11話 歌唱! ZORD
読者の皆様、作者の大森林聡史です。
この度は、この小説を気にかけていただきありがとうございます。
よろしければ、内容もお読みいただけると幸いです。
宜しくお願い致します。
【悟の一目惚れ 11話】
カラオケのテレビ画面に、多村が選曲した歌の題名が表示された。
(あっ…この歌は…)
豊原が、ZORDの歌の中のでも1番好きな歌だった。
以前、多村に話した事がある。
(覚えててくれたんだ…嬉しいな)
豊原の表情が綻び、穏やかな微笑みを浮かべた。
(あら? 原曲キーだ! どうやって歌うのかな?)
ZORDの歌は、女性の歌でもキーが高めで、キー+1や、+2であることが多く、この歌の原曲キーは、+2だった。
そうしてる間に歌が始まった。
(声低い…だけど、心地良いな…)
多村は、声が低めで、高い声を出すことは苦手だが、低い声を出すことは得意だった。
女性の歌の原曲キーの1オクターブ下で、合うことが多い。
尚、彼にとっては、男性の歌はキーが高く、キーを抑えないと歌えない事が多い。
ZORDの歌が進んでいく…
(声は低いけど…なんだか、とても聴き心地が良いなぁ)
多村の歌声は、力が抜けており、耳に自然と入っていく。
そして、サビになった。
(歌詞が、曲に乗って心に響くわ…)
スーッと、豊原の頬を涙が伝う。
豊原は気付いていない。
多村は、自分の歌声を先走らせずに、曲に乗せて同調させるように心掛けていた。
(男の人がZORDを歌うとこういう風になるんだ…良いなぁ)
そして、歌が終わった。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチ…
豊原は、自然と拍手していた。
(ど、どうだったかな? 心を込めて歌ったけど、おや…? 豊原さん、泣いてる…)
「ありがとう…多村君」
涙で潤んだ瞳で、豊原が言った。
「どうだった?」
「うん…とっても良かったよ」
「良かった」
(そりゃ、泣いててダメだと言われたら、ちょっとね。ん? あ、そうだ)
多村は、ハンカチを取り出して、豊原に差し出した。
「え? なんで?」
豊原は、不思議そうな顔で、多村を見つめた。
(ん? 豊原さん、気づいてないのか?)
「豊原さん、頬を触ってみなよ」
「頬? あっ…」
豊原は、自分の頬が濡れていて、ようやく、自分が涙を流していた事に気づいた。
「や、やだ…恥ずかしい」
「はい」
多村は、ハンカチを豊原に渡し、豊原は、恥ずかしそうに受け取った。
「ちょっとだけ、向こう向いてて」
豊原は、少し頬を赤らめて、訴えた。
(恥ずかしいのかな?)
「ん? 分かったよ」
多村は、言われるがまま、豊原とは反対を向いた。
(チラッと見たらダメかな? 見たい! けど嫌われたくない!!)
多村が、葛藤している間に、豊原は、サッと涙を拭いた。
「もういいよ…」
(あ…もう拭いたの…?)
「あ、ああ…じゃあ、次は豊原さんの番だよ」
「うん。歌うね」
この後も、2人はカラオケを楽しんだ。
やがて、カラオケの終了時間になり、2人は、カラオケ屋を出た。
現在、17:30だ。
「さて、どうしようか?」
「うん。ちょっと行きたいところがあるから、一緒に来てくれる?」
「え? い、良いよ」
(ど、どこに行くんだろう…)
多村は、豊原に言われるがままについて行った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
長い文章に、お付き合いいただき、心より感謝申し上げます。