44話 救い
読者の皆様、作者の大森林聡史です。
この度は、この小説を気にかけていただきありがとうございます。
よろしければ、内容もお読みいただけると幸いです。
宜しくお願い致します。
【悟の一目惚れ 44話】
所変わって、ここは刑務所。
囚人の中に大男がいて、体育座りして呆然としている。
時折、部屋の上の方にある、窓から外を見た。
その目は、虚ろで焦点が定まらない。
(俺は…もう…やり直せない…)
(取り返しのつかないことをしてしまった…)
その男は、将だった。
自問しては、自分を責める時間がいたずらに過ぎていく。
目は、赤く充血している。
眠れていないのだ。
彼は普段は、紳士的で優しいのだが、気が短い一面があった。
そして、前述した通り、端正な顔立ちで、長身で脚が長く、スタイルが良く、筋肉質で引き締まった体型をしていた。
幼い頃から女性にモテていて、恋人に困ることは無かった。
だが、自分が本当に心惹かれる相手と付き合った事が無かった。
しかし、自分が本当に好きな相手に出会った。
それが由紀だった。
初めて、本気で付き合いたいと思う女性と出会い、連絡先を交換するところから始まり、デートを重ね、一度は、由紀と付き合う事が出来た。
将は、由紀と付き合う事が決まった時は、自分は世界一の幸せ者だと心の底から喜んだ。
だが…由紀の大学が忙しくなり、会えなくなると、その日々に耐えることが出来なかった。
由紀が、好き過ぎるあまりに。
寂しさを埋めるため、他の女性と遊び、それが由紀にバレると酷い仕打ちをした事は、前述の通りだ。
彼は、いけないことをしている、大好きな由紀を裏切ったと罪悪感を感じながら、別の女性と遊んでいた。
そして、由紀に問いただされた時、罪悪感、寂しさ、自らの気の短さに押し潰され、自分でも信じられない程、酷い言葉を浴びせた。
彼自身、その事をとても後悔していた。
何度も謝ろうとした。
だが、出来なかった。
また、由紀を傷付けた自分自身が許せなかった。
そうして時だけがいたずらに過ぎたが…彼は、どうしても由紀を忘れることができず、連絡をしたのだ。
その後は、この物語の通りである。
ろくに食事も喉に通らず、眠れず、自分自身を責め続ける将は、みるみるうちに、やつれ、痩せていった。
そんなある日…
「戸林、面会者が来ているぞ」
「…え?」
将は、頬がこけ、虚ろな目で刑務官を見上げた。
「俺に…誰が…」
将が、面会室に行き、待っていたのは…
「お、大村せんせい…」
「戸林君、久し振りだね」
先生は、穏やかに微笑んだ。
「せ、せんせい…」
将は、先生を見た瞬間、涙がこぼれ落ちた。
涙は、みるみるうちに大粒となり、溢れ、滝のように流れ落ちていく。
大村先生とは、将の中学生の頃の担任の先生だ。
将は、この先生の事が大好きで、尊敬していた。
「戸林君、おもいっきり泣いて良いんだよ…私は待っているから」
先生は、言葉の通り将が泣き止むまで待っていた。
その表情は、穏やかでとても優しい。
やがて、将が泣き止んだ。
「戸林君、君が逮捕されたと聞いて驚いたよ。一体何があったんだね?」
「実は…」
将は、全ての出来事を話した。
「先生…僕は取り返しのつかない罪を犯しました。もうやり直すことはできません」
「…そんな事を言ってはいけないよ。確かに君が犯した罪は大きいものだ。だからこそ、刑罰を真摯に受け止め、罪を償いなさい。そして…刺した彼…多村君だった…か。彼は生きているよ」
「え…!?」
将は、驚いた。
自分が殺したとばかり思い込んでいた。
「良かった…本当に…」
将は、この言葉を口にした。
心からの、本心だった。
将の目から再び涙が溢れ、こぼれ落ちた。
「戸林君。過去に戻ってやり直すことはできない。だが、この先、君には君自身の人生を歩む義務がある。むやみに自分を卑下したり、過去の罪にいつまでも囚われて、自分を責め続けなくて良いと思うよ」
「はい…!」
「例え、君がどんな人間だろうと、いつまでも可愛い教え子であることは変わらない。一緒にやり直そう。私も手伝うから」
「あ、ありがとうございます!」
将は、心から頭を下げた。
しばらく顔を上げることが出来なかった。
「戸林君。もう顔を上げなさい」
将は、大村先生に言われ、ようやく顔を上げた。
「まずは、良く食べ、良く寝て、体調を回復させなさい。全てはそれからだと思うよ」
「はい」
「それから…豊原由紀さんだった…か。君は今でも彼女の事が好きなんだね?」
「はい。ですが…もう好きでいる資格も、愛する資格もありません…」
「ふむ…これは私の持論だが…君の彼女を愛するという思いは尊いものだ。その思い自体を否定しなくても良いと思うよ」
「そ…そうなのですか…?」
「あくまで私の持論だがね。恋愛だけでなく、家族愛、隣人愛、師弟愛…など愛にも様々な形がある。また、人の関係も家族、恋人、友人など、様々だ。それぞれの関係で、相手を大切に思う事も1つの愛の形だと思うよ。だから…君が彼女を愛する気持ちは、君自身が大切にして、それからどうするのかは、君が自分で決めなさい。ただし、暴走して自分を見失ってはいけないよ」
「わ…かり…ました……!」
将は、必死に先生の言葉を理解しようとしつつ返事をした。
「もう面会時間が終わりのようだ。まずはこれ以上自分を責めて傷付けるのは止め、君自身の心の傷を癒やしなさい」
「はい! ありがとうございました!」
「また来るからね」
先生は、将に笑顔を見せて、一度大きく頷くと、面会室を去った。
将は、この日からゆっくりと眠りにつくことができ、食事もとれるようになった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
長い文章に、お付き合いいただき、心より感謝申し上げます。




