第6話 Open sky dungeon game 勝負後編
ダンジョンの壁はちょうど戦車の上に人が立てば丁度目線の高さになる。
野崎は迷わず進む。
田村は戦車を足場にダンジョンの壁をよじ登り幅一メートルほどの壁の上を駆け抜ける。
そして、野崎をゴールへ誘導する。
「バカが! そんなことしたら戦闘機に狙い撃ちされてジ・エンドだぜ?」
戦闘機にロックオンされればMPを使わずに逃げ切ることはほぼ不可能。
移動速度が三倍も速い戦闘機が視界に入ると同時動きを止めスコープを除く田村は落ち着いていた。
「しばらく直進して! その後三つ目の曲がり角を右!」
危険を省みず野崎にルートを伝える田村は信じていた。
スコープで戦闘機をロックオン。
戦闘機も田村をロックオンして発射態勢に入る。
「お礼に緊急参戦の俺から送る手榴弾! 受け取ってくれよ~HAY!」
戦闘機と田村の間にふとっ地面から投げられた三つの手榴弾。
田村は狙っていたかのように一つの手榴弾に狙いを定め引き金を引く。
銃弾は手榴弾を撃ち抜き爆発し残りの手榴弾にも火を付け拡散。
衝撃波と炎が戦闘機の羽を破壊し制御不能による墜落で一瞬で勝負が付いた。
「よし!」
ふざけるのは一瞬。
手榴弾を投げ終わると同時に野崎は全力で走り始めていた。
実は大抵のプレイヤーは限られたMPを使い罠をどこに設置するか?
無意識にゴールに繋がる道に置くことが多い。
なぜなら――行かれたら困るから。
その真相心理を解読しているに過ぎない。
「守護番人ちゃんはスルー!」
守護番人の一撃をギリギリまで引き付け躱す野崎。
ゆっくりとしたモーションで斧を振り上げて降ろすだけの攻撃など慣れればさほど恐くない。
頭脳戦においては田村の得意分野。
体力勝負やいざという時の勘や直感力を必要とする物においては野崎の得意分野。
お互いの長所を最大限に活かす攻略が『SOCIUS』の真骨頂だと大衆の目に見せつける。
罠がある道=正解のルートだと考えた田村はダンジョンを見渡しながら凹凸で見えない場所のルートを脳内で補完し修正していく。
「最後は真ん中のルート!」
三又の最後の分かれ道も迷わず走り抜ける野崎の前に最後の試練が訪れる。
野崎が侵入したことで予め設置されていた自動追尾守護番人の目が赤く光り起動する。
残り時間十秒。
立ち止まる暇はない。
自動追尾守護番人の奥に見えるゴールまでは残り五十メートルあるかないか。
一度大きく深呼吸をして足に力を入れて正面からの突破を試みる。
最後のMPを使い手榴弾をポイっと空中に置くようにして投げる。
自動追尾守護番人は守護番人と違い移動速度が二。
それに比例して攻撃速度も二と速い。
自分の倍速で動いて飛んで来る攻撃を先ほどのような慣れと度胸の正攻法で躱す運動神経を野崎は持ち合わせていない。
もし運動神経抜群だったら今頃彼女一人や二人ぐらいいただろうと心の中で悔やみながら――。
「覚えておきな。凡人だから何度も失敗して自分なりの攻略法を見つけるんだ。それが出来た時のゲームってとても最高に楽しいんだぜ☆」
無機質の機械に自分の武勇伝を語り不敵に微笑む。
上半身と下半身を真っ二つに分けるように飛んで来る斧の一撃は速い。
「そうだ……俺だけじゃ避けられなかった。そして……チェックメイトだ」
ドンッ!
斧による重たい一撃が野崎の身体を切り裂くと思われた瞬間。
それは正に絶妙なタイミングで。
斧が軌道を修正できない瞬間、手榴弾は飛んできた弾丸に撃ち抜かれ爆発。
野崎の身体をゴール地点の方向へ吹き飛ばす追い風となる。
今さら体力が百から八十二に減ったぐらい気にしない。
仮に五十メートル六秒だとするならギリギリでクリアできる。
だが自動追尾守護番人はその半分の時間で五十メートルを駆け抜けることができ、道中再度野崎に攻撃することができる。
最後は博打の勝負になるか?
気合いと根性による自己ベスト更新の勢いで全力で走る。
野崎の背後に自動追尾守護番人がやって来る。
最後の瞬間まで諦めない男は背中に危険を感じても前だけを見て走る。
そう――タイムリミットまで後少し。
「残念だったな。二回戦に持ち越しだぜ!」
予想外の展開に元気が消えていたイケ親父に笑みが戻る。
「あぁ、言い忘れてたよ」
「なにを言い忘れてたんだ?」
「凡人の俺の足だとこの時間なら本当にギリのギリで間に合うか間に合わないかってことだよ!」
「バカめ! 俺が言いたいのはこういう事だ!」
振り上げられた斧が振り下ろされたことを影で察知した野崎はようやくイケ親父が言いたいことを正しく理解した。
そして確信した。
この勝負は決着が着いたと。
「もし風が読めたら? 弾道と呼ばれる物がもし計算式で導きだせたらどうだ?」
「なにが言いたい?」
イケ親父は気付いている。
既に野崎のMPが零であることに。
「もう小細工できない事実に気付いて頭のネジでも緩んだか?」
挑発的な態度は演技。
注意をこちらに向けさせたい男による。
「アンタがさっき使った戦闘機や今俺を殺そうとしている守護番人は全てAIによる自動計算の元システムとして動いている」
「当然だろ? これはゲームだ」
「そうゲームは計算でも攻略できるんだよ」
ドンッ!
一発の銃弾が音速の速度で発射された。
空気を切り裂く音と共にやってくる銃弾はただの銃弾じゃない。
野崎のMP五を使い発射された弾は斧が振り降ろされる軌道と重なり切断される。
直後爆裂弾が火を噴き野崎の身体を吹き飛ばし加速させる。
「な、なんだと!?」
「へへっ、だから言っただろ? チェックメイトってな!」
斧は爆裂弾が放った衝撃波で軌道がズレ空振りに終わりそのまま決着が着いた。