浸食される日常
更新遅くなってしまいました。すみません。
今日は年に12度の監査が入るので職場へはいつもより30分ほど早く出社しなければならない。
おれの会社はやらかし侍してばかりなので毎月監査法人から目をつけられていて、いやもうこんなこと考えるのはよそう。今日も徹底的に調べあげられるんだどうせ。
おれは電車で人混みに揺られ昨日のことは夢だったに違いないと現実逃避しながら回想していた。
そう。物語のはじまりはこうだ。
~~ラ○タにみたいに超絶美少女…いやそれにしては色っぽかったので美女としておこうか…。そんな女性ががおれのことを誘拐~
・・・なんてする訳ないじゃないか。
ああ、そうだ全て夢だったのだ。仕事終わったら帰って早く寝て忘れよう。くだらないぜ本当に。
ネット小説を見ながらおれは鼻でわらった。夢を見ていたに違いない。あ、おれこの小説好きだったんだよなあ。前からこの作者さんが書く小説おもしろいなと思っていたけど。
ようやく世間からも注目されはじめたということか。おめでとう。いや本当に自分ごとのようで嬉しい。
ピロンッ。
L○NEの通知音でおれは現実に引き戻された。
今朝は会議室1でスタートか。こんな世界いやだ。滅んでしまえばいいのに。ああ。社会人は辛いぜ。
既読つくのみんな早いなあ。おれも直ぐに見て良かった。マジで。
shupo!
スタンプが届いた。【おい社畜ども!!!!】【帰宅の時間だオレオーレ】【私にお任せ下さいby帰宅猫探偵】
なんだよ。あいつらはよ。どこでこんなスタンプ仕入れてくるんだよ。
思わず場違いなスタンプ合戦がはじまりおれは思わず笑ってしまった。会社のグループラインがお遊びグループと化しているのがなんか微笑ましい。
なんせ今週の週末には合コン(会社の激励会の経費で遊び倒すおれたちの(男女結託しています)楽園がそこに待っていた。
社長が奥さんの尻に敷かれており、結婚は良いぞおなんて抜かすもんだからおれたち営業一課は業績が好調な四半期には交友費がたくさんもらえるようにしていたのだ。
さあ日頃の仕事の鬱憤を晴らさせてもらおうか!
電車をひとに押されて流されながらおれは楽しいことを考え始めていた。
*****
「くうあーーーーーーつ。今日も疲れた。」
「あ、先輩お疲れっす。今日はなんすかなんすか? コーヒーすか?」
やれやれ。さあ悪友に近い同僚よ。週末の話で盛り上がろうではないか。れっつごー。
仕事終わりの社会人なんてみんなこんなものだ。(*彼の主観です)
「1F裏口の販売機に新メニューのコーヒーが入ってたからな。」
「しかもブラックすか。大人すね。」
「なんだよそれ。ハハッ。まあでも意外とうまかったぞこれ。」
「よっす。今終わり?」
「おう。よっす。上がり上がり。」
「まーた。あんたたち2人で来てるのね。本当に仲いいわあんたら。」
とある仕事場の片隅におれたち4人は集合してしまった。いやなにこれ。まるでなにかしめ合わせたように。
年齢が近いということもあり、後輩くん以外はみんなため口である気心がしれた関係。
読者のみんなに紹介しようと思う。
左にそびえるはエベレストのギャル系うちの会社のエース。
右にそそり立つはアルプス山脈のクール系だが口調はおかんのうちの会社のMVP。
つまりはうちの部はこのダブルエースによって成り立ってるといっても過言ではない。まあおれは正直こいつらの中身はおれ以上におっさんだと知っているわけで。ときめきなんてものはない。しかもプライド高いわ孤高のなにかを出し続けるはで年から年中大変わんぱくである。
だからこれはもう人類にはどうしようもないわけで。山に喧嘩を挑むようなものである。
だからおれは彼女たちの顔をみてただこう言った。
「エベレスト・・・。」
「アルプ、ス。」
いや後輩くんお前もか。
「なんなのそれ。本当に意味わかんねえな。」
そんで。もうその反応を見せられ続けている彼女たちはやれやれと天を仰いでいる。
おれは声を大にして言ってやりたい。やれやれするなと。
となりを見たら後輩くんと目があった。こ、こいつとおれは同じなんだ。
「先輩・・・。」
「ああ。言うな。分かってる。」
「ほうほう。BLの波動を感じる。」
「まさか。新しい扉が。」
くぅ~。お前らには分かるまい。おれたちの気持ち(?)なんて。
「次集まるとこ決まったのかよ。」
「当たり前。頭が高いわよ。」
「ごめんな。お前より背が高くて。」
「はったおしちゃおっか?」
こ、こいつら結託しやがった。あ、こら何しやがる!?
「すみません。おれが悪かったです。いやもうこれ本当にマジでマジでギブギブギブギブあああああああああ!」
「どこすか?どこなんすか?ヒュウーヒューーーウ!」
後輩くんおれをよくも見捨てたな。あとで覚えてろよ。
「やだなあ。先輩顔怖いっす。ま、そのうちいいことありますよ。役得もあったじゃないすか?」
「く、屈辱。」
確かに2人の美女のなんというか山脈を感じられたかもしれない。スタイル2人とも素晴らしいからな。だがおれの痛覚はそのすべての感触の記憶を遮断するくらいには頑張ってくれていたんだ。
なんともおかしい話なんだが、イタイ・タスケテ。しか思い出せない。なんて災難なんだ。
おれもしかしていじめられているのかな。ああもうこの会社辞めようかな。なんて思ってたら。
「ここよ。今度はあんたが行きたがっていた居酒屋。」
え。おれお前らマジで好きです。なんていい奴らなんだ。そうそう。この居酒屋の前には優しいおばあちゃんが経営している銭湯があってな。
「すぐ前にある銭湯のレビューが以上に高いのよ。これうちらも行って評価上げるのに貢献しないとじゃん?」
「分かるー。」
「イエーイ。」
なにかが始まったが。おれはあえてなにも言わずにスルーすることにした。男たるもの、面倒くさ、ゴホンッ。余計なことには首を突っ込まないのが寿命を長くするコツである。
いったん帰宅してから集合するときのほうが圧倒的に多いが、あれたちはそのままで足で電車にのって直で向かった。
プルルルル。L〇NE電話がなる。はて。花の金曜日に水をさす命知らずはどこのどいうだ!?
ほらみろ。まわりからの視線が痛いんやん。誠に申し訳ございませんでした。
急いでスマホの電源をおとした。
*****
「さっきの電話出なくて良かったの?」
「そういや来てたんだっけ。」
おれは急いでスマホを取り出し折り返しした。
「もしもし、私奥さん。今あなたの席を横取りしているのデス。」
???
「浮気ものなんて滅ぼしてやります。」
!!!
おれだ。おれのことだ! ヴェロニカさんなんておれの昨日見た夢だと思っていた。なんてことなんだ! 存在していたなんで!!!
ひとは本当に思い当たるものがあるとき、直感的にその記憶の存在を除去してしまうときがあるらしい。それは一種の防衛本能ようなもので。
おれのスマホのフォトをあわてて開いて確認した。そこにはおれが夢だと思っていたロシア美女とおれとの2ショットがあった。
「まさかおれをつけてきたのですか?」
「なにを言ってんですか。ただのGPSアプリと盗聴をしていただけデス。」
こ、コイツやべえ。
「こ、殺される。命だけはタスケテ下さい。お願いします。」
「ハ!? たっくん殺されるデス? 誰に!? あ、じゃあ席について待ってますから。ハイ私にお茶漬けお代わりお願いデス! 」
「・・・。」
「ど、どうした!? 道間違えたのか?」
「ちょっと先輩しっかりして欲しいです。頼みますよ? おれたちみんなお腹ペコペコなんス!」
「ちょっと。お前たちに紹介・・・。いやまあそうだな。紹介されたがっている女性がいる。」
「なに? もしかして合コン? そういうのは先に行ってくれないとこっちとしては準備が。いえ。やっぱ何でもない。」
「はあ。まあそれでもいいよ私は。そろそろ新しい男とも出会わないとだしね。」
「残念ながら、ご紹介させられ、いやするのは女性だったりする。」
「せ、先輩まさか、おれのために! うう~。おれ、」
「期待してもらっているところすまん。」
「ああ。もう地球なんて滅べばいいのに。で、可愛いのですか?」
「それだけは保障しよう。」
「あ、あのさ。」
「自己紹介は本人からあるはずだからちょっと待ってもらえないだろうか。」
*****
それから5分後。おれたちはお目あての居酒屋の席で圧倒されていた。
「どもどもども。え。。。私元ロシア人のヴェロニカデス! たっくんのストーカー件奥さんしています!」
キラッキラの眼でね。
「や、やばいわ。この子。」
「話している内容もヤバいけど! なんて可愛いの!?」
「先輩のオクサン。オクサンってなんだっけ。はっ。危ない心臓が止まりかけた。」
「普段は、オシゴト忙しいデスから。あんまり皆さんとは会えないデス。私としてはとっとも寂しいデスが、まあ家に帰るとたっくんがいてくれると思うと、なんでも頑張れるというか。」
おれの胸ぐらを掴み後輩くんがいきり立っていた。
「ちょ!? 先輩!? 前世でどういう徳つんだらあんな美女に好かれて結婚できるんすか? 教えて下さいよ~~~。うっうっうううううううう・・・。」
「うん。なんかごめんな!?」
「ちくしょうこのクソ。リア充爆発しろっ。」
「あーあ。どうしよう。後輩ちゃんが壊れちゃった。」
「ああああ!!!!!!せんぱいーーーーーーーー!」
「ちょっとそこうるさいよ!」
「なんだい? 私の飲みっぷりにケチ付けようってんかい? いいぜ。やってやるよおおお!」
「なんだとこの女!」
やれやれ今日は楽しい飲み会になりそうだなあ。会社のお金、でさ。
夜はまだまだ長かった。
読んでくれてありがとう!