ヘクターは想いに蓋をする
新年明けましておめでとうございます。
2026年も宜しくお願い致します。
年明け早々、お読みいただき。ありがとうございます
誤字脱字報告助かってます。よろしくお願いします
王城で開かれる夜会に初めて参加する。
夜会の最後にウィリアムとクレアの婚約を発表するそうだ。
青空の様な色のドレスを着たクレアはとても綺麗だった、ウィリアムの瞳の色だ。
黒髪に金の髪飾りを付けてとても嬉しそうに笑っている。
そんなクレアの隣にいるウィリアムも、金と赤で刺繍が施された黒いジャケットに濃い赤のトラウザーズを合わせて
クレアの瞳の色、ルビーのブローチをつけている。
お似合いの二人に胸が苦しい。
ウィリアムが少しの間、陛下と一緒に挨拶回りにと離れると、その間はクレアと二人きりになれた。
クレアを独り占め出来た様で、心が浮き立つ。
一人っ子のクレアが俺を兄の様に思っている事は気付いている。
同じ黒髪だから、並んでいると家族の様に馴染むから、クレアは俺に兄に向ける様な信頼を寄せてる。
(…俺が欲しいのはそれじゃない…)
クレアと目が合うと、ハーミットの家系に無い赤い瞳が…俺は兄では無い証明してくれる…兄の様に振る舞わなくて良いと思える…。
(………苦しい……)
しばらく経っても戻ってこないウィリアムが心配になり
俺とクレアは一緒に探しに行こうかと動き出した。
その時、音楽が鳴り始めてクレアは焦りはじめる。
二人が婚約すると言うのは周知の事実だった、今日が発表の場になる事も
だからウィリアムとクレアはファーストダンスを踊る。その予定だった。
それなのに
ホールの中央でウィリアムが見知らぬ令嬢と踊ってる。
(はぁ?!)
「……えっ?…」
踊る二人の姿を見て、クレアの身体がカタカタと震え出す…。
(!!!あいつ!何やってんだよ!!!!!)
ウィリアムとファーストダンスの約束をしてた時のクレアの嬉しそうな顔が…今は蒼白になって震えている。
そして突然、庭園に向かって走り出した。
「クレア!」
慌てて追いかける。
「クレア!…クレア、待って…」
(……ど…どうしよう…何処を掴めば…)
クレアは全力で走ってるけど
男で体力もあって、クレアよりずっと体の大きな俺は簡単に追いついた。
(手を掴んで引き留めようか……でも、その後どうしたら良いんだ?…なんて声を掛けたら…)
迷いながら追いかける事しか出来ず…
そうしてるうちに…息を切らしたクレアの速度が段々と遅くなって、噴水の所まで来たら縁に座り込んでしまった…。
「クレア…大丈夫?」
クレアの顔を覗き込んで尋ねると…
「ううう〜〜っ」
クレアの目から涙がポロポロと溢れ出した。声を出さない様に精一杯耐えている…俺はクレアが泣くのを初めて見た…。
「クレア!!」
息を切らしてやって来たウィリアムと目が合った瞬間
「ウィリアム……何やってんだよ!今日はクレアとファーストダンスを踊る約束だっただろう!」
荒げた言葉が出た。
「ご…めん…」
ウィリアムが小さく呟く様に謝ると
「ひどい!!ひどいわ!!!!!ウィリアム様とのファーストダンス…凄く!!!…凄く楽しみにしてたのに!!!!!」
クレアは火が付いたように怒り出した…涙をボロボロと溢しながら
クレアがこんな風に怒るのも初めて見た……
きっとウィリアムも初めて見たのだろう…焦った様子で
「ごめん!本当にごめん!! 今日はもうクレア以外とは踊らないから!」
そう言って、必死に謝って…慰めてる。
泣くのも…怒るのも…ウィリアムを好きだからだ…。
(……悔しぃ……)
悔しい…羨ましい…辛い…見たくない…なんで…どうして…俺だって…俺だったら…羨ましい…羨ましい…羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい
クレアは涙を拭いながら
「……本当に?」と、尋ねると
ウィリアムはハンカチを出してクレアが拭いきれなかった涙を拭い
「うん!今日はもう、クレアとしか踊らない。」
そう約束して、会場までクレアをエスコートする…二人のその背中をジッと見ていると
「ヘクター…行こう。」
ウィリアムは振り返ってそう言ってきた。
(???…なんだあの顔は?)
「ん!…………先に行っててくれ。」
「………………そう?、じゃあまた、後で」
クレアも、ちらりと振り返った時、俺と目が合った。
俺が手を振ると…クレアはホッとした様な顔をした後、恥ずかしそうに笑った。
………とても、可愛かった……
(……はぁ……つまり、俺はクレアと…踊れないって事か…)
俺は、夜空を仰ぎ見て…直ぐに動く事が出来なかった……。
(………それにしても…何なんだ?あのウィリアムの表情は……)
不安な様な…安心した様な…怖がってる様な…強気な様な…
見た事が無い表情だった。
そのまま少し…庭園で頭を冷やし、舞踏ホールに戻ると
…ウィリアムとクレアがホール中央で踊ってる。……クレアは輝く様な笑顔で楽しそうに…
そのまま何曲も……やはり俺は、クレアと踊る事は出来なかった…。
◇
パーティの終了の挨拶で…
ウィリアムとクレアの婚約が発表された。
すると何処かから…
「でも、ファーストダンスはクレア様ではなかったわよね…」
(?!)
誰が最初にそう言ったのか…それを皮切りに
クレアを嘲る言葉が聞こえて来る…。
「ファーストダンスを断られたのかしら…」
「ウィリアム様は本意じゃないんじゃ…」
「ファーストダンスをしなかったから、その後はずっとクレア様がウィリアム様を独り占めしてたのよ…我儘なのねぇ」
「ウィリアム様は他の子とも踊りたかったんじゃ無いかしら…」
(…何なんだ?…この空気は……)
決して大きい声ではないが…確実にクレアの耳には届く音量。
見やればクレアは青褪めている…。
(くそ!。何なんだよ!)
囁くような嘲る声を、俺はどうする事も出来ない…。
焦りと苛立ちを感じながら、クレアを心配して見ていると…
クレアはスッと胸を張り…凛とした笑顔を顔に乗せた…。
「…………………なんて…(綺麗なんだろう…)」
ウィリアムとクレア…光の中に並ぶ二人は絵画の様に美しかった…。
ウィリアムの一瞬の仄暗い目が無ければ、本当に絵画の様だった…。
クレアを卑下した奴らも、ウィリアムを見たんだろう…その後は誰も何も言わなくなった。
翌日…ウィリアムは俺と護衛十名を引き連れて
クレアを卑下した連中の邸宅を、一軒一軒訪問した…。
手土産にハサミを持って…『縁を切られたいのか?』と言う脅しをかけた。
その家門には何かしらの不利益が科せられた。
こんなウィリアムも初めて見た……。
◇◇◇
あの王城でのパーティ以降…ウィリアムは少し変わった。
クレアを気遣いながらも…時々、知らない令嬢に凄く優しく接する様になった。
元々優しいやつだったけど……俺達以外に見せる優しさは、王族としてだったのに…。
とあるパーティに参加した時…
ウィリアムはクレアをエスコートして入場した後、再び入り口に戻って…全然知らない令嬢の手を取って入って来た…。
俺はそれを少し離れた場所から目撃した…。
頭から火が出るかと思うほど怒りが湧いた…。
(クレア以外の手を取るなんて!!!)
そんな場面を見たクレアが心配になり、側に寄ると…
「あの子が困っていたからだよ」と、聞こえてくる。
どうやら、その令嬢は会場に父親が先に入ってしまい入場出来ずにいて…それに気付いたウィリアムは手を貸してやった…らしい。
「誰か他の人に頼んでも良かったじゃない…」
クレアが俯いて…涙目で、そう言ってるのが見える…。
「!…そーだね!ごめん!人にご父君を探させても良かったのに…ごめんね!」
ウィリアムはクレアの肩に手を添えて、顔を覗き込む様にして一生懸命謝っている…。
(俺はもう…あんなにクレアの近くには寄れない…)
悔しい…羨ましい……そんな気持ちで心がいっぱいになる。
その時ウィリアムと目が合った。
(……また……)
不安と…安心と…恐怖と…虚勢と…愉悦…そんな物が混ざった表情が一瞬だけ……
しかも…その感情は俺に向けられている?
(なんで?)それを俺に向けるのか?
「クレア様のエスコートが嫌だったんじゃない?」
俺はその声に、ハッとする…。
「少しの間でも一人残されたら可哀想ね。」
「ウィリアム様の優しさなのに、クレア様ったらお心が狭いのね。」
「独占欲が強いのかしら。」
また…嘲る言葉がクレアを囲んでいる。
(……?…まるであの時みたいじゃないか…)
俺は苛立ちで、拳を強く握った……。
後日…
ウィリアムは、またハサミを贈る。
そんな事を度々繰り返す……。
◇◇◇
王妃様主催の薔薇の鑑賞会
自由に花を摘んでいいエリアでは、子供達がブーケ作りを楽しんでいる。
作られたブーケは身内や婚約者に贈ると言う不文律がある…。
(今日は王妃様も居る…流石に馬鹿な事はしないだろう……)
当然、ウィリアムはクレアに贈ると……なのにあいつは、見ず知らずの令嬢に渡していた…。
(?!…なんで……なんであいつは…)
クレアが作りかけのブーケを握りしめて震えている……涙を溢さない様、堪えているケド…
ポロポロと涙が溢れ落ちた…。
怒りと悔しさで思考が塗り潰されていく。
(どうして?!……俺だったら泣かせない!!!)
王妃様とドケーシス公爵夫人は青褪め…
ウィリアムとクレアは侍女に休憩室へと連れて行かれる……俺はそれを見送る事しか出来ない……。
きっと…ウィリアムはまた必死に謝って…クレアの機嫌を取っているんだろう……(クレアの事を一番に想っているんだよ…)と。
歪な愛情表現…
王妃様と夫人が、会場のご婦人達に
ウィリアムは…ブーケは身内か婚約者に渡すと言う不文律を知らなかったと伝えている…。
王妃様と夫人は気付いているのだろう……ウィリアムが拗らせた愛情表現をしていると
(きっと、ウィリアムは王妃様に叱られるんだろうな……それで懲りてくれればいいけど…)
そうはならない気がする。
しばらくして、二人が戻って来る…。
(…クレア……目元が少し赤い……)
心配で二人を見ていた俺と、ウィリアムの目が合った……そしてまたあの顔……。
(………あぁ…そう言う事か……)
段々分かってきた…。
ウィリアムはクレアにヤキモチを妬いて欲しい。
そして俺を怖がっている…クレアを取られるんじゃないか…と。
だから…クレアにヤキモチを妬かせる事で、確認したいんだ…一番に想われてるのは自分だと……安心したいんだ…まだ自分が一番だと…。
それを見る俺が傷付いてるのを見て、また安心している。
そして俺に…諦めろと訴えている…。
諦めてくれと…。
いつ気付かれたのだろう……。
(…何、怖がってるんだよ…そんな事をしなくたって、クレアの心はお前しか見てない…)
そもそも、俺が何をしたって二人の婚姻は決まっている。
でも、ウィリアムが怖がるなら…そんなに心配なら…
俺はこの気持ちを隠さなきゃいけない…。
もお、クレアをカケラも想っていないよ…と……。
俺は想いに蓋をした。
この時も、クレアを嘲る言葉をヒソヒソと話すヤツがいたケド…
そいつらはキッチリとウィリアムが処理していた。
最初の訪問が噂になっているのか……ハサミが贈られると言う事は
その家の誰かが、クレアを嘲る発言をした為に…王太子からの何かしらの返礼がある事を示す。と周知される様になっていく…。
そうして、クレアを嘲る言葉は俺達には聞こえなくなった。
ウィリアムよりもヘクターの方が
ウィリアムの気持ちを正しく捉えてます。




