第12話 消えた使徒3
結局なにがどうなったかと言うと、エドワード王の叔父様、ダリアン辺境伯がご自分の領地に対しわたしの顕現を独占したい、って暴走した結果だったらしくて、そりゃ性的な欲望の目で見られてないんだったら加護は働かないよねっていう。まったく。
「レイカさん、こんにちは」しょぼくれた女神様がいらっしゃった。
「女神様、こんにちは。ちょうどおやつの時間ですし、いっしょに召し上がりません?」
新進気鋭のパティシエギルド長、エミリアさんが試食といって毎日大量のスイーツを持ってきてくれるので、順番で回ってくるわたし担当の侍女の日にはご相伴に与れる、なんて話題らしい。
そして今日のおやつはミルクレープ。もちもちのクレープ生地がプツプツした歯触りの楽しいスイーツ。
ミルクレープを一口、また一口と食べ進めるうちに女神様も朗らかなお顔に。女神さまがしょぼくれてちゃダメだよね。
「ごちそうさまです。このミルクレープ、こちらも聖別しなければなりませんね。ああ、いえ、そうではなく。
レイカさんに謝罪いたします。今回の誘拐沙汰、私の与えた加護ではレイカさんをお守りするに足りずこのような事になりました。申し訳ありませんでした」
「女神様頭を上げてください。無事だったんですし」あわあわしながら促す。この女神様軽々しく頭下げすぎじゃない?
「神々とお話しまして、いくつかの策を考えてきました。
全ての害意を持つモノからの影響をそのまま送り返す“反射”、レイカさんの存在を時空自体に結びつけ意にそぐわない移動を禁ずる“固定”、そもそも存在を神と同じくする“神化”、それらとは別に秩序の女神が警護として側に就きたいと申しておりまして」
どれもこれもなんだか大袈裟だなーとサラと顔を見合わせてたら最後の特大の爆弾。神様が護衛に就くって逆じゃない? 逆だよね?
「“反射”と“固定”はなんとなく分かるんですが、“神化”って神様になるって事です?」
「何と言いましょうか、寝ず食べず暮らせ、自由に神界と地上を行き来できます。完全な不老不死となり外見や存在自体のあり方も自由になります」
うん、神様だそれ。
「わたしが神様になっちゃっていいんですか?」
「特にダメなことないですよ?」それが何か的に頭こてんとされても困ります。
「サラもいっしょに神様になれますか?」ぎょっとしてこっち見るサラ。なにそんなびっくりすんの。
「もちろんそのつもりですよ?」当然じゃないですかみたいな顔して……。
「じゃあ二人とも神化でお願いします」なんか横の方でサラがもちょもちょ言ってるけど後で聞くからね~。
「それからオーディナリア様ってこないだお化粧にいらっしゃいましたよね?」
「はい、そうです。今呼びましょうか」女神様が横を見るとオーディナリア様が顕現された。
「こんにちは、レイカ殿、サラ殿」
「こんにちは、オーディナリア様」
とりあえずお茶とケーキのお代わりを。次は生クリームとフレッシュフルーツたっぷりのロールケーキ。
「それで、オーディナリア様はどうして私の側仕えに?」
「はい、使徒であるレイカ殿、そしてその従僕であるサラ殿。お二人の存在が今後のアーシャレント界に不可欠かつ最重要な人材であるから、では足りませんか?」
「いやまぁそう言われると納得するしかないのですが、今回みたいなことも現にあった訳なので。でもなんだか申し訳ない気がしまして」
「ああ、四六時中一緒に行動すると言う事ではないですよ。例えばわたしに関わりのあるアミュレットなど身につけて頂ければ、それを介して状況を逐次確認出来るようになりますので、いざというとき割り込めます。
わたしが司るは秩序。わたしの結界を破るのはそう容易いことではありませんので。あとはそうですね、たまにおやつにお呼ばれしたいとかその程度です」
ここにも居た甘党……! でもそうね、とても助かるし頼りになる提案だ。サラとうなずき合う。
「わかりましたオーディナリア様。ぜひ警護としてお願い致します。そして毎日おやつ食べましょう」
「わかりました、よろしくお願いいたします」
そういう事になった。まぁあとは慰労会というか何というか、女神様とオーディナリア様でケーキ10個ずつ食べて帰って行ったよ。
辺境伯と男爵は処刑、家門は解体、領地は没収と滞りなく進み、エドワード王から公式に謝罪したいとの申し出があったのは誘拐事件から8日ほど経った頃だった。