計から、幼少期の強いストレスやトラウマ・虐待などが原因であると言われる
ウィリアムの頭の中に
『…クレアの中には何人かの人格が存在します……』
苦悶の表情でそう話したドケーシス公爵の顔が浮かんだ
その次の用紙はクレアの今現在の状態が問診内容から書き出された物だった。
クレア十七歳
〔主人格・自死未遂以降出現確認無し〕
レイナ[妃になる事の矜持が強い]
〔自我発現・十三歳、精神年齢・十七歳〕
シェイム[自身を恥じている傾向あり]
〔自我発現・十一歳、精神年齢・およそ十七歳〕
レア[幼児退行]
〔自我発現・十一歳〔侍女証言〕、精神年齢・五〜六歳〕
フュリアス[激昂状態]
〔自我発現・十三歳〔侍女証言〕、精神年齢・十三歳〔仮定〕〕
ネビュラ[夢遊病と推測]
〔自我発現・十一歳〔侍女証言〕・出現確認無し〕
プラセル[明るく積極的]
〔自我発現・十二〜十三歳、精神年齢・十七歳に近いと思われるが不明〕
(自死未遂以降出現確認無し…)
『彼女は死にました……あなたを慕うクレアはおりませんのよ……』
レイナに言われた言葉が木霊する
〔自我発現後の記憶の共有は無い〔確証無し〕〕
〔トラウマ・ストレスによる幼児退行〕
〔人格の移動がある為、妊娠・出産は難しい〕
〔人格交代直後の突飛な行動〕
〔主人格がクレアからレイナに移行していると見られる〕etc
(記憶の共有は無い?でも彼女は『あれが』と……あの日見てたのはレイナだった?……いや、あれはクレアだった。それは分かる。クレアに……見せた…)
思い返して今更後悔と罪悪感にズキンズキンと胸が痛む
(もう一度彼女と話したい…)
リッター医師がプラセルの部分を指差し
「プラセル嬢は殿下とダンスをする時によく入れ替わっていたようです」
「え?…」
目を見開いてリッター医師を見てから再び書類に目を向ける
「踊っていた事しか覚えていないと仰ってましたので」
リッター医師は続けてそう言った。
(いつも楽しそうに……僕と踊っていたのはこの子?)
ウィリアムはダンスの時の楽しそうな様子のクレアを思い出し、混乱する頭で〔人格の移動〕について考える
(あの子の様に分かりやすい入れ代わりだけじゃ無いんだ…)
まるでトランプマジックの様に捲られた絵柄が変わる…気付かないうちに入れ替わる事もあるのだと理解した。
そこへ陛下が執務室に入ってきた。
陛下はウィリアムを一瞥して
「氷嚢で冷やせ」
そう言って陛下の後ろに付いて入室した侍従に顎で指示をする。
侍従は持って来た氷嚢をウィリアムに渡し退出して扉の側に再び控える。
陛下は執務椅子に腰掛けウィリアムに尋ねる。
「読んだか?」
「はい」
ウィリアムは氷嚢を左頬に当てながら答えた
ハァ……
陛下は一つ溜め息を吐いてから口を開く
「クレアは十三から十四の頃、当時の教育係だったリセンス・ブレーニーに虐待を受けていた」
「は?」
思いもよらない発言に間抜けな声が漏れ、大きく見開いた瞳を陛下に向ける。
ヘクターは肩をピクリと揺らした。
陛下はウィリアムと目を合わせて続けて話す。
「この事はお前には話さない。それがクレアの願いだった。クレアとの約束を破る事になるが…レイナの自我の発現時期に関わるので、お前に明かす事になった」
(……そう言えば…)
『三年前……王家の失態を黙認してもらう代わりに、クレア嬢の望みは可能な限り最大限叶えると約束した』
ウィリアムは陛下が赤の応接室で言っていた言葉を思い出した。
ヘクターは眉間に皺を寄せ膝に乗せる両拳を強く握っている。その様子はウィリアムの位置からは見えなかった。
ハーミット公爵が書類棚から当時の記録帳を取り出しウィリアムに渡す。
[クレア・ドケーシス公爵令嬢に対する傷害事件の記述]
リセンス・ブレーニー侯爵夫人による虐待・傷害・殺人未遂
○月○日
通常通りの妃教育終了時
リセンス・ブレーニーはクレア・ドケーシス公爵令嬢の頭にティーポットを叩きつける。
横倒しに転倒した令嬢に馬乗りになり絞殺を強行[未遂]
室内の烈しい物音に扉外で控えていたドケーシス公爵家の侍女に捕らえられ衛兵が呼ばれリセンス・ブレーニーの身柄を拘束。
クレア嬢は意識が無い状態だったが命に別状は無し、半日ほどで意識を取り戻す。
頭部の浅傷による出血。
事件の前後の記憶が曖昧、頭に受けた怪我の影響と思われる。
首に絞殺未遂の影響の痣。完治見積り一週間程。
虐待の可能性有り。
両掌に幾つもの細いみみず腫れを確認。
[リセンス・ブレーニー尋問の記述]
授業の度クレア・ドケーシス公爵令嬢に対し、体罰を与えていた。指示棒で両掌を叩く[本人は躾だと主張]
クレア嬢に罰を受ける様な瑕疵無しと確認
上記によりリセンス・ブレーニーの行為は虐待と断定。
後記
リセンス・ブレーニーは離縁され爵位剥奪後、斬首刑。
本件は箝口令が敷かれ秘匿。
リセンス・ブレーニーは王城の侍女に激しい暴力をふるい、王城内に流血沙汰の混乱を起こし解雇。
被害者の侍女は致命的な障害が残り貴族にあるまじき行為として離縁・爵位剥奪。
国外追放と公表。
読み終わる頃、氷嚢はウィリアムの手から落ちていた。
ウィリアムは記録帳を持つ手がブルブルと震えるのを抑えられない。
(最後の所が僕が知らされた内容……本当はクレアは…)
「これは本当にあった事ですか…」
ウィリアムは青ざめた顔色で、声を震わせながら尋ねた。
「本当だ。当時ドケーシス公爵家に事件を内密にする様に願い出た。王太子の婚約者であるクレアに対して王家が厳選して選んだ教師だった。それなのにその教師が準王族であるクレアに日常的に虐待を行い果ては殺害未遂。
王家への信頼を揺るがす醜聞を表に出す訳にはいかない。ドケーシス公爵家はこれを受け入れてくれた」
「どうして僕に教えてくれなかったんですか?!」
ウィリアムは声を荒げて問う
「クレアの願いだと言っただろう…」
陛下が苦い表情でそう答えると
「………なんで」
ウィリアムはか細く溢した
「お前は当時隣国に行っていて知る事ができなかった。そしてクレアは事件の事…特に虐待についてウィリアムに知られたく無いと願った。『恥ずかしい』と言ってな…」
「……恥ずかしい?」
ウィリアムの表情に困惑が被さる。
「クレアは虐待されてたと思ってなかった。虐待と知らず真面目に受けていた自分が恥ずかしかったのか……誰にも話さなかった事を悔いたのか…とにかく『知られたく無い』と泣きながら懇願するんだ。叶えない訳には行かなかった…」
ウィリアムの頬に涙が伝った
(……僕が…僕が馬鹿な行動をしていなければ…クレアは相談してくれたかも知れない…)
呆然とした様子のウィリアムの瞳から涙が溢れ続ける
そんな様子の息子に、まだまだ酷な話を続けなければならない
馬鹿な息子への怒りと失望…真逆の愛しむ親心がぶつかり苦しさで眉間に深く皺を寄せる
そんな二人を見るハーミット公爵やリッター医師も苦しい表情を隠せなかった。
ヘクターは当時の怒りが蘇り、感情を抑え込む為に目を閉じている。
「………リセンス・ブレーニーを煽って自分を襲わせる様に仕向けたのはレイナだ」
「「?!」」
ウィリアムとヘクターは驚きに声も出ない様子で目を見開く
ウィリアムの涙は一旦止まった。
「……まだ…見せる物がある」
そう言って陛下は鍵付きの引き出しの鍵を開けて、中から六冊のノートを出した。
「書類に書いてあった人格の一人シェイムが…気持ちを吐露したノートが半分。途中からシェイムとレイナとのやり取りに変わる。『交換日記』とレイナは言ってるそうだ」
そのノートを出された瞬間、ガタッとヘクターが動いた。思わず立ちあがろうとしたのだ
陛下はハーミット公爵を一瞥して溜め息を溢す
「ヘクターも見たいなら見て良い」
陛下のその言葉にハーミット公爵の表情に苦悶の色が走る。
公爵はヘクターを心配しているが、止める事はしない。
ヘクターに見ないと言う選択肢は無いと分かっているからだった。
「はい。見ます」
そう言って立ち上がり、陛下の執務机に向かい
陛下から六冊のノートを受け取ると、ウィリアムが座るソファの真向かい、対になっている三人掛けソファに座って
間にあるテーブルにノートを置いた
「一番上から古い順になっている…」
陛下がそう言うと、ヘクターは一番上のノートを取ってウィリアムに差し出した。
(先に見ろ)目でそう言っている。
ウィリアムは覚悟を決めてノートを受け取り…開く
「!………」
◇
ウィリアムはボタボタと涙を流しながら止まる事なくノートに目を通し、レイナとのやり取りが始まった辺りでようやく涙が止まった。
ヘクターも瞳に涙の膜を張りながら溢すまいと時折袖で拭い
止まる事なくノートを捲る
やはりレイナとのやり取りが始まると冷静を取り戻し始める。
確かに…ノートにはブレーニー夫人に対する作戦がある様な文があった。
(……危険な事を考えるんだな…)
ウィリアムは
レイナは有益なら危うい行動も厭わない様だと感じた。
そうしてクレアが眠れず、睡眠薬を処方されていると知る
(眠れないのも僕のせい…)
ズキズキと胸が痛む。頭の中は謝罪の言葉でいっぱいで…泣く権利は無いと分かっていても、涙が滲む
そうして己の愚行に関する記述もあった、ウィリアムは青褪める…
(ごめん…ごめんクレア…本当にごめん)
そうして…ノートの最後の一文でウィリアムの息がヒュッと詰まる。
[気付いたら、学園の廊下で、凄く息を切らして、泣いていたんだけど。
クレアが泣いてたのかしら…それともシェイム?
心当たりはあるかしら?]
「……………………………」
次にそのノートを読むヘクターにはウィリアムの様子の意味が分からない。
だが、陛下とハーミット公爵とリッター医師は知っている
ウィリアムは観察されている。
フルフル震える手はノートを落とす。
ウィリアムの手はノートを拾う事なく自分の顔を覆う
涙は止めど無く流れ続ける
(僕が…僕が僕が僕が僕が僕が!僕が愚か者だから!僕のせいで!僕の!僕が僕が…あああああああぁぁ…取り返しがつかない……全部!全部僕のせいで!)
フーッフーッフーッフーッフーッフーッ
呼吸するのが精一杯な様子のウィリアムに陛下が問う。
「心当たりはあるか?」
フーッフーッフーッフーッフーッフーッ
フーッフーッフーッフーッフーッフー……
「……あの日の…夕方……学園の中庭で……」
ウィリアムはポツリポツリと話し出す
顔を覆っていた両手は頭に移動して自身の髪を鷲掴んだ
「クレアが見てる前で…リール・シリッカと口付けを交わしました…」
「!!!!!…お前!…」
ヘクターの頭に一瞬で血が昇り、ウィリアムに掴み掛かろうとした。
すんでで公爵とリッター医師が止めに掛かる。
公爵が後ろから羽交締めに、リッター医師がヘクターの前に周り押し止める。
「お前!ウィリアム!!!何やってんだよ!どうして!どうしてそんな!!」
ヘクターがリッター医師越しに怒声を放つ
フッとウィリアムの視界が薄暗くなり、自分が握っていない部分の髪を掴まれ上に引っ張り上げられる
立ち上がらせられたウィリアムの目の前には陛下の顔があった
ヘクターは威圧の滲む陛下の様子に怒声をとめる
バチンッッ!
王妃が叩いたのと同じ左頬を叩かれ、ウィリアムの体がソファの上に倒れる
「ぐっっ…」
ウィリアムの口の中に血の味が広がり、目がチカチカする
気絶しそうな程の衝撃にクラクラしながら、拳を握り痛みに耐えた
陛下はテーブルに落ちている氷嚢を拾いウィリアムに放る
「冷やせ」
一言そう言って陛下は床に落ちたノートを拾い机の上に置く
「ヘクター座れ」
そう言うと陛下は再び執務椅子に戻り座った
既に大人しくなっているヘクターの拘束を緩める公爵とリッター医師
ヘクターも大人しく陛下に従い腰を下ろした
ウィリアムは腕に力を入れてソファに伏した体を起こす
放られた氷嚢を左頬に当てた。触れるだけでビリビリと痛んだが、耐えて氷嚢を押し当てる
「……それで?」
陛下のその問いはウィリアムに向けられている
「………レイナともう一度話をさせて下さい」
言葉を発するのにも痛みが走った。
「………………」
少し間をおいて陛下は公爵に目配せする。公爵は扉の外に控えている侍従に伝言を伝えた。
「『午後ウィリアム殿下と会う時間を取って欲しい』とレイナ嬢に伝えてきてくれ」
◇
打診が叶い、レイナは昼食の後会う事を承諾した。
ウィリアムは口の中が切れていて昼食は食べられなかった
そもそも食欲は無いので食べようとも思っていなかったのだが
髪を整えて、ギリギリまで左頬を氷嚢で冷やしていた。
時間になり王妃宮を訪れたウィリアムは、応接室でレイナと対面している。
(………数時間しか経ってないのに、どうしてこんなボロボロになってしまったのかしら…)
レイナは目の前に座るウィリアムの激変した様子に困惑していた。
「ウィリアム様…まだ私と話し足りませんでしたか?」
コテンと首を傾げて尋ねるレイナに、ウィリアムはグッと口に力が入る
喋ろうと口を開いたが、一瞬躊躇して口がハクハクと空気だけを吐いた
「大丈夫ですか?お口が痛そうですけど…」
「だ…大丈夫……」
少しの沈黙の後、ウィリアムが口を開いた
「さっき…話した時……『あれが決定打でした』と言っただろう?」
「……はい」
「本当は君は何も知らないんじゃないか?」
「あら。気づかれました?……はい。嘘を吐きました…貴方を追い詰めたかったので」
レイナはニッコリ笑って認めた。
「………」
レイナの答えにバツの悪そうな顔をするウィリアム
「気分を害されましたか?」
レイナがそう尋ねると、ウィリアムは緩く首を振り
「気分を害したりしないよ。僕にはそんな権利は無い
……君の方こそ怒ったんだろう?……僕のせいでクレアが死を選んだと分かって……」
「……はい」
「……あの日……僕が何をしたのか話に来たんだ」
レイナは驚きで目を見開く
見開かれたレイナの目をしっかりと見て、ウィリアムは口を開いた
「……あの日…放課後の中庭で…クレアが見てるのを知りながら………リール・シリッカと口付けをした」
レイナの眉間に皺がより…瞳に怒りが滲む。
それが次の瞬間。皺は消え…怒りも消え…表情も消えた。
「?!」
レイナに激しい怒りの感情を向けられる覚悟をしていたウィリアムは戸惑う。
(なんだ?…誰かに入れ代わる?)
レイナの瞳がキョロリと動き、ウィリアムを捉えた。
「……まったく…やっと眠らせたのに…また会いに来るなんて…」
小さく溜め息をついてからレイナがそう言った
「……レイナ?」
レイナと違う人格だと分かっていても、どの名前を呼べば良いか分からないウィリアムは
一旦『レイナ』と呼んでみる
「お陰で益々深くへ逃げてしまったよ」
現れた人格は『レイナ』と言う呼びかけには答えなかった
「……君は?…誰?」
ウィリアムは困惑の滲む表情で恐る恐る尋ねる
その質問にレイナはウィリアムをジッと見て
「……………ウィリアムだよ」
ニコリと笑ってそう答えた。
「は?」
ウィリアムは飲み込めない返答に困惑の声を溢す。
レイナは笑顔を深めて話し出す
「僕はウィリアムだよ。クレアにだけ優しいウィリアム。クレアの事だけ大切にするウィリアム。クレアに寄り添っていつも側に居てくれるウィリアム。……分かるかい?クレアの為だけのウィリアムだよ」
目の前に居るのはクレアなのに、ウィリアムは鏡を見ている様な気分に襲われる。
「あぁ…でも、ややこしいね。僕の事は…ウィルって呼んで貰おうかな」
「……ウィル…」
ウィリアムは一言呟くのが精一杯だった。
「彼女の事は僕に任せて。君にできる事は……せいぜい謝り続ける事くらいだね。じゃあ僕はクレアを探しに行くから。またね…………」
『ウィル』と名乗ったレイナの表情が抜けて、再び瞳に意識が宿る。
その表情は『ウィル』でも怒りでもなく困惑だった
「???…今…何が起きました?」




