日曜のお茶会
「ご案内いたします。」
エタンセルが、ドケーシス公爵家の侍従の後に従って案内されたのは豪奢なバラの温室だった
「いらっしゃい。エタンセル様。突然の呼び寄せを受け入れて下さって、ありがとうございます。」
クレアが、お茶会の様な準備がされたテーブル席から立ち上がり、出迎える。
(………?あれ?)
エタンセルは出迎えたクレアの雰囲気に違和感を覚える
だがそれよりも温室に居る面々に動揺して、違和感は一旦忘れる事にした。
「お気になさらず…お招きありがとうございます。」
丁寧に挨拶を返したエタンセルは着席を促され、それに従う。
温室に設られた大きな丸テーブルには、公爵夫妻と見知らぬ男性が二人着席していた。
壁際に控えている侍女や侍従の数は多く、この規模のお茶会にはバランスがおかしい
「少しでもリラックスして頂ける様に、場所を温室にしましたの。先ずは喉を潤して下さいな。」
「……はい。頂きます。」
促されるまま、エタンセルは紅茶に手を伸ばす
クレアはエタンセルが一口飲むのを待ってから、口を開く
「ご紹介しますね。こちらは私の両親…そしてドケーシス公爵家の専属医セイン・ソテリア様。そしてこちらが、王族専属医のリッター・メンテ様です。」
クレアは自身の右側に座る公爵夫妻と、左側に座る二人の医師を紹介する。
エタンセルの左には公爵、右にはセイン医師が座る形に円に着席している。
(お医者様が何故?……しかも王族専属医?)
「………初めまして…フラム侯爵家のエタンセルと申します。」
「……何故お医者様が?って思ってるわよね?」
「あっ!あの……はぃ……」
エタンセルは心が読まれた様な気分に、返事が尻すぼみになる。
「実は私、深刻な障害を患ってるの…それこそ婚約が維持出来ない程の。」
「え?!ご病気なのですか?!」
エタンセルは心配して前のめりに聞き返す
「いいえ。病気では無く障害ですって。……私は解離性同一障害を患ってるの。」
「……初めて聞きます……」
「そうよね…理解しやすい様に、セイン先生に資料を作って貰ったのよ。先ずはそれを読んで頂きたいの…」
クレアがそう話すと、エタンセルの隣に座るセイン医師が資料を差し出す。
「拝見します。」
エタンセルは、受け取った資料を読み始めた
その様子を見ながら、夫人は今朝の事を思い返していた
◇
「国王陛下への提案は、私をこのままウィリアム様の婚約者とさせて頂く為に、私との婚姻を結んだ後に、第二王太子妃と側妃を娶る事。ですわ。」
用意された軽い朝食を食べながらレイナは提案するつもりの内容を話す。
「どうして、第二妃や側妃などと?」
そう尋ねる公爵にも朝食は用意されてるが、レイナの話しが突拍子無さすぎて、困惑で手が出ない。
「今、私が患ってる障害では、公務の執り行いも授かった子を育むのも難しいでしょう。
なので、王妃としての公務を一緒に担う第二妃。血を繋ぐのも大事な責務ですので、そちらを側妃にお任せするの。」
「つまり、レイナお嬢様が王太子妃と言う立場を維持するのに必要と言う訳ですか?」
セイン医師はモグモグと朝食を食べ進めながら聞き返す。
「そんな!……どうして?…王太子妃なんてならなくて良いじゃない!。ウィリアム殿下との婚約なんて解消して…領地へ戻って心穏やかに過ごせば良いじゃない!!。」
夫人も食事に何も手が付けられない
「……お母様……だって悔しいじゃないですか。いろいろと……」
「……悔しい?」
「はい。……このまま婚約解消となれば、また周りの口さがない者達が、色々中傷や嘲笑を囁きます。
まぁ、領地に篭ってしまえば私の耳には入らないでしょう…ケド。そう思われるのが私は嫌なんです。
私は病を患って病弱になってしまった婚約者で、病弱なのに王太子が手放さず、望まれて王太子妃になる。と言う筋書きをクレアの尊厳の為に用意したいんです。」
「……クレアの為……」
夫人がポツリとレイナの言葉を繰り返す
「はい。沢山の事に耐えて来たクレアの為です。」
その言葉に俯いてしまった夫人の背中を、隣に座っている公爵が摩る。
「エタンセル・フラム侯爵令嬢を第二妃にと望むのは、今一番、適任だからです。」
「適任…?」
公爵が聞き返すとレイナは言葉を続ける
「彼女は、ウィリアム様の側近候補のヘクター・ハーミット公爵令息の婚約者ですから、提案を断られた場合、今回の事情を知っていても問題の無い人物ですし。
受け入れて貰った場合、ヘクター様との婚約も解消しやすい…
ヘクター様は三男で家督を継ぐ訳ではありませんし、エタンセル様もフラム家の三番目のお子ですから。お二人の婚約は政治的な思惑があまり絡んでませんでしょう。
身分も相応しい。容姿・才覚も申し分無いと思われます、私の知る限りですが…
そして、子が望めないと言うのが大きいです。」
「それは何故ですか?」
セイン医師はデザートに手をつけながら聞き返す。
「大衆に、第二妃は能力を望まれて。と思っていただかないと。なので、第二妃とウィリアム様との間に子が出来ない事が望ましいのです。
側妃を設けるのも…世継ぎが必要だからであって、愛を持って召し上げるのでは無いと思わせる為に…三人は欲しいですね。
王家の利点は、長年婚約を結んだ公爵令嬢である私を無情に切り捨てない寛容さを示しつつ、
第二妃の妃教育を焦らず進められる。…一から新しい婚約者を探して、教育するのは時間が掛かりますから。」
(確かに…殿下と見合う身分で年頃の令嬢は、大体がどこかの家門と婚約を結んでいる……王家としてもレイナの案は都合が良い…しかしこれは…この考え方は…)
公爵は心の中で(なんとも王妃らしい考え方…)と思った。
自分の立場を確保しつつ、国にとって良い方法を取る。人が絡んだ事案なのに、そこに個人の感情を慮らずに提案する。
(王妃の役目を担う為に成長したクレア……)
公爵はクレアがどんな重積を背負っていたのか改めて感じた。
「側妃はどうやって選出するんです?それこそ、年頃の高位貴族令嬢は誰かしらと婚約を結んでいるでしょう?三人も召し上がられますか?」
セイン医師が再び問うと
「側妃であれば伯爵や子爵まで下げても障り無いと、私としてはウィリアム様と懇意にしていた令嬢達を候補に上げたいんです。私に対して罪悪感があれば提案を受け入れるよう誘導しやすいですし……ですが、側妃に召し上げるとなると王家に連なる立場になるのでしょうから…王家の厳重な身上調査を受ける事になりますよね……そこは王家の意向を優先して頂いて……
エタンセル様にお断りされてしまったら…側妃候補から一番優秀な方に、第二王太子妃になって頂きます。
……第二妃との間に子が出来ると、やはり寵愛はクレアに向いていないなどと囁く輩が出るでしょうから…作らないようにお願いしましょう。
…まぁ…先ずは陛下が提案を受け入れて下さった場合の話しですわ。」
レイナはニッコリ笑って言っているが、言葉の裏に怖い物があるのが有り有りと感じ取れて、公爵とセイン医師はゾッとする。
しかし夫人は、王太子妃の立場に身を置こうとするレイナに憤っていて、言い回しの裏なんか気にしてられない
「でも…私はあなたがこれ以上大変な思いをするのを見たく無いのよ…」
膝に置いた手がスカートをギュッと握り込む
「あら。お母様まで…私が幼な子に見えてるんですね♪。やっぱりレアのせいかしら?」
レイナはクスクスと笑いながら公爵の方を見て言う。
夫人はレイナの言いように顔を上げ、公爵とレイナを交互に見る
「んん!……朝、レイナの顔をタオルで拭いてやろうとした…」
公爵は顔を赤くし小さな咳払いをして、自分の朝の振る舞いを教えた。
公爵夫妻はレアをあやした事で、父性と母性のスイッチが切れないでいた。
(……あぁ…そうか…レアは幼な子だけど…レイナは違うんだわ…私ったら、すっかり引っ張られて…)
夫人は、気持ちをグッと押し込める様に唇を結んでから
「………そうね…レイナの思う様にするのを手助けするわ……」
「ありがとうございます♪お母様。陛下が提案を飲んで下さらなかったら、領地に帰ってお母様に甘えて過ごしますわ♪。」
レイナは夫人の手を握って笑顔で約束した。
◇
「………クレア様の中に複数の人格が……」
エタンセルはポツリと呟いた
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