朝のバタバタ
レイナは自分がいつベットに入ったのか記憶に無い。
(アニタを休ませて……セイン先生に資料の用意を頼んで……寝る前にお水を飲もうと思って……そこから記憶が切れてるから、誰かが出て来たのよね…?誰かしら?……どうしてお父様とお母様が一緒に寝てるのかしら?)
レイナが時計を見ようと身じろぎしたら、左隣に横になっていた公爵が目を開けた。
「起きたのかい?………今は…誰かな?」
まだ寝息を立てている夫人を気遣って、極小声で公爵は問う
「レイナですわ。」
レイナもコソコソと公爵に伝える
「おはようレイナ」
そう言いながら体を起こして、レイナの右隣りに寝ている夫人の様子をそっと伺うと
「クラリスは、もう少し寝かせておいてあげよう。レイナは先ず顔を洗おうか。」
公爵はベットから降りて、夫人を起こさないよう、静かにレイナの手を掴んで引き上げる
時計を見ると七時を回ったところだった。
客室付けの浴室に移動して、洗面台に向かう
「うわ…」
鏡に映る自分の顔を見てレイナは引く様に驚く
(目元がガビガビ…凄く泣いたのね…涙の塩分のせいかしら…ちょっと痛いわ……顔全体が浮腫んでる〜)
「先ずはよく洗って…擦らないようにな。後で冷やしたタオルを持って来させよう。」
そう言いながら、公爵はレイナの長い黒髪をリボンで縛ってくれた。
そしてレイナの頭を撫でる
「お父様?」
「!…ああ…いや、…懐かしいなと思って…子供の頃のお前に強請られて、結べる様になるまで苦労したな…と思い出してた。」
「そうでしたわね♪ 。三つ編みまでマスターしてくれましたものね♪ 」
「………覚えてるのか?」
「勿論♪ 私の自我が目覚める前までの事は共有してますわ。」
「………そうか…」
公爵は穏やかに笑う。
レイナは冷たい水で顔をよく洗うと、公爵がタオルでレイナの顔を拭き出した
「?!お父様?自分で出来ますよ?」
「!…おっと…済まない……そうだったな…つい……気分が抜けなかった…」
公爵は苦笑いしてタオルをレイナに渡した。
「気分が抜けない?」
レイナが顔を拭きながら聞き返す
「お前が起きる前…眠るまでは、レアだったんだよ。」
(レア……幼児の子ね。)
「泣いてグズって侍女達を困らせてた。私とクラリスが駆けつけて、宥めてあやして…そのまま一緒に寝てしまったんだ。」
「…だから、三人並んで寝てたんですねぇ…お疲れ様でした。」
クレアも苦笑いで公爵を労う
そこへアニタが、コンコンと開けたままの浴室の扉を叩いた。
「おはようございます。旦那様、お嬢様。」
「アニタ。おはよう。休息は取れた?」
「はい。充分に。」
アニタはニッコリと笑顔を向け、一通の手紙を差し出して来た。
「…お嬢様、フラム侯爵家のご令嬢からお手紙の返事が届きました。」
「あら!早かったわね。あちらに届いたのは早朝だったでしょうに…直ぐ返事を書いて下さったのね。」
そう言いながら手紙を受け取り、開けて読み出す。
「……良かった♪ 。来て下さるそうよ。アニタ。エタンセル様が午後の二時にいらっしゃるから、おもてなしの準備をお願いってムーロに言っておいて。」
「畏まりました。軽い朝食も用意致しますね。」
「ああ、アニタ。冷やしたタオルも持ってきてくれ。」
アニタは、チラリとレイナの顔の浮腫みを確認して
「はい。直ぐにご用意致します。」
そう言って部屋を下がると、入れ替わる様にセイン医師がやって来た。
「おはようございます。公爵。お嬢様。頼まれた資料をお作りできましたよ。」
セイン医師はレイナに頼まれた、レイナが[解離性同一障害]である。と言う診察結果を資料にしてもらったのだ。
この資料には、[解離性同一障害]についての簡潔な説明と
クレアの中に存在する人格に、幼児や気性の激しい者が存在する事から、妊娠が困難である。と記されている。
「ありがとうございます。これで話がし易くなりますわ。」
「そうですか?」
セイン医師は頭をポリポリ掻きながら返す
「そうですよ♪、お医者様の見解は説得力が違いますもの。」
「レイナ…陛下や、その令嬢に出す提案の事を聞いておきたいんだが…」
「そうですね……セイン先生もいらっしゃいますし。
いつ私以外になるかわかりませんし……エタンセル様と話してる最中に入れ替わってしまった時に、話が続けられる様…
お父様達にも把握して頂いた方が良いですね。
……エタンセル様には第二王太子妃として、ウィリアム様の二人目の婚約者になって頂きたいの。」
「「なっ!?」」
ガシャーン
公爵とセイン医師が驚きの声を上げるより早く
浴室の扉のところに来ていたアニタが、冷やしタオルを乗せたトレイを落とした。
その音でビクリと夫人が起きた。
「どうしたの?!」
◇◇◇
エタンセルは、ナイトウェアの上にガウンを羽織ったまま
受け取った手紙を片手に自室のソファに座っている
「どうしてクレア様からお手紙が……それも、こんな早朝に……」
エタンセルは呟きながら封筒を開け、手紙を読み始めた。
[ごきげんよう。エタンセル様。
不躾なお手紙を受け取って頂き、ありがとうございます。
不躾ついでに、無茶なお願いを致します事をお許し下さい。
私事なのですが…ウィリアム殿下との婚約を継続する為に、エタンセル様のご協力を仰ぎたいのです。詳細をお話ししたいので、本日の午後、ドケーシス公爵家にいらして頂けますでしょうか?色良いお返事をお待ちしております。 クレア・ドケーシス ]
(……婚約継続のため?…どうして私の協力が?………)
エタンセルは便箋を封筒に仕舞い、立ち上がって自分の机に向かう。
引き出しから便箋セットを取り出し、クレアへの返事を書き出した
[……本日の午後二時に伺わせて頂きます……]
(あの時の
私の言葉が…関係するのかしら…)
◇◇◇
エタンセルは
ドケーシス公爵家の玄関広間に侍女を伴い立っている。




