根暗令嬢は婚約破棄で覚醒する
なんか、とにかく令嬢がギャル語で婚約破棄した王子を言葉責めするのが見たかったんや…
「ルーティア・パーリィ、お前との婚約を破棄させてもらうぞ!」
王宮で行われている夜会で、ルーティア・パーリィは婚約者であるヤッベーゾ王国第三王コーイッツ・マジーデ・ヤッベーゾから婚約破棄を言い渡された。彼の隣には全身ピンクでフリフリなキャッピィ・ブーリッコ男爵令嬢が王子に抱かれながらニヤニヤとしていた。
対するルーティアは、パーリィ公爵家の長女で貴族で有りながら質素倹約を旨としており、その装いは煌びやかな夜会においては地味といえる。見る者からすれば最高級の品質で仕立てられた超一流のドレスやアクセサリーなのだが、本人の気質も相まって派手さには欠けている。
婚約当初から、大人しいルーティアを気に入らなかった王子は何かにつけて彼女を虐めていたのだが、ルーティアは貴族の務めと割り切って王子の虐めに耐えつつも来る妃教育を静かに受ける毎日だった。
王子との相性は最悪と言えるが、それでも国王が決めた婚約であったのでいずれは二人で夫婦として並ばなければならないのだとルーティアはずっと我慢をしていた。
しかし、あろう事か夜会デビューとなった今日のこの日、王子は最近お気に入りの男爵令嬢をパートナーとして入場した挙げ句に大勢の目の前で婚約破棄宣言をしたのだ。
これはモチロン王子の独断で行われたもので、周囲の側近は青い顔をしているし周囲の者も信じられないといった風に遠巻きにして三人を見ていた。
ルーティアの脳裏に婚約者と決まった頃からの事が次々と浮かぶ。
『なんだこいつ、へいみんか?』
『おれはおまえなどキライだ!』
『ブース!ブース!ブース!』
『は?なんでお前みたいなのと歩かなければならないのだ。地味が伝染るだろ』
『うるさいブス。ブスはブスなりに大人しく俺の言うことを聞け』
『この俺様の隣にお前のような地味女は相応しくない。父上の命でなければとうの昔に地味罪で投獄していたぞ』
『お前の辛気臭い顔なぞ、ほんの少しでも見たくない。さっさと失せろ』
『地味女のくせに夜会に出るのか?立場を弁えろよ、地味女』
すぐに思い浮かぶだけでこの有様で、それに加えての様々な過去が脳裏を駆け巡る。
ルーティアは、心の底から怒りに震えていた。
怒りに震え、そして…プッツンときた。
「っはーーーーーーーーーーーーぁ」
それまでは黙って姿勢よくしていたルーティアだったが、姿勢を崩して度のない眼鏡を投げ捨て、カッチリと結っていた髪を解いて背中に流す。
ブロンドの髪は艷やかで波打ち、眼鏡を外したその顔は薄化粧でありながらも人々の目線を釘付けにする。婚約破棄を言い渡した王子でさえも、その美しさに言葉を失っていた。
そして―
「いや、マジねーわ。婚約してんのに他の女作ってるとかマジヤベーだろお前」
令嬢から出てきたとは思えぬ言葉に、周囲がシンとする。しかし、ルーティアはそんなものは構わずに言葉を続けた。
「いや、マジお前さぁ…こんな所でくだらねー事する前にやれる事あったっしょ?え、なに?もしかしてアーシを辱めるために大勢の前で婚約破棄宣言しちゃった?え、マジでヤバない?頭、大丈夫?いや、だってさぁ…この婚約って国王陛下が宰相家の娘であるアーシを王家に取り込みたくて組んだヤツっしょ?それをバカが暴走して勝手に破棄するとか、アーシの前に国王がゲキオコっしょー」
誰もがルーティアの豹変に驚きを隠せない。今までの彼女は地味で大人しく常に王子の3歩後ろを歩くような令嬢だったのだ。
「いや、アーシもちゃんと怒ってっからね?それにしてもさー、王子っちからは見えないんだろうけど、その女めっちゃ性格ワルソーな顔してるんだよね。婚約破棄宣言した時の顔とかヤバかったもん。マジで女の嫌な部分煮詰めて固めた顔してたよ。あ、見る?アーシ常に動画撮ってんの。ほら、みせたげるよ。他の人も見たでしょ?アーシの後ろに居た人達なんか丸見えだったよねぇ?」
ルーティアはそう言うと、指をパチンと鳴らす。
すると何処からか使用人達が巨大モニターを運んできて、ルーティアが操作すると婚約破棄宣言時のルーティア目線動画が映し出された。そこには、嫌らしい笑みでルーティアを見下す男爵令嬢の姿が…
「なっ、違いますぅ!あんなのキャピたんじゃないですぅ!ダーリン、騙されちゃヤダヤダ!」
「そ、そうだ、そうだな。あの様な顔を可愛いキャッピィがする筈ない。そんなものを捏造してまで私との婚約を望むのか?ふっ、ならば側室としておいてやっても…」
「は?マヂ無理」
「えっ」
心底嫌そうな顔で二人を見つめるルーティア。
「カイショーなしな王子っちと結婚なんてマジで無理ゲー。つーか、アーシは普通のお婿さん希望だから王子っちなんて最初から候補にすらなんねーし。勘違いしてんのはそっちだっつーの。さっきも言ったっしょ?この婚約は『国王が宰相家令嬢を王家に望んだ』んだって。つーまーりー、アーシが欲しくてたまらんのは国王サマなわけ。アーシはパパっちが頼み込むから仕方なく受けただけで、王子っちとの婚約を了承したの。わかる?」
唖然とする王子とキャピ子。
「キャピ子もさぁ、なんで婚約中の男に手ぇ出すの?王子っち以外に何人いるんだっけ。あー、5人?やっば…6人同時とか真正ビッチじゃん。清純ぶりっ子しておいてガバガバとかウケる〜。そーだ、病気とか大丈夫そ?ちゃんと調べておかないと大変だよ?アーシは清いから問題ないけど。あ、それから婚約者に手出しした時点でキャピ子は家ごと売らないとだよね。あれれ?なんで驚いてんの?マジウケる。だってさぁ、アーシ以外にも婚約者NTRな子いるもんね。ほら、あの子とかその子とかさぁ。とりま、全員から慰謝リョー請求されっから、キャピ子とご両親お金の準備シクヨロ☆」
夜会は騒然としたまま、慌てて駆け込んできた国王によって強制的に終了した。
この後めちゃくちゃ慰謝料請求した