14話 車中デート
読者の皆様、作者の大森林聡史です。
この度は、この小説を気にかけていただきありがとうございます。
よろしければ、内容もお読みいただけると幸いです。
宜しくお願い致します。
【悟の一目惚れ 14話】
白い軽自動車が走っていく。
前方と後方に初心者マークを付けて。
ドライバーは、多村。
その助手席に豊原が乗っていた。
「寒くない?」
「うん、大丈夫よ」
9月の末頃だが昼間はまだまだ暑く、車内は冷房が効いていた。
「多村君、卒業試験の頃よりも運転上手くなってる気がする」
「そっかな? ありがとう」
多村は、言葉は謙遜しながらも、練習の甲斐があったなと、内心は思っていた。
多村は、ドライブに行くことがあるかも知れないと思い、免許を取ったときから、猛練習をしていた。
また、安全運転のイロハをネットで調べて、常日頃から心掛けて運転していたのだった。
(カッコいい…かも…)
豊原は、腕を伸ばしてハンドルを持つ、多村の横顔をポーッと見ていた。
現在、信号待ちで停車している。
「あっ! そうだ!」
「は、はい…っ!」
多村は不意に、横を向いた。
すると、豊原は、運転席の多村から目を逸らし、弾かれたように前方を向いた。
「ZORDのCDがあったんだった。かけよう」
「え、ええっ! そうね」
豊原は、前方を向いたまま答えた。
多村は、CDを取り出して入れた際に、豊原の横顔が見えた。
(うわっ! また綺麗…)
軽自動車の助手席に座っているので、距離が近く、多村から、豊原の横顔が鮮明に見えた。
アイシャドウを薄く塗った、涼し気な目元、パッチリしていて少し潤んだ瞳、小さな鼻、小顔に似合つかない、やや厚みのあるプックリとした唇。
横顔のため、唇が少し突き出ており、紅く鮮やかなリップが映えていた。
また、頬がほんのり紅く染まっていた。
彼は、化粧の色がそうかと思ったが、実は違っていた。
(こんな人を、助手席に乗せてるなんて、わしゃ幸せもんじゃあ…イカンイカン、運転に集中しないと)
サンセットマリーナに付く前の、ドライブだけでお腹いっぱいになりそうである。
車内にZORDの曲が鳴り出した。
ZORDの透き通った歌声が車内に、染み渡る。
そう、ZORDは響くというより、染みるという表現の方が近い。
(お、この曲は、僕好きなんだよな)
(あ、この曲…私の好きな曲だ)
豊原は、眼を瞑りZORDの曲を聴いている。
(あら? 多村君、歌ってるのかな?)
豊原は、多村の方を向くと、わずかに多村の口が動いているのが見えた。
多村は、自然と鼻歌を歌うように口ずさんでいた。
(なんだか、ZORDと多村君がデュエットしてるみたい…)
豊原は、しばし聴き入ってた。
(私も歌おうかな…)
途中から、豊原も歌詞を口ずさんだ。
(おや? 豊原さんが歌ってる…高めのトーンのかわい〜声だなぁ…)
豊原も、鼻歌を歌うように、口ずさんでいるため、声に力みが無く、多村の耳に自然と抵抗なく入ってきた。
しばし、車を走らせていると、サンセットマリーナに着いた。
多村は、駐車場に駐車しようとしたが…何度か切り返し、ようやく駐車できた。
「駐車だけは、まだ苦手なんだよなぁ…」
「分かる〜、免許取ってから駐車するのって難しいよね」
駐車は、自動車学校には、ポールがあり目安となるものがあるが、駐車場にはなく、初心者ドライバーの難題となりやすい。
2人は、車を降りた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
長い文章に、お付き合いいただき、心より感謝申し上げます。