外伝その3【もしもだけでは終われない】(後編)
先輩と別れた後、寮に戻った私は、みぃ先輩にその時の事を話した。
すると、みぃ先輩は風間先輩の元へ行き、2人に話を聞いて、中村君の探し物を探しあてたみたい。
・・・・・・前々から思っていたけど、みぃ先輩って私が思う以上に凄い人なのかもしれない。
よくスマホで誰かとメールしてたりするみたいだけど、それが関係しているのかも。
そんな風に思っていたら。
「あーっと、日和ちゃん?」
「はい?」
「今回は聞いている限り、絶妙なタイミングが重なったから良かったみたいだけど、キョウさん関係で何かあっても、一人で、どうにかしようとしちゃ、ダメ、だ・か・ら・ね?」
「・・・」
「わ・かっ・たっ?」
「・・・」
「ひ~・よ~・り~・ちゃ~・ん~?」
「ぜ」
「ぜ?」
「ゼンショシマス」
「・・・」
心配はかけたくないけど、もう一度似たような出来事を見たら、私は同じように行動するかも。
そう考えたら、思わず言葉を濁してしまった。
「・・・・・・」
みぃ先輩はじーと私を見つめるばかり。
「その言葉だけじゃ、信用できないなぁ~」
「ううっ」
どうしよう、と思っていたら「・・・・・・それも今後視野にいれるかぁ」とポツリとつぶやいて。
「善処するとは聞けたので、今はその言葉を信じましょう」
「あ、ありがとうございます・・・あ、みぃ先輩」
「なーに?」
一区切りがついたところで、私はみぃ先輩に言った。
「私、風間先輩の事が好きです」
みぃ先輩は首を傾げる。それは当然だと思う。
私の気持ちを知っているから。
「でも、今まで声をかけるだけで、そこから先に進めませんでした」
「・・・・・・」
「それは私に勇気が足りなかったから、です」
優しさ”だけ”をみていた私には、あの態度がとても苦しかった。
「もし一歩を踏み出して、先輩の態度が何も変わらなかったらと思うと怖くて仕方ありませんでした」
「・・・・・・」
「噂を聞いて、みぃ先輩に色々教えてもらって、あの優しさは本物だとわかっていても、それでも怖かったんです」
だから、言えなかったんだ。
何度も顔を合わして、声をかけても。
”初めてじゃないんですよ?” と。
その言葉をいう事が、どうしても出来なかった。
「けれど、今日わかりました。私はあの人の事が好きで、色んな事を知った今でもそれが変わらない事。だから――私もう行動をおこさないままでいるのをやめます」
優しさと、人に対して壁をもっていること。
どちらも私の好きな人がもっているもの。
あの人が、今まで生きてきた中で、築いていったものだから。
怖がるんじゃなくて、その事をきちんと受け止めよう。
「行動を起こして、傍にいられるように、私がんばりますっ」
みぃ先輩に伝えたのは、応援してくれると言ってくれたから。
だから、私は自分の決意を伝えた。
すると。
「――日和ちゃん」
「はい?」
「前言撤回してもいい?」
「前言撤回、ですか?」
「そう」
何をだろうか? と首を傾げるとみぃ先輩は言った。
「協力しない、っていったこと」
「えっ?」
驚く私に、みぃ先輩はにこりと笑う。
「私はさ、何人かキョウさんを好きになった子を知っている。日和ちゃんみたいに、キョウさんの優しさに触れて、好きになって、近づこうとした子達。でもみんなキョウさんの心の壁を知って、無理だと思ったみたいで――私はその子達が悪いなんて思わない。私は友人としてキョウさんを好きだけど、異性という目で見れば、厄介極まりないと思っている」
だってさとみぃ先輩は寂しげに笑う。
「キョウさんはどんな境遇で育ったかは知らないけど、好意には鈍感な”ふり”をしてるの。それは好意が悪意が逆転する事を知っているから。「自分みたいな人間は好かれない」「仮にあっても一時だけ」と好意に気が付いてもそれがなかったかのように扱う。それは自分自身の心を保つ術なのかもしれないけど、これって好意を向けた相手を信じていないのと一緒でしょ? それってとっても悲しい事だから。だから私はキョウさんに対しての恋愛相談を受けても、協力はしてこなかった」
好きになった相手が、好きという言葉を信じてくれないからね。とため息をつく。
「無論、人の恋愛事情だし、最終的に決めるのは当人だから、忠告はしても止めるなんてしてこなかったし、相手の事を見ていない、好きという言葉を認めない相手なんてハードルが高すぎるからさ、諦めたら私なりにフォローはしてきたつもり」
さらりと言っているが、それって凄い事をしているんじゃ? と思った。
でも、そこはみぃ先輩にとって、重要じゃないのだとも思う。
「あの馬鹿がただのゲス野郎なら、二度と変な事を起こさないようにしてもよかったけど――でもさ、良い奴、なんだよね。あんなに人と距離をとるくせに、困っている誰かの所に現れてさ、人の悩みや苦労をひょいひょい背負い込んで、そして相手が解決したら自分のことのように笑う。私は何度もそれ見てきた。」
風間先輩の馬鹿だと呼ぶ姿が、とっても優しいものだったから。
「それでいつも最後は同じで――相手が喜んでいるなら、もうそこに自分がいなくていいって本気で思ってるのも同じだった」
優しくて、そしてやるせない気持ちがいっぱいに溢れていた。
「そんな相手だから、私はあの馬鹿が誰かと付き合って、変わって欲しいと思いながらも、その相手がいっぱい苦労するのがわかっていたから、どうしても誰かの背中を押す事ができなかった」
「みぃ先輩・・・・・・」
「だから、もしかしたら余計なお世話どころの問題じゃないかもしれない、けどね――」
――私は、キョウさんと日和ちゃんが付き合ってくれたらいいなって思ったんだ。
その言葉に含まれた想いはきっと 私が考えているよりもずっと重い。
いつものみぃ先輩が見せない笑みで、目の端に涙を滲ませているのは、2人の間に色々あって。
多分、風間先輩にすら見せていないものもあるんだ。
「私――」
「んんっ!」
どんな言葉を返せばいいのか迷っていると、みぃ先輩は自分の目をゴシゴシ拭う。
「今私似合わない事を言った! もう、言うべき事は協力させて欲しいってだけでよかったのになぁ~、あー恥ずかしいっ」
そうやって笑う姿は、いつものみぃ先輩で。
「みぃ先輩・・・・・・」
「あはは、本当に恥ずかしいなぁっ」
いつもより少しだけ、明るく振る舞う姿に。
「みぃ先輩、ありがとうございます」
「――――」
私に言えることはないと思って、代わりに心からのお礼を言った。
そしたら、少しだけ目を丸くしたあとに。
「――こちらこそ、ありがとね日和ちゃん」
みぃ先輩はそう言って又笑った。
――綺麗で魅力的で、とっても凄い人だと思う。
そんな人が協力してくると言っているのはとって不思議な気持ち。
今でも、いいのかな?と思う所もある。
私は何もしていない。
だけど――。
それだったら、今後返していけばいいんだ。
好きでいるだけでは何も変わらないように。
戸惑うだけじゃなくて、少しづつでも自分のできる事をしていけばいい。
そうやって、行動を起こすからこそ。
変わっていける事を、私は知っているから――。
「じゃあ日和ちゃん、さっそくだけど開始しましょうか?」
「えっ?」
「あのお人好のくせに、無駄に硬~い心の壁をこれでもかと築いているキョウさんが相手、だからね。正攻法だけだとパンチが弱いどころか、全部なかった事にされかねない。だから正面からじゃなくて、色々な絡め手を駆使していく!」
「えと、あの、はい?」
「だから、日和ちゃんには非常に申し訳ないけど、今は準備期間。ちょくちょく話しかける現状を維持しつつ、後でそれを使って『俺ってヤベー奴じゃん、相手の事覚えてないなんて』と自己嫌悪にさせつつ、確実に日和ちゃんに意識を向けさせて、そこからどんどん懐に入り込んでいくの! そうすれば相手と距離をとろうとするキョウさんであろうと、なかった事になど出来ない! そこから――」
「あうあうあうあうあう」
早口でまくし立てるみぃ先輩に、私の頭が追い付いていかない。
そんな私に嬉々として語り続け、最後に。
「そういうわけで勝負は夏休みが明けた後! 頑張ろうね日和ちゃん」
「はぃ~」
勢いに呑まれた私は頷く事しかできかなかった。
そして――。
「頑張れ私頑張れ私」
時間が流れて、夏休みが終わった”今日”。
私は売店の近くにベンチに座っている風間先輩に向かって声をかけるために、自分の言い聞かせていた。
「すぅ――はぁ――」
あの後、何度も声をかけたり、みぃ先輩に風間先輩や、周囲に関する事などを教えてもらって、どうしたら振り向いてもらえるか、一生懸命考えて、ついに今日私はその一歩を踏み出す。
いっぱい考えて、対応も沢山教えてもらい、今日で全てが決まるわけじゃないとわかっていても、緊張してしまう。
もしも、上手くいったとして、その先はどうなるのか?
もしも、上手くいかなかったら、どうすればいいのか?
答えの出ないもしもが、いくつも脳裏をよぎる。
「っとダメダメ」
そこで止まってはダメだと、自分で決めた。
だから。
「―――よしっ」
気合をいれて、私は風間先輩の元へと向かう。
これから、どうなるのかなんて全部わかりっこない。
けれど、一つだけハッキリしている。
それは。
私は自分の気持ちを。
もしもという言葉で終わらせたくない、という事だ。
そのために、まずは小さくても一歩、踏み出そう。
「あの――」
(終)




