エタンセルとヘクター
振り向いたヘクターはエタンセルに気づいた。
「……ぁっ」
エタンセルが一歩近づく
(随分背が高い…私と同い年なのよね…)
二人は共に十六歳、ヘクターの背丈は既に180はあった。
「…いや、別に君を気遣った訳じゃない。ただ、王城内で不適切な発言だと思ったから」
「わかってます。でも、お陰で慌てふためく馬鹿共を見られましたわ 。まぁ、いずれ自分で処理したでしょうけど 」
「!……君は…意外と怖いんだな…」
「見えませんでしょ?」
「!…ふっ…ははっ…それに面白い 」
(あら…至極真面目に答えたのに…面白がられてしまったわ)
「はははっ、、帰るところかな?門まで送ろうか?」
「……そうですね。お願いしようかしら…あんな不埒な事を考える輩が居るなんて、怖いですもの」
「全然、怖がってる様に見えないけどな…」
二人は連れ立って王城の廊下を歩く
「フラム令嬢はどうして王城に?」
「エタンセルで構いませんわ。私もヘクター様とお呼びしても?」
「ああ、構わないよ。で?どうして?こっちの区画は、令嬢が来るような場所じゃないと思うけど…」
エタンセルの居た所は、王城に勤める使用人や役人が多く居る区画だった。
「ええ、管理事務室に用がありまして。私、学園を卒業したら王城に勤めたいんです。それに向けて下調べを…」
「王城に?」
「はい!そして行く行くは、王妃様付き侍女になりたいんです!」
エタンセルは力強く両拳を握った。
「王妃様付き侍女…」
「はい!いずれ、クレア様が王妃になられた時に、お仕えしたいんです!」
「………君はクレアが好きなのか?」
「?…何故疑問系です?」
「いや…学園の、クレアを慕ってる令嬢達のグループに見かけた事が無いから…」
「!。そっ!…そんな…無理ですよ…あんな近くでなんて…緊張しちゃう……遠くで見るのが精一杯で……」
顔を真っ赤にして俯くエタンセルに、ヘクターは疑問に思う。
「緊張してクレアに近付けないのに、王妃付きの侍女ができるのか?」
「それまでには、克服する予定です。」
(五年以上出来てないけど…)
「…………なる程?」
「今はコッソリ見てるだけだけど、必ず克服してクレア様をお側でしっかり支えてみせます」
「…それは頼もしい。」
エタンセルの宣言にヘクターはクツクツと笑った。
「それじゃあ、コッソリ見にいくか?」
「………はい?」
「今日はクレアが王城でダンスレッスンをしてるんだ。」
「ーーーーーーーーーーーー?!…ウソ……えっ…本当に?……ええ?!」
エタンセルは真っ赤な顔で、目をまん丸に見開き
ヘクターの腕を掴んでガクガクと揺する。
(見たい見たい見たい見たい見たい見たい…」
心の声は最後の方、声に出ていた。
「ははははははっ。よし。覗きに行こう 」
◇
(ハァ〜〜〜〜〜〜〜。尊い)
庭園側から入った城の一階、舞踏室を窓の外から覗き見る。
エタンセルは脳裏に焼き付けようと言わんばかりに、踊るクレアを見ていた。
「本当に好きなんだな…」
「ヘクター様だって。」
「はっ?!なに?!」
「シッ!」
(バレちゃうでしょ!)
と言った感じに、エタンセルは一本指を口に当てて
ヘクターを顰めた目で見る。
ヘクターは両手で口を押さえて顔を真っ赤にした
「見てれば分かります…まぁ気付いたのは私くらいでしょうケド。上手く隠せてますよ」
「…………………」
「諦めた恋なんでしょ?別に想い続けるくらい、良いじゃないですか。」
「………そうか?」
「そうですよ。」
部屋から流れる音楽を聴き、踊る二人を見ながらしばらく沈黙が続いた
「そうだよな…」
「そうですよ 」
◇
二人は再び王城の廊下を歩く
(あ〜〜〜〜。堪能した。)
「ありがとうございます。ヘクター様。大変充実した一日になりました 」
「それは良かった。」
「ところで、ヘクター様は何故、王城に?……ああ、お父様のお仕事関係でしたら。お答え頂かなくて結構ですわ」
「いや、違うよ。…俺は、ウィリアム殿下の側近になる事がほぼ確定してるから、側近勤めの勉強をしに来てるんだ。」
「あら。それはお忙しいですね。………」
(………側近…)
エタンセルは足を止めて考えだした
「?……どうした?エタンセル嬢?」
「確か……ヘクター様は婚約者が居ませんよね……」
「ん?…あぁ。居ない」
「結婚しましょう!ヘクター様!」
「はあ!?」
「なので先ず、婚約しましょう!。ヘクター様、子供は欲しいですか?残念ながら、私、幼少の頃の事故のせいで子が望めませんが、養子でも構いませんか?。ヘクター様がどうしてもご自分の血を分けた子を望むなら、愛人や妾を作っても構いませ」
「待てー!ちょっと待て!!!」
矢継ぎ早に提案を繰り出すエタンセルを
ヘクターは狼狽しながら止める。
「子供は別に望んでない…って、そうじゃない!…俺と婚約って…目的は……まさかクレアか?……」
「はい 」
呆れた…と言った顔で背の高いヘクターはエタンセルの顔を見下ろしている。
「側近のヘクター様の妻になれば、ウィリアム様の妃になったクレア様の相談役に成れるかもしれないじゃないですか」
灰色の瞳をキラキラと輝かせて、エタンセルはヘクターに詰め寄る。
誰もが振り返る程の美人のエタンセルに詰め寄られれば、普通だったら赤面する物だが
「………………………」
ヘクターは変な物でも見るような目を向けている…
「………ハァ……」
額に手を当てて、ヘクターはため息を吐いた。
「……………考えてみる」
「よっし!前向きに考えて下さいね!メリットだらけですからね!」
(よっし!………って……)
「分かった分かった。ちゃんと考えるから。君は、もう帰れ」
ヘクターは呆れながら、エタンセルの背中を押した。
王城の門の前、馬車に乗せられたエタンセルは窓から身を乗り出して
「本当に!ちゃんと!!前向きに考えて下さいねーー!」
しつこく念押しした。
そんな馬車に向かって、ヘクターは追い払う様に手を振る。
(……やっぱり、面白い令嬢だ…)
後日…ハーミット公爵家から、フラム侯爵家に婚約の打診が届いた。




