最終話 エンディング
読者の皆様、作者の大森林聡史です。
この度は、この小説を気にかけていただきありがとうございます。
よろしければ、内容もお読みいただけると幸いです。
宜しくお願い致します。
【悟の一目惚れ 45話】
また所変わり、事情聴取を受け、その帰り道を歩いている2人がいる。
悟と由紀だ。
「ねぇ、由紀」
「なぁに?」
「由紀の元彼って、二重人格?」
「どうかな…? 私が付き合ってた時は、優しかったけど、別れた時は酷かったし…この間も怖かったから…少し二重人格の感じはあるかも知れないね」
「そっかぁ…」
「うん…私も付き合ってから、間もなかったし、急に別れを告げられたから、そこまで知らないのよね…」
「そうだったんだ…」
「当時は、とても辛かったわ…」
「それはそうだよね…」
「でも…今の私には悟がいるわ」
「僕で良いのかい?」
「良いのかい? だなんて…元彼との事も決着をつけられたのは、悟のおかげだし、あなたは私をいつも守ってくれた」
「はは…頼りないかも知れないけど、僕で良ければ守るよ」
「頼りなくなんか無いよ、いつも私、あなたに甘えてばかり」
「そんな事無いさ、元彼との時も一緒に立ち向かっただろう?」
「うん…それもあなたがいてくれたから立ち向かえたの」
「はは…」
悟は、照れて後頭部を触っている。
(出た! 可愛い〜)
由紀は、悟の仕草を見て微笑んだ。
「悟、体はもう大丈夫?」
「うん、もうほとんど平気」
「良かった…」
由紀は、ホッとした様子で微笑んだ。
「まさか、僕の一目惚れからこんなになるなんてなぁ…」
「え? 悟、一目惚れだったの? わ、私に…」
「そうだよ、言わなかったっけ? 自動車学校で一目見た時から好きだったって」
「そ、そうなんだ…」
由紀は、真っ赤になってうつむいた。
その様子を見て、悟は、ニヒヒと意地悪な笑みを浮かべた。
「おやぁ…? 由紀ちゃん、恥ずかしくなったのかい?」
「からかわないでよ」
由紀は、少しムッとした様子で、悟の腕をはたいた。
「あいたぁっ! そ、そこはこないだ打ったところ…」
悟は、悶絶している。
無茶苦茶、痛かったらしい。
「自業自得よ」
由紀は、プイッとそっぽを向いた。
しかし、すぐに表情が和らいだ。
「でも、こんな風に笑いあえるのも、あなたが生きていてくれるから…」
由紀は、振り返り、澄んだ瞳で穏やかに悟を見つめた。
その瞳は、潤みが増し、涙が浮かんでいる。
「心配かけてごめんね、だけど、もう大丈夫だよ」
悟は、由紀を見つめ返し、手を広げた。
そのまなざしは、由紀をまっすぐに見つめ、優しさに満ち溢れている。
「悟!」
由紀は、迷わず悟の胸に飛び込んだ。
「由紀!」
悟は、由紀を柔らかく受け止め、そしてそっと抱きしめた。
「悟…」
「由紀…」
由紀の頬を一筋の涙が伝う。
2人は、互いの存在、絆を確かめるように深く、深く、抱き合った。
悟は、そっと黙って、由紀の頬の涙の筋に唇をあてた。
「由紀」
「なぁに?」
由紀は、悟の両腕に抱かれたまま、見上げた。
そこには優しく笑う、悟の顔がある。
2人の距離は、鼻先が触れ合うくらいに近い。
悟は、由紀の瞳をまっすぐに見つめ、由紀は、潤みを帯び、澄んだ瞳で見つめ返した。
「由紀に悲しみの涙は、もう流させたくない」
「うん…」
「僕は…由紀をずっと守りたい」
「はい…」
「僕は、僕は…自分よりも…世界の何よりも由紀が大事なんだ」
「はい…あっ!」
悟は、もう一度由紀を抱きしめた。
由紀は、そのまま悟に身を委ねた。
「由紀…」
悟は、由紀の両肩に両手を乗せて、再び由紀の瞳をまっすぐに見つめた。
由紀も、再び見つめ返した。
由紀は、鼻先が紅く、頬も紅く染まり、耳も紅い。
潤んだ瞳は、更に潤みが増し、溢れんばかりの涙が浮かんでいる。
しかし、目尻は下がっている。
その表情に、悲しみはうかがえず、喜び、安堵、信頼がうかがえる。
「はい…」
「僕は…由紀を愛している」
「はい…私もあなたを愛しています」
「それが永遠に変わらない事を…由紀。君に誓う」
「はい…私は、あなたを今も…これからもずっと…信じています」
「由紀、目をつぶって…」
由紀は、黙って目をつぶった。
悟は、そっと由紀の唇に、自分の唇を合わせた。
2人は、唇の感触が、徐々に増していく…
それは、甘くて心地良く、忘れられない。
2人は、唇を深く…深く…混じり合わせた。
いつまでも、いつまでも…離れない。
お互いの愛を確かめ合うように…
The End
主要人物のその後
〈多村悟〉
大学4年生になった。
環境学部の生物科で、毎日生物の採集に明け暮れている。
由紀とは、遠距離恋愛となったが、今も付き合っている。
会えない日々が続いて、寂しい日もある。
また、時折、周囲の女性が魅力的に見えない事もない。
しかし、由紀を悲しませたくない彼は、何があっても彼女を裏切る行為はしないと誓っていた。
その後、その誓いを破る事は無かった。
そして、自分が愛する人が誰なのかを自分に問いかけた。
その答えは、当然由紀である事は言うまでも聞くまでもない。
自分の愛する人が由紀である事、由紀をとても大事に思う気持ちは全く変わらない。
由紀に久し振りに会えた時は、愛情が爆発するようだ。
〈豊原由紀〉
大学を卒業し、保健師になった。
勤務地は、大学と同じ県内だが、実家から遠い場所となり、1人暮らしをしている。
とても美しく優しい保健師として評判である。
離れても、悟を愛する気持ちは変わっていない。
時折、悟が浮気しないか、ちょっぴり心配になる事もあるようだが、悟を信じている。
悟と同じく、久し振りに会えた時は愛情が爆発するようで、普段の彼女からは想像もできないほど、大胆になることもあるようだ。
〈戸林将〉
実刑判決を受け、服役中である。
大村先生に言われた通り、刑罰を真摯に受け止め、償いの気持ちを忘れずに、日々の刑務労働に取り組んでいる。
そして、労働時間外は、自らを見つめ直している。
ある日、思いを紙につづった。
〈多村悟さんへ〉
この度は、あなたに暴力をふるい傷つけ、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
謝ってすむことではないが、心底謝りたいと思っています。
本当にすみませんでした。
罪を真摯に受け止め、日々償いの気持ちを忘れずに刑務労働に励みます。
罪深い私をどうか…許して下さい。
多村さんが生きていてくれて本当に良かったです。
私がしたことは、殺人未遂ですが、殺人まで至らなかった事は、不幸中の幸いです。
こんな事を頼める立場では、無いのかも知れませんが…由紀を…由紀を…どうかお願いします。
私も由紀を愛していますが、もう会う資格…いや、会わない事が彼女にとって1番良い事だと思うのです。
私の由紀へ愛は、多村さん。
あなたに託します。
私の分まで由紀を愛し、幸せにしてくれることを信じています。
由紀へ
浮気をした事、暴言を吐いて傷つけた事、ストーカーのようにつきまとった事、由紀の大切な多村さんを傷つけた事。
本当にすみませんでした。
いくら謝っても、謝りきれないくらいです。
どうか…どうか…許して欲しい。
由紀、あなたのためにも…
由紀の記憶から俺が消え去る事が1番良いのかも知れないですが、記憶を消すことはできません。
いつまでも怒りに囚われ、憎しみで自分の心を焦がす辛さを、俺は知っています。
由紀の怒りのきっかけを与えてしまったのは、俺で、俺が言うことではないのは百も承知です。
ですが、由紀が怒りと悲しみに囚われるよりも…由紀が愛する多村さんと、愛を深め合い、喜び楽しく過ごし、幸せになって欲しいのです。
俺は、今でも由紀を愛しています。
ですが、もう会うことはしません。
俺が、もう由紀の前に現れないことが、由紀にとって幸せな事で、由紀への最後の愛情表現だと思うからです。
もう一度言わせてください。
どうか、幸せになって欲しい。
由紀が知らない空の下で、それを願います。
そして、出会えた事に感謝しています。
さよなら…
「悟の一目惚れ」を最後まで読んでいただきありがとうございました。
主人公の悟は、キャラ設定時に特に意識した事はありません。
特に由紀と結ばれてからは、書きながら勇敢で一途な男になっていったと思います。
ただ、悟が将に刺されて死んだと思いきや、実は生きていたシーンは、ちょっとしつこかったかな…と、思っております。
ただ、後から書き直すことも難しかったので、そのままにしました。
ヒロインの由紀は、書いている内に、より私の好みのタイプの女性に変化していったように思います。
由紀は、私から見て、清楚で、少し天真爛漫で、従順な一面があるように見えます。
また、前半は、悟と由紀が結ばれるかどうかが注目点になります。
ですので、由紀が悟のことをどう思っているのか、あまり分からないように気を付けつつ、デートを重ねるうちに徐々に悟に惹かれていく姿を書ければと思っていました。
後半は、過去の恋愛で傷付いて、男性不信になっている設定にしました。
それを悟に告げるタイミングを決めるのは、難しかったです。
やはり3度目のデートの最中が良いのかな?
と、思い、そうしました。
由紀の元彼が登場するのは、初めから決まっていました。
そして、ヨリを戻さない選択をする事も、初めから決まっていました。
その時の由紀の心情は、女性の捉え方とは違うかも知れません。
また、女性ならどう思うのか、試行錯誤の日々でした。
後半は、泣くことが多くなってしまい申し訳無かったです。
そして、由紀の元彼の将。
彼が、悟と争った上で、最後に逮捕されてしまう事は、最初から決まっていまして、残酷な運命を背負わせてしまいました。
悟をヒーロー、由紀をヒロインとしての魅力を引き出すためには、将に悪役になってもらう必要がありました。
また、キャラ設定で1番苦労したのも彼で、会った事が無いため、0からキャラ設定する事になりました。
まず、二重人格っぽいキャラにしたかったのですが、表現の仕方が分からず断念しました。
次に、真面目で成績も評判も良いが、女性の事になると異常に執着し、支離滅裂な思考をする、狂気に満ち溢れたキャラに書きました。
しかし、ただの変人になってしまい、作品から浮いてしまったため、また0からキャラ設定をし直しました。
思考の末、とても短気で、怒ると見境が無くなるキャラにしてみました。
また、将は、はじめの設定では、由紀の事を本気で好きなわけではなく、都合が悪くなったから切り捨てた、ただの酷い男にするつもりでした。
しかし、それでは将があまりに酷すぎると、書き直しているうちに、本当は、怒りに任せて暴れる自分を、止めたいけど、止められない姿へと、変化していきました。
また、書いているうちに、彼は、由紀に深い愛情を持つようにもなりました。
結果的に当初の二重人格に近いキャラになった気がします。
何らかの形で彼が救われる場面が必要と思い、大村先生という恩師を登場させました。
服役中に自分で出した由紀への愛情の答えは、悲壮なものにならざるを得なかったと思います。
悟と由紀が結ばれた後の展開を、描けたのは、将がいたからです。
将のおかげで、物語における悪役の大切さ、人には出来ることと出来ないこと、救える事と救えない事があることを学びました。
彼が、物語に一波乱を起こしてくれた、功労者だと思っています。
悟、由紀、将。
この小説の主な登場人物は、この3人だけと少ないですが、それぞれが自らの役を終えて、この物語は完結する事が出来ました。
また、作者は、作品の産みの親という言葉を聞きます。
この作品は、私が創造した世界で、悟、由紀、将は、息子と娘になると思います。
しかし、私が、彼等のこの後の人生を描くことはありません。
完結したことで、私の元を離れたと思っているからです。
宜しければ、この作品を見ていただいた読者の皆様に、想像していただければ幸いです。
彼等にどういう未来が待っているのかを決めるは、読者の皆様の自由ですが、ハッピーエンドにしていただけると嬉しいですね。
一応、産みの親ですので。
彼等は、現実の世界にはいませんが、読者の皆様の1人1人の心の中にいると思っています。
どうか、私の子供達をよろしくお願いします。
最後まで作品にお付き合いいただいた、読者の皆様に心よりお礼を申し上げます。
宜しければ、評価、ブクマ、感想をいただけると幸いです。




