プロローグ
氷の結晶がふわりと一つ、澄んだ夜空に舞い降りる。
白い息の先に広がる冬の星座は、まるで細かいガラスの破片を散りばめたかのように輝いていた。
遠すぎるその銀河の先から、何処からともなく雪が深々と舞い落ち始める。
澄んだ空気は重い帳が下りたように湿度を帯び始め、次第に空の光は地上に届かなくなった。
そんな景色を窓越しに眺めていた私は、学生時代を思い出してノスタルジックな感覚にとらわれる。
「あの日も、こんな感じだったなぁ」
私はハンドルを握りながら、ふと感慨に更けていた。
あの日―――私にとってたった一人の理解者であり、初恋の人でもあり、恩人だったあの人が亡くなった日も、雪が重く深々と降り続けていた。
いや、彼が最期に見た景色は、こんなにも美しいものではなかったのかもしれない。
暗くて音の一つも届かない、厚く冷たいコンクリートに囲まれた空間。
そこにたった一人で閉じ込められた挙句、この世を去ったあの人。
次第に降りしきる雪の先に、彼の墓標がある。
だけどフロントガラスの先に映る金網に、私はブレーキを踏んで車を止めた。
車のハザードランプを焚いて車を降りる。
時折吹き付ける雪風は、私をゲートの先に誘うように軽く吹き付けた。
白く降りしきり始めた雪景色を前に、ヘッドライトに照らされた冷たいゲートが道を固く閉ざしている。
彼が巻き込まれた事故以来、封鎖された国道の壁――その金網にそっと手を触れて、私は念じる。
(ただいま。やっと、帰ってきたよ)
「……それと、ごめんね」
私は裏切ってしまった。
多分それは、決して彼が望んだものではないのかもしれない。
私は、この季節が嫌いだ。
この景色が嫌いだ。
でも、忘れたくない大切な記憶だ。
「絶対、離してなんかやらないんだから……」
私は心の中で硬く誓って、金網を握る手に力を込めた。
――これは私が彼によって救われた、約半年間の物語だ。




