43話 将の僅かな良心
読者の皆様、作者の大森林聡史です。
この度は、この小説を気にかけていただきありがとうございます。
よろしければ、内容もお読みいただけると幸いです。
宜しくお願い致します。
【悟の一目惚れ 43話】
由紀の手の平に微かな鼓動が伝わった。
「悟…?」
由紀は、悟の背中の左側に手を当てた。
そこは、心臓の上に当たる。
ドクンッ…ドクンッ…ドクンッ…
由紀の手に確かに鼓動が伝わった。
「も、もしかして…」
由紀は、悟の背中に耳を当てた。
ドクン…!ドクン…!ドクン…!
由紀に、悟の心臓の鼓動が確かに響いた。
「い、生きてる……!!」
その瞬間、由紀の表情がパッと明るく輝いた。
笑顔が戻った。
その表情は、綻び、安堵した事が伺える。
「よい…しょ…」
由紀は、そっと、うつ伏せに倒れている悟を仰向けに起こした。
由紀は、スマートフォンのライトを付け、悟の身体を照らし、怪我がないか調べた。
服の左胸の辺りは破けているが、血は出ていなかった。
そして、顔を照らすと、苦しそうな表情だが、微かに眉や、閉じたまぶた、一文字に結んだ口が動いていることが分かった。
「い、生きてるわ…! ね、ねぇ…悟、起きて…」
由紀は、優しく悟を揺さぶった。
「う…ぐ……」
すると、すぐに悟は反応し、表情は歪んだが、うめき声を上げた。
「さ、悟…!?」
「ん…? ぁ…由紀…」
由紀は、悟に呼びかけた。
すると、悟は静かに目を開けた。
目は、まだ虚ろだが、瞳の奥に、確かな命の灯火が揺らめいている。
悟は、生きていた。
悟は、目を覚ますと目の前には、瞳に溢れんばかりの涙が溜まっている由紀の顔があった。
悟は、微笑んだ。
僕は大丈夫だよ…と言わんばかりに。
「やっぱり、生きてるのね!」
「どうやらそうらしい…」
「良かった…」
そう言うと、由紀は、再び涙が溢れた。
「しかし…何で助かったんだ?」
「いてっ…!!」
悟が、不思議そうに起き上がろうとすると、胸に痛みが走った。
「だ、大丈夫!?」
「あ、あぁ…」
胸の痛みは、刺し傷の痛みよりは、打ち身の痛みの感覚に近い。
悟が痛みの箇所を見ると、シャツは破けているが、その下の胸に傷は無かった。
「もしかして…」
悟が、ターコイズのペンダントを見ると、ターコイズに小さな傷がついていた。
「そうか…これが守ってくれたのか」
「良かった…」
「君、大丈夫かね?」
2人が安堵していると、警官が話しかけてきた。
「はい。何とか…」
「私は、全然大丈夫です」
「ひとまず、病院に行きなさい。救急車を呼ぶかね?」
「いえ…大丈夫だと思います」
「そうか、具合が悪くなったらすぐに言うんだよ」
「はい」
「おや? これは…」
警官が、ナイフに気が付き手に取った。
「うえっ…なんだこりゃ…」
ナイフは、ベトベトしていた。
警官は、自分の手に水滴が付いている事を認識した。
しかし、色は透明だった。
正体は、将の手汗だった。
将自身、必死に自分を思い止めようと、ナイフを握りしめていた。
そして、尋常じゃない程の汗をかいていたのだった。
「おや…? これは刃が出ていないな」
「え? そんなはずは…」
「止め金が止められていないね」
「そうか…そうだったのか…」
つまり、ナイフは止め金が止まっていないため、ターコイズの石に阻まれ、そのまま引っ込んだという訳だった。
将は、止め金を止め忘れたのでは無く、見境が無くなっている中で、必死に自分を止めようとし続け、止め金を止めない事だけはできたのだった。
「後で、話を聞かなければならないが、彼を病院に連れて行くのが先だ、もう行きたまえ」
「はい。ありがとうございます」
「悟、じゃあ、行きましょう」
悟は、由紀に付き添ってもらい、病院に向かった。
検査の結果、体の所々に擦り傷はあるが、既に血は止まっていた。
また、投げ飛ばされた時と、ふっ飛ばされた時の打ち身だけで、骨折もなく軽症ですんでいた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
長い文章に、お付き合いいただき、心より感謝申し上げます。




