12話 酔っ払い由紀ちゃん
読者の皆様、作者の大森林聡史です。
この度は、この小説を気にかけていただきありがとうございます。
よろしければ、内容もお読みいただけると幸いです。
宜しくお願い致します。
【悟の一目惚れ 12話】
(どこに行くんだろう…?)
(ま、まさか、ひとっ飛びに某宿泊施設とか…!?)
男の思考は、真っ直ぐにそっちへ進む。
(い、いや、そ、そんなはずはない…)
(頭を冷やせ! 俺!)
多村と豊原の周囲は、現在繁華街だが、多村には、ネオン街に見えた。
(違う違う、そんなわけ無い!)
多村は、煩悩を振り払おうと必死だが、なかなかに手強い。
多村が、頭の中で、格闘している事など、豊原はつゆ知らず、歩いていく。
そして…
「ついたよ」
「へ?」
そこは、大衆居酒屋だった。
「ちょっとお酒が飲みたくって」
豊原は、いたずらっぽく笑った。
「そ、そうなんだ…」
多村が、呆気に取られていると
「入りましょ」
豊原が、先に入り、後を多村が慌ててついて行く。
「大人2名でお願いします」
豊原が、店員にそう告げると、2人は座敷に案内された。
「はい」
豊原は、メニューを取って2人の前に広げた。
「私は、生にしようかな〜、多村君は?」
「僕は、ウーロン茶で良いよ…」
「え? 飲まないの?」
「いや、僕は…未成年なんだけど…」
その発言を聞いた途端、豊原は、慌てふためいた。
「わ、忘れてた! そうだったね! ごめん! 出ようか!?」
「でも…飲みたいんでしょ?」
「…うん」
豊原は、小声で答え、頷いた。
「シラフで良ければ付き合うよ」
多村は、優しく笑った。
「ごめんね…」
豊原は、とても申し訳無さそうに呟いた。
「良いよ。飲みたい時は我慢せず飲んで良いさ」
「本当にありがとう」
豊原は、頭を下げた。
(なんて、ありがたくて、優しい事を言ってくれるのかな…多村君は…)
「良いよ。顔を上げてよ。さ、頼もう」
「うん」
(どっちが歳上だか分かんないなぁ…)
豊原は、少しだけバツが悪そうな顔をした。
多村はウーロン茶、豊原は生ビールを、つまみは、鶏の唐揚げとポテトのセットを頼んだ。
そして、飲み物とつまみが運ばれてきた。
「かんぱーい」
「乾杯」
2人は、軽くグラスを合わせて乾杯した後、飲んだ。
多村は、ウーロン茶を少し飲んでグラスを置くと、豊原は、まだ飲んでいた。
(結構、飲むな…そんなに飲みたかったのか…)
その後、豊原がグラスを置くと、中身は残り1/3程まで減っていた。
「ぷは〜、美味しい!」
豊原は、アニメのような可愛らしい声で、言った。
「ごめんね、居酒屋に連れてきちゃって」
「良いさ、その分食べるから」
多村は、唐揚げを頬張った。
熱々の揚げたてで、鶏肉が柔らかくてとても美味だった。
「美味しいよ、これ。豊原さんも食べなよ」
「うん」
その後も、豊原はハイペースで飲んでいく。
(あらら、豊原さん真っ赤っ赤になってる)
しかし、豊原は、お酒に強いわけでは無かった。
すでに瞳がとろんとしていて、頬は真っ赤。
ほろ酔いといった様子だ。
「ウフフ…たむらくんものむぅ?」
「僕? 僕は良いよ」
「あら? そぅなのぉ」
(しっかりしてるわぁ)
「じゃあ、あたしはもうすこしのもぅかしらぁ…」
「程々にしといたら?」
「はぁい」
豊原は、顔が真っ赤で、瞳はとろんとしつつ、ニコニコ…いや、少し笑い上戸といった様子だ。
「そろそろ出ない?」
「え? もぅ…」
すでに2時間以上は、経っている。
「ほら、あんまり遅くなってもダメだよ」
「はぁい」
2人は、店を出た。
豊原は、千鳥足とまではいかないが、少しフラフラしていた。
(うーん、まだ酔ってるな、送ってくか)
「豊原さん、送るよ」
「えぇ…? 良いよぉ…」
(そんな状態の豊原さんをほっとけ無いって言うのは、カドが立つかな…何か良い言い方は無いかな…?)
「ま、まだ一緒に…いたいからさ」
「あらっ!? そうなのぉ…じゃぁ、仕方ないねぇ」
豊原は、元々、真っ赤な頬が、更に少し紅く染まった。
「ほ、ほら…」
多村は、少し躊躇しつつも、豊原の手を取った。
多村の手よりも一回り小さい。
(や、柔らかい…フワフワしてる…)
豊原は、抵抗しなかった。
多村は、そのまま車道側に立ち、豊原の手を引いて歩いていく。
豊原は、ゆっくりと着いてきた。
「多村君って…頼もしくて…優しいねぇ…」
「はっ!?」
(きゅ、急に何を言うんだ!?)
「そ、そうかな…」
(こ、これって褒められてるよな…酔った勢いで!? いや、酔ってるからこその本音!? ど、どっちだ!?)
多村は、平静を装いつつ、頭の中は大混乱である。
(と、とりあえず、無事に送ることに集中すべし!)
「あたしねぇ…前の…」
「う、うん?」
「あ…あれぇ…? 忘れちゃった」
豊原は、小さく舌を出して笑った。
(オ、オイオイ…)
2人は、しばらく歩いた。
「夜風が、少しひんやりして気持ちいいや」
「そうね…うん」
(お、酔いも覚めてきたかな?)
チラッと多村は、豊原の方を向くと、暗くて豊原の顔色は見えないが、足元のふらつきは収まっているようだ。
(あら? 多村君と私、手を繋いでる…このままにしとこ)
豊原は、少しうつむいてちょっぴり照れくさそうだ。
しばらく、2人は黙って歩いた。
そして、T字路に差し掛かったところで
「多村君」
「なに?」
「私の家、もうすぐそこなの。だからここまで送ってくれれば大丈夫よ」
「そ、そっか…」
(うーん…残念)
「今日は、本当にありがとう! ごめんね、居酒屋に連れて行っちゃって」
「良いさ、僕も今年二十歳になるからそれから飲みにも行こう」
「うん。それから、多村君のZORDとっても素敵よ」
「そ、そうかな!?」
(そんな直接言われると、さすがに照れる…)
「また聴かせてね、ZORDの他の歌もあなたの歌声で聴きたいな」
「分かった。俺ので良ければ」
「うん。多村君の歌、私好きよ」
「あ、ありがとう…練習しとくよ」
「うん。それじゃあね」
「うん、それじゃ」
豊原は、ニッコリ微笑んで、多村とは違う方向へ歩いていき、脇道に消えた。
その姿を多村は、脇道に消えるまで見つめていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
長い文章に、お付き合いいただき、心より感謝申し上げます。