7話 初デートはまだ終わらない
【悟の一目惚れ 7話】
(知らないうちに地雷踏んでドカンとか、絶対嫌だぞ...)
多村は、冷や汗が止まらない。
実際は、全くそんな事は無いのだが、つい深読みしすぎてしまう事もある。
「どうしたの?」
「な、なにが?」
「さっきから黙っちゃって...」
「あ、ああ〜、何か話題はないかな〜って」
「あ、そうよね、私も何か探そう」
豊原は、うーん...と、考え始めた。
(別に怒って無さそうだよね...)
そう。取り越し苦労ですたい。
「豊原さんは、休みの日って何してるの?」
「ん〜? 何もしてないかなぁ? 1日中音楽を聴いてるかな」
「へぇ〜、どんな音楽を聴くの?」
「ストーム(男性アイドル)や、46グループ(女性アイドル)、バーズ(男性ロックバンド)とかだけど、一番好きなのは、ZORD(女性ボーカルバンド)かなぁ」
「ZORDは、僕も好きだよ!」
「そうなんだ! どんなところが好き?」
豊原の表情が、パッと輝いた。
「そうだなぁ、自然な歌い方と、透き通った歌声が好きかな」
「う〜ん、そうよね。分かる分かる」
豊原は、何度も大きく頷いた。
「豊原さんは?」
「私は、歌詞かなぁ。とても女性の気持ちが表現されてて、とても共感するの」
「そうなんだね」
(女性の気持ちは、表現されてると思うけど、男の僕には良く分からない時があるなぁ…けど、黙っとこ)
「豊原さんは、カラオケはよく行く?」
「え? たまにかな...どうして?」
「ZORDは、僕も歌うし、カラオケに行きたいと思って」
「女性ボーカルの歌も歌えるの!? 凄い!」
再び、豊原の表情がパッと輝き、キラキラした瞳で見つめた。
「ありがとう。僕の歌を聴いてほしいし、今度カラオケに行かない?」
「そうね...うん。多村君の歌を聴きたいな」
(これは、次の約束も出来そうかな? よっしゃぁ!!)
多村は、豊原から見えないように、テーブルの下でガッツポーズの拳を握った。
(ん? まてよ!?)
(あ…肝心な事を聞いてなかった!?)
(か、彼氏がいるのか!? はたまた、実は既婚者で、名字が変わって豊原なのか!?)
多村の頭から見えない湯気が上がっていく。
壊れた湯沸かし器のように止まらない。
(き、聞かずに誘った、僕は一体…)
(ま、待て…落ち着け。聞いてみたら良いじゃん…)
(けど、おったらどがんすっとや!? そん後、気まず〜くなっとは確定ばい)
多村のアタマの中は、目まぐるしく考えが浮かんでは消えていく。
世界が一巡し、転生しそうな勢いである。
(聞くか)
多村は、急に開き直った。
そんな事が、目の前の男の前で起こっているとは夢にも思わず、豊原は天使の微笑みを見せて座っていた。
す
「ね、ねぇ…豊原さん…?」
多村は、豊原の眼を見つめた。
多村は、心臓が口から飛び出しそうなほど、ドキドキしている。
「? どうしたの? あらたまって?」
豊原は、不思議そうに見つめ返した。
「い、今付き合ってる人いる…の…?」