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「彼女は死にました。」私はあなたの子を産みません。  作者: Kurakura


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エタンセルの後悔


 エタンセルがヘクターと婚約して一年半程経った…


「王太子がなんだって言うのよ!」


 婚約者同士の交流で定期的なお茶会をしている最中…

エタンセルは荒れていた…


「エタンセル。落ち着いて…お茶を飲もう」


そう言って空になったティーカップに、ヘクターが紅茶を注いでくれる。


「だって!!ウィリアム殿下のせいで!!……どうしてクレア様があんな嘲笑を受けなきゃいけないのよ!」


「その気持ちは分かる…」

「じゃあ、なんとかして下さいよ!!!」


 エタンセルはクレアの隠れ信者になってから、クレアをずっと見てきた

もちろんクレアの周りの人間も見て来た。


 婚約したばかりの頃から、ウィリアムが繰り返している行動が

クレアへの愛情を拗らせた物だとも理解していた。


(全く共感は出来ないわ)と憤ってはいたが、愛情()()と、分かっていたから、辛うじて黙っていた。

 高学年に上がるまでは。


高学年に上がってからウィリアムの行動はエスカレートし、それに合わせてクレアに対する中傷や嘲笑も増えていく。


 エタンセルは努力の甲斐あって、最近ではクレアに対する緊張を克服しつつある。

お陰で、かなり近くに自然に近寄れる様になったのだが


 クレアの近くに寄れば、クレアに対する嘲笑もエタンセルの耳に届く。


そんな事をするのは、頭の悪いヤツばかりで

高位貴族のエタンセルなら簡単に取り除けるし

 クレアの周りにはクレアを慕う者も多く、彼らもクレアを守ろうと、馬鹿共を遠ざけてくれてる。


 しかし、ウィリアムの行動によって数を増す馬鹿共は、羽虫の様にコッソリとクレアに近付き…嘲笑を届けるのだ。


 当のウィリアムはそれを分かってて愚かな行動を続けているのか?

もちろん知らない


 ウィリアムはクレアが中傷や嘲笑を向けられている事を知らないのだ

馬鹿共は、馬鹿な羽虫のクセに危険には飛び込まない。


 ウィリアムとクレアが婚約を結んで直ぐの頃…ウィリアムの前でクレアを馬鹿にする発言をした子息がいた。


「僕の大事な婚約者を、お前如きが馬鹿にするのか?」


 どう手を回したのか、その子息は自分の領地から出てこれなくなった。


 その後も、たまに馬鹿の中の馬鹿が、ウィリアムの前でうっかりクレアを見下せば。

その者は、怪我をしたり。病気になったり。


なので、羽虫はウィリアムの前では決して羽音を立てない。

 (そんなに気を使うなら嘲笑自体、止めればいいのに)


 そこは、馬鹿だからと言うより人間だからなのだろう。

クレアを嘲笑したいのではなく、嘲笑する行為が楽しくて、相手は誰でもいいのだ。


 

 二学年に上がり、ウィリアムは更にエスカレートした。

特定の令嬢と特に親しくし出したのだ。


(あの馬鹿王子…また羽虫にエサ(話題)を与えて…)


特別懇意にしている令嬢は三人。

 図書室でよく会っている、ティア・ラクリマ伯爵令嬢。

乗馬部のトリステス・エインガー辺境伯令嬢、よく一緒に遠乗りに行っている。

 リール・シリッカ子爵令嬢、学園の中庭でしょっちゅう会っている。


 エタンセルが最も我慢ならなかったのが、この三人がまるでクレアより優れていると言う様に噂される事だった。


そうしてエタンセルはイラつく日々を過ごしての、今日のお茶会である。


「俺だって、散々注意してる。」

ヘクターは足を組んで、眉間に皺を寄せながら

紅茶のカップを口に運ぶ。


「………懇意にされてる三人だって、容姿も知識も教養も!誰もクレア様に及ばないのに!!ウィリアム殿下に気に入られてるってだけで、クレア様を凌駕したみたいに言うなんて……」


「周りの人間が言ってるだけだ…当の令嬢達はそんな風には思ってないだろう」


「当たり前です!そんな大それた思い違いをしてたら、潰してやる!」


「だから、怖いって……」


 エタンセルはため息を一つ吐いて言う

「仕方ないじゃないですか…ヘクター様にしか愚痴れないんですから」


そう言ってエタンセルもお茶を飲む。


(ラクリマ伯爵令嬢なんて…婚約発表の時、ウィリアム殿下とファーストダンスを踊った令嬢じゃない。あの人(ウィリアム)気付いてるのかしら…)


 過去、ウィリアムがクレアを差し置いてファーストダンスを踊った令嬢は、ティア・ラクリマ伯爵令嬢だった。


(誰も覚えてないみたいだけど…その内、嘲笑のネタにされたら…クレア様、きっと酷く傷付くわ……)


 クレアに関してだけ激しく感情が動くエタンセルは、眉間に皺を寄せて泣きたくなるのを堪えた


(………こんなの許せない…)



 学園のカフェテリアへは、校舎内から入る扉と

テラス側から入る扉があって、テラスは、園路に出られる仕様になっていて

園路は反対校舎へと続いている。


 エタンセルはその園路を使ってカフェテラスへ向かっていた。

そして、カフェテラス側からやって来る集団に出くわす。


「最近はクレア様とお茶をする時間も取られてないみたいですよー」

「それはきっと、トリステス様との時間の方が大切だからですわ」

「遠乗りの為の時間を作る為に、クレア様とのお茶の時間を削って、生徒会のお仕事を片付けてるんですよ」


 小さな集団の中心はウェーブのかかった長い赤毛の女子生徒、トリステス・エインガー辺境伯令嬢。

トリステスは周りの令嬢達の言葉を苦笑いで聞いていた。


 小さな集団は向かいからやって来る、エタンセルに気付いて口を噤む。

エタンセルは、集団の中心のトリステスにしっかり目を合わせた。

 トリステスはバツが悪そうに直ぐ逸らす。


(辺境伯令嬢ともあろう者が…なんて愚かなの!)


 窓の向こうのカフェテラスの中には、友人と談笑するクレアが見えた。


エタンセルの奥歯がギリッと鳴る。


◇◇◇



「クレア様…放課後にお時間取れますか?」


 午後の授業と授業の合間、エタンセルはクレアに声を掛けた。


(……このままじゃ…ダメよ!…なんとかしないと……クレア様に進言しないと!)




 学園の実習室で待つエタンセル

授業の時間外に、課題などをする時に使う教室を、申し込んでおいた。


後から教室にやって来たクレアに開口一番、尋ねる


「いつまで静観なさるおつもりですか?」


「…………ウィリアム様の事?」


 クレアの声を聞いたエタンセルは、一気に感情が昂ぶり

言葉が溢れ出す。


「そうです!最近のウィリアム様の行動は目に余る物があります!クレア様はこのままで良いのですか!?」



 クレアは目を丸くして、驚きの表情を浮かべている。


「ウィリアム様のクレア様を蔑ろにする行動のせいで、一部の…心無い者達の!クレア様を中傷する発言も許せないんです!」


 エタンセルは、ふるふると微かに体を震わせて訴えた。


しばらくの沈黙の後、クレアが口を開く


「……何度も言ったのよ…でも、やめてもらえないの…」


クレアの言葉にエタンセルにハッと冷静さが戻る。


「お母様伝えに、王妃様からも注意して頂くようお願いしてるの……

ウィリアム様は私がお嫌なのかもしれない…それならって…

お父様に婚約を見直せないか…って…………」


(……あっ…私…)

エタンセルの手先は急激に冷えていく。


「それは難しい…って……

ヘクター様からも注意してるって…それは聞いてるかしら?…

でも、ウィリアム様は……どうしてかしらね……ほんの少しで良いから…少しでも慎んでもらえたら……」


 そこまで言ってクレアは俯いた。

その目に光は無く、()()()()()を纏っていた


(私……間違えた…)


「心配してくれてありがとう」

そう言ってクレアは俯いたまま、エタンセルの横を通り過ぎて教室を出て行ってしまった。


 エタンセルは両手で口元を押さえて、カタカタと震え出す。

足はその場から動かない。


(……どうしよう!どうしよう!どうしよう……間違えた!間違えた!!!

なんで私…クレア様に……………!早く)


エタンセルはバンバンバンッと、両手で動かない足を叩く。


(早く謝らなきゃ!)教室を出て走り出す。



 「クレア様!待って下さい。クレア様!」

エタンセルの呼び声にクレアが振り向く。


「…ぁ…あの!……先程は申し訳ありませんでした!」

 エタンセルはクレアの顔を見られず、視線を足元に向けたまま

青ざめた顔で、合わせる手はカタカタと震えている。

 どんなにぎゅっと握っても、震えが止まらない


「…私が口を挟む事では無いのに…差し出がましい発言でした…も…申し訳ありません。……し…失礼します!」


 震える声で言うだけ言って走り去る。


(なんて馬鹿なの私は!クレア様にあんな顔をさせて!言うべきはクレア様にじゃ無いじゃない!)


全力で走り、馬車に乗り、自邸に帰ってベッドに突っ伏す。


そしてエタンセルは気付く。

(私…クレア様とちゃんと話すの…初めてだ…)


ジワジワと涙が滲んでくる。

(憧れのクレア様との初めての会話なのに…あんな事言って……最悪だわ……)


エタンセルはその晩、熱を出した。


◇◇◇


 あれから数週間


早朝からバタバタと執事が廊下を駆けて来る。


コンコンコンコンコンコン


(!?……何?)

早朝のノックにエタンセルはビクリと飛び起きる!


「お嬢様!朝早くから申し訳ありません!ですが、緊急事態でして…起きていただきたいのです。」


扉越しに執事が焦った声音で呼び掛けてくる。


エタンセルは、ナイトウェアの上にガウンを羽織り

扉を開ける


「……どうしたの?」

「こちらを…」

エタンセルの声に被せるように言い

執事はそっと手紙を差し出す


「クレア・ドケーシス公爵令嬢様からのお手紙で御座います。」




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