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5章 【If】その二 


「――と、いうわけで、付き合う事に、なりました」

「なりました~」


 あれから、実に色々の出来事を経て、、いつも時のように消灯後の見回りが終った後。


 俺の部屋に、華彩、瑞希、中村君というメンバーが集まっていた。


『結局キョウさんと日和ちゃんはどうなったの?』


 という、瑞希の当たり前の疑問から始まった報告会が行われている。


 ……とはいえ、あれからそれぞれの寮に戻って、俺は中村君に、華彩は瑞希に結果を伝えたわけだから、これは報告会というよりも、どちらかと言えば、俺達が付き合った事に対するお披露目、みたいなもんだろうなーこれ。


 だってねぇ。


【祝・カップル誕生っ♪ オメデトウ日和ちゃん!と、ついでにキョウさん】

 

 いつの間に用意したのか知らんけど、こんなもん部屋に飾られたら、「あっパーティするんですね、わかります」と思わざるを得ない。


 その証拠に。


 部屋の中心に、俺・華彩が隣同士に並んで、向かい側に中村君と瑞希。


 この2人の距離は付き合っているわけではないので、少し離れている。


 なので、構図としては、部屋の窓側。その中央に俺達がいて。扉側に瑞希達2人がいるという、三角形の構図が出来上がっており。

 

 そんな俺達の間には、それぞれが出し合ったお菓子やらジュースがこれでもかと言わんばかりに並べられている。


 正直、俺が間食に用意していたお菓子類は、そこまでストックがあるわけではないので、このお菓子やジュースの山を用意したのは、ほとんどが瑞希だ。


「いや~さすがに、読めない展開が多くて、今回用意できたのは既製品ばかり。本当だったら、私が腕によりをかけて料理やデザートを用意してあげたかったんだけど、今回はこれで我慢してね?」

「お前の手料理とか、マジでヤメロください」

 

 祝福してくれているのは分かっている。


 分かっているので、それについて文句を言う気はないが、頼むから、お前の料理を披露しないでください。


「もう、キョウさんってば、そんなに遠慮しないてもいいのに、照れるな~」

「遠慮なんかしていないし、まして照れてるわけでもない。――いや、料理自体の腕は大したモノだと思うけど」


 そう、別に瑞希の料理が壊滅的に下手だから、嫌だといっているわけじゃなくて。


 こいつが俺に出す料理のほとんどが――


 

 普通の食材を使わないから、嫌なんだ!



 一度目は隠して、それからは隠す気さえゼロ。


 ことあるごとに「○○で料理したらどんな味がするのか知りたいから、キョウさん、食べてみて☆」なんて色んな理由を作っては、食べさせられる【実験料理】の数々。

 

 味が不味い、とか。見た目がグロテスクとか、そういうものは、基本ない。

 

 だが、少し想像してみてほしい。

 

 出された料理。見た目は美味しそうで、味も満足なものだったとしよう。

 

 そんな時に――


『実はそれカエル使ってたんだけど、美味しかった?』


 ――なんて、言われた時の俺の気持ちを。


 飲み込んだ胃の中にカエルが入っていると想像して、気分が一気に下がる。


 それを、俺はこんな時に体験したくなんてないんだ。


「みぃ先輩の手料理、ですか?」

 

 俺が過去の記憶を掘り返し、内心でゲロ吐きたくなる気持ち知らない華彩は、少し考えこむようにしてから一言。


「先輩、私が料理を作ったら食べてくれますか?」

「もちろん喜んでっ!」


 気分が駄々下がりだった時に、そんな事を言われて気分は急上昇。


 素直に態度に表すと、華彩は「じゃあ、今度作ってみます。楽しみにしていてください」とはにかんで言ってくれた。


 その内容と、華彩の笑顔を見て、気分が良くなっていた時に。


「付き合って早々見せ付けてくれるなんてやるわね。キョウさん、あなたこんなに可愛い子が彼女になって、もう一生分の運使ったんじゃない?」

 

 瑞希がからかうように声をかけてくる。

 

 その態度に、いつもだったら俺も言い返す所だが、今はそんな気分になれず、ただ今の気持ちをありのままに伝えた。


「あはは、そうだな~」


 すると、一瞬だけ呆けた顔をしたかと思えば、やれやれと言わんばかりの苦笑を浮かべる。


 そんな顔を見ても、特に何も思うことはなく、俺は笑顔のまま。


 中村君は、そんな俺を少し驚いて見ていた。


 まぁそれも、無理もない。

 

 俺だって、こんな風に笑う姿を、他人に見せるなんて思いもしなかったんだ。

 

 けれど、やはり悪い気はしなかったので、表情を変える事はしなかった。

 

 すると、クイクイと軽く引っ張られる感覚があったので、そちらを見れば、華彩が俺の服の裾を引っ張っていた。

 

 どうしたんだろう? 


 そう思ったときに、華彩がにこりと笑ってきたので。

 

 俺は首をかしげながらも、笑顔で返した。


「えいっ」


 そうしたら、華彩は俺の腕に抱きついてきて。


「ちょっ!……」


 さすがに、人前でそんな事をされたら、びっくりする。


 なので、さすがに少し気恥ずかしくなったのだが。華彩は笑顔を浮かべたまま離そうとしない。


 ここで無理に華彩を引き剥がすのは、駄目なような気がして。


 でも目の前の2人はあまりいい気がしないのではないかと、視線を前に向ければ――


「「……」」


 固まっていた。


 瑞希は苦笑したままで。

 

 中村君は、何でか知らないけど、若干怯えている、ような気がする。

 

 どうしたんだと、声をかけるより前に。「ちょっと、舞い上がっちゃいました」と華彩は俺の腕から離した。


「さすがに、人前では、気をつけないと、ですねっ」

 

 自分でもやりすぎたと思ったのか、若干照れが混じった笑顔。

 

 それを言われたら、特に返すこともない俺。

 

 軽くその言葉に頷いて、再度2人に視線を向ければ。


「「……」」


 先ほど同じ表情で固まっている2人。


 さすがに心配になって声をかけると。


「そ、そんな事より、キョウさん。折角付き合い始めたんだから、これから色々、したい事とか考えていたりするんじゃないの? ねぇ、中村君!」

「そうですね、萩村先輩! 風間先輩! せっかくこうして付き合い始めたんですから、色々やりたい事とかか、あったりするんでしょう!」


 2人して、そんな事を言い出す。


 ……今、明らかに話題をそらそうとしていなかったか?


 何故か知らないが――


『それ以上、聞くな』


 二人がそんな念を送っているような気がした。

 

 だから。というわけでもないが、これ以上聞いても答えは得られない。


 そう判断した時に、二人の疑問に対する返答をした。


「明日は初デートです♪」


 俺ではなく、華彩が。


「「ほほう」」


 と目をキランと輝かせる2人。


 あっ、これ色々聞かれるヤツだ。


 そして、それを肴にして盛り上がる満々なんですね、わかりたくありません。


「帰って来るのが遅いと思ってたら、ちゃっかりそういう事も話してたのね。うんうん良いことね。とは言っても、それだけじゃないんでしょう? 他にはどんな事をしていたの?」

「えへへ。それはですね~」


 嬉々として、華彩は瑞希や中村君に打ち明ける。


 あー華彩さん。


 程々にお願いします。


「まずは――」


 そうして、華彩が繰り広げる話の数々に瑞希や中村君は、時に驚き、時に冷かし。


 けど何だかんだ言って、2人ともちゃんと華彩の話に耳を傾けてくれていて。


 相槌を打ったり、茶々を入れながら。


 用意されたお菓子やジュースを消費していき。


 語る華彩は常にニコニコしながら、同じようにオヤツを摘んだり飲んだりして。


 そしてその語りを聞いて、照れたりしつつも、何だかんだ言ってやっぱり嬉しさを隠しきれずに苦笑しながら、みんなと同じように用意された物を頂いて。


 そんな風に俺達は、時間を忘れて楽しんでいたのだった。

 












「もう、こんな時間ね」


 0時を過ぎた頃に、瑞希がスマホで時間を確認しながら口を開く。


「そろそろお開きにしましょうか」


 ある程度語り、用意されたお菓子やジュースも大半を消費した時に瑞希はそう言った。


「そうですねー。2人共明日はデートなんでしょう? だったら今日はもう休んだ方がいいんじゃないですか?」

「そうね、じゃあ、ちゃちゃっと片付けちゃいましょ」

 

 そう言って立ち上がりかけた瑞希達に「俺がやるから」と声をかけて。


「今日は色々あったし、時間も時間だ。後の事はいいから、皆休んでくれ」


 俺がそう言えば、瑞希は「キョウさ~ん。今更私達に気を遣ってどうすんのよ」と言い、中村君も「先輩だけに任せるなんて、申し訳ないですし、手伝います」と俺の言葉に首を横に振って、華彩は「私は残って一緒にやります」と、手伝いを申し出てくれたのだが。


「なんか、今日は一人でさ、やりたい気分なんだ」

「――ふーん、まぁ、そう言う事なら、別にいいんだけど…ねぇキョウさん、一個聞いていい?」

「何だよ?」

 

 一瞬、俺の心覗き込むように目を細めた瑞希が一言。


「それが、感謝の印なら、何かしょぼくない?」

「いやいやいや、さすがにこれで、感謝の気持ちを表そうとするかっ」


 いや、全く無いとは言わないけれど。


「感謝については、まあ、追々何か考えていくよ。本当に、色々、してもらったからな」


 今日は、いや……違うか。


 俺が、気づいてないだけで、俺が知ろうとしなかっただけで。


 きっと、今までも、ずっと助けられていたんだろう。


 それを、一度の言葉や行動で返せるなんて、とても思えなかった。

 

 だから、これからも一緒にいるであろう三人には、いつになったら返し終えるのか、それはわからないけど。


 それでもちゃんと返していこうと思う。


「でも、そうだな、こういったことはきちんと言っておいた方がいいか」


 返していく、とは言っても――


「みんな、今日はありがとな」


 今、この場でお礼をいう言はできる。


 そう思って頭を下げれば。


「「「……」」」


 何だか、みんな少し驚いた顔で、俺を見ていた。


「キョウさんが、キョウさんが言いそうな言葉を、キョウさんが絶対にしないだろう表情で言ってる」

「人って、ここまで変わる事ができるんですね。予想以上に変わっていて、僕びっくりです」

「……できれば、そう言った表情を見せるのは、私と2人っきりの時に……でもこの2人なら良い様な気も……でもやっぱり、独り占めしたい……」


 そして、それぞれの反応は、そんな感じで。


 いつものように「何を言っているんだ?」と首を傾げてみれば。


「これ以上会話していると、いつまでも終わる気がしないから、今回は素直に受け取ってあげましょう。どういたしまして、キョウさん」

「お、おう」

「日和ちゃん、そういうのも可愛いと思うけど、今日の所はお暇しましょう。大丈夫大丈夫、これからずっと一緒だから、一人占めしたいなら、たくさん機会はあるよ、ねっ?」

「――――はっ!? あ、はい。じゃ、じゃあ風間先輩。明日楽しみにしてますねっ」

「ああ、また明日な」

「はい、おやすみなさい」


 それぞれ言葉を交わした後、窓をあけて、2人部屋から出て行った。


「じゃあ、僕もこれで」

「あぁ、おやすみ」


 2人を見送った後に、中村君も部屋から出て行き。


 そうして部屋に、俺1人残る。


 元々2人部屋のため、1人だと大きく感じるこの部屋。


 つい先ほどまで、みんながいたために、その感覚はいつもより大きく。


 少し、寂しさを感じるが。


「さて、俺も片付けて、とっとと寝るか」


 それも一時だけのこと。


 眠ってしまえば、明日は華彩との初デート。


 それだけじゃなくて、その後も、瑞希や、中村君や、華彩と。


 ――きっと、自分が想像するより、騒がしくも楽しい毎日が待っている。


 そう思ったら、今度は興奮してくるのを、自覚して。


「俺、今日寝れるかな」


 そんな自分に苦笑して、片づけを始めた。













 いつも、考えていた事がある。


 どうして、こんな自分になってしまったのか。


 人を見たら、不安になって。


 自分から関わる事が、怖がって。


 そうして、関わりを避けるようになって。


 気がついたら、いつも遠巻きに他人を眺める事が多くなり。


 時々、勇気を出して近づいても。


『なんで、お前が来るの?』


 そう、思われるのが、なんとなくわかって。


 俺はいつしか他人が怖くて仕方なくて。


 そして、他人に怯える自分が嫌いになった。


 そのくせ。


 他人の事が怖くても。他の人が楽しそうにしているのを見たら。



 ああ、羨ましいと。



 そんな風に言いたい事を言って、友達と笑いあえるみんなが。


 心底羨ましかった。

 

 俺にも、友達はいたけど、いつも一緒とはいかないから。


 限られた場所でしか、そういった時間はとれなくて。

 

 結局、一日の大半は、一人で過ごす事が多かった。

 

 だから、だろう。

 

 気がつけば問い続けていた。

 

 俺が、もっと他人と関わることに積極的になれたら。

 

 俺は、自分を好きなれただろうか?

 

 俺が、他人の事を何とも思わなければ。

 

 俺は、もっと楽しく生きていくことができたのだろうか?

 

 それは”もしも”の話。

 

 もしも、何々だったらという、意味のない仮定。

 

 思うだけで、行動しなければ変わらないこと。

 

 けれど、それでも……思わずにはいられなかったから。

 

 ずっと考え続けていた。

 

 どんなもしもがあれば。

 

 俺は、自分の事を好きになって。

 

 そして。


”幸せ”というあやふやで、明確な形ないものに対して、自信を持って自分が「そうだ」と断言することができるのか。


 昔からずっと、考えていたんだ。

 

 俺にもし、自分を理解してくる友人ができたのなら、俺は変われるのだろうか?

 

 俺にもし、自分を慕ってくれる後輩ができたのなら、俺は前を向けるのだろうか?

 

 こうして、この学校で過ごしていく中で、自分が考えていた、もしもが叶って。

 

 その時は、何か変わったような気がした。

 

 でも――


 それでも結局ふとした時に、自分が他人に怯えるのがわかって「結局、変わらないんだ」と思った。

 

 けれど、あの時も。思っていたんだ。

 

 あの日、華彩が俺に声をかけてくれた日だって。

 

 もし、俺に。



 自分を理解して好きになってくれる、そんな存在が現れたのなら。



 今度こそ、俺は、他人に怯えることなく、関わりをきちんと持って、そしてそんな自分を好きになれる。

 

 今の俺にとって、”幸せ”と言える。


 そんな日常を過ごす事ができるのか、と。

 

 他人が怖いと思いながら、考えていた。


 絶対にあり得ないと思いながら、考え続けていた。

 


 そんな”もしも”の話を――――。


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