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3章【噂 進展 転換期】その一 

「風間君さぁ、最近一年の子と仲良いよねぇ。付き合ってるの?」


 そう言われたのは、華彩と交流するようになって、数日経ったある日の事。


 声をかけてきたのは同級生の細川ほそかわ 鈴音すずね


 校則により、平時は私服OKで、髪色も自由となっているため、彼女はなんて言うか、今時の子、と言えばいいのか?


 明るめに染めた髪に、ワンポイントのピアス、そして、ファッション誌にでも載ってそうなお洒落な服とくれば、それはもう、服にも髪型にも気にかけていない俺にとっては、別世界の住人だった。


 けれど、瑞希の友人である事と、彼女自身の性格により、俺みたいな相手でも気さくに声をかけてくれるのだが……


 今回の言葉に、目が点になる俺。


「はぁ?」

「いや、だって、最近瑞希以外の女の子と話しているのよく見るからさぁ。あ・の・風間君にも、ついに彼女ができたのか~!って、皆噂しているよ」


 俺は、今何を言われているんだろう?


 さっぱり理解できません。


 俺に彼女?


 何言ってるの?


 ついでに、”あの”って何さ? 


 俺に彼女が出来る事に、みんな何か思うことでもあるんですか?


「誰とも付き合ってないけど、噂って何だ? 俺噂になるようなことした覚えないんだけど」


 華彩の事を言われているのは何となく理解できる。


 自慢じゃないが、俺の交友関係は広くないからな。


 けど、華彩と何か噂になるような出来事って何かあったか?


【集会】……は瑞希の情報操作で広まることは無い。


 アイツは、そこら辺徹底している。


 あと華彩と行動したのは、俺が風景画を描くために一度出掛けた。


 噂が広まるとしたらこれだけだけど。


 あの日すれ違った後輩の仕業かとも考えたが、それで広まっていたら、多分瑞希が何か対処するだろうけど、見ている限り何も無さそうだから、恐らく違う。


 あとは基本、瑞希も一緒にいる、だから噂になるような事は無いはずなんだけどな。


「……本気で言ってるの?」

「残念ながら、キョウさんは本気で言っているわよ」


 俺の言葉に、信じられないと目を丸くする細川。


 そんな細川に対し、いつの間に現れた瑞希が答えた。


「瑞希、いつの間に」

「はいはい、それはどうでもいいでしょ。今大事なのは、キョウさんが無自覚って事が一番の問題なのよ」


 やれやれと肩を竦められるが、やっぱり何を言っているのかさっぱりわからない。


「瑞希ぃ、私さぁ、肯定はされないかも、とは思ったのよ。でもねまさか『何言ってんのこいつ?』なんて目で見られるとは思わなかったわ」

「わかるわ。大丈夫、あなたは何も悪くない。悪いのはキョウさん。それで解決よ」


 よよよ、と泣き真似をしながら瑞希にすがり付く細川と、よしよしと頭をなでる瑞希。


 えっ、なんで俺が悪い事になってんの?


「あの~、細川に、瑞希。俺何かしたの?」

「「……」」


 話しかけると、ジーとジト目で見る二人。


 その視線を受け、だらだらと冷や汗が流れる俺。


 数秒の沈黙の後、二人揃ってため息をつき。


「まあキョウさんだからねぇ、悪いけど多めに見てあげてよ」

「うん……わかった」


 その言葉に何か言葉をかけようと口を開く、が。


 タイミングを見計らったようにチャイムがなり、「じゃあ私行くからと」と教室を出る瑞希。細川は「バイバ~イ」と手を振り――


「ねぇ、風間君」

「……何?」

「無駄かもしれないけどさぁ、い・ち・お・う、言っておくね?」


 何だよと、答えるより前に。


「もう少し、自覚した方がいいと思うよ?」


 そう言って、くるりと背を向ける細川。


 これ以上は何も言わない、という意思表示、ではないだろうけど、授業が始まってしまうので、結果何も言えなくなってしまう。


 何で、何もしてないのに、罪悪感やら何やらに苛まらなければならないのか。


 解せない。













 数分後、先生が教室に入り授業がはじまる。


 先生の声とチョークの音。


 あとは小声の雑談が教室を包んでいる中で。


 ノートをとりながら、先ほどの会話を思い返していた。


 噂と、自覚、ねぇ。


 噂の方は、要するに俺と華彩が彼氏彼女の関係になってるってモノだとして――


 ――自覚って何だ?


 華彩の事で自覚するべきことって何かあるか?


 出会いのあれこれや、二人っきりの時に話した内容。


 それの事を言っているのであればまだ理解できるが、さっきの話から察するに、細川が言っているのは、『俺が、華彩と一緒にいる』という事についてだろう。


 けど、絵を描きに行った時以外は、大概瑞希が一緒にいた。


 三人で繰り広げた会話は、【集会】を除けば、どれも他愛の無い事ばかりで、噂になるような会話はなかった……はず。


 それとも俺が自覚してないだけで、何か噂になるような類のことを口走ってしまったとか?


 ちょっと思い返してみる、


 ええと、確か――













『風間先輩、今日一緒にご飯どうですか?』

『別にいいよ、誰とも約束してないし』

『じゃあ、私とみぃ先輩、三人でどうでしょう?』

『OK、じゃあ又夕飯の時に』

『はい、待ってますね』


 とか。


『よう、瑞希に華彩、二人で荷物抱えてどうした?』

『あっ! キョウさん。丁度いい所に』

『んっ?』

『ちょっと今人手が欲しいのよ、荷物運び手伝ってくれる?』

『え、めんどうくさい』

『ごめんキョウさん、マジで忙しいから、ツンなら暇な時ににしてくれない?』

『いや、何言って――』

『だってため息つきつつも、腕まくりしてるんだから、手伝ってくれるんでしょ? だったら早く手伝ってよ。時間が押してんのよ』

『……かったるい』

『えと、その、ごめんなさい風間先輩』

『ああ、別に――』

『気にしなくていいわよ、日和ちゃん。ただのツンデレだから。放っておきなさい』

『え? でも……』

『あー、華彩、暇だからいいよ。多分俺が面倒くさいとか言ったから、気にしてくれてるんだろ? ただ素直に瑞希の言葉に頷くのもアレだから言ってみただけだ』

『そうそう、これ以上続けても男のツンデレなんてしょーもないもの見せられるだけだから、早く終わらせるためにも、この男の言葉なんて無視していいのよ』

『お前は逆に、少し言葉を選べっ』

『私はあなたのツンデレを見たくはありません。何故ならとても忙しいからです』

『敬語で言えって意味じゃねーよ! しかも英語の翻訳みたいな話し方するな! 余計に腹立つわ!』

『せ、先輩達……け、喧嘩はよくありませんっ』


 










 なんて感じで、特に何かあるわけじゃないんだけど。

 

 けど、噂、立っているんだよなぁ。

 

 それはまずい。


 非常にまずい。

 

 俺はともかく、相手側――華彩の事を考えるとそんな噂立たないほうがいい。

 

 だって、好きな人がいるっぽいし。

 

 ここの噂って生徒の人数が少ないせいか、広まる時はほぼ学校中に広まるってことだからな。

 

 華彩の好きな人に心当たりはないが、多分学校の生徒ではないだろうか。

 

 だとしたら、その華彩の好きな人が、俺と華彩が付き合っていると思っているわけで……

 

 どうしたらいいんだろ?

 

 誤解だと言うったって、そもそも誰に言えばいいのかすらわからないのに。

 

 どうにかしなければ、という思いと、何をすればいいのかという思い。

 

 その気持ちが交じり合って、なんとも言えない気分になりつつ、授業は進んでいった。

 













 その日の夜。


 華彩が参加するようになってから、二回目の集会が行われた。


「今日は私が考えてみました」


 三人で軽く談笑した後に、今日は何について話し合うかと考えていた矢先。


 はい、と可愛らしく手を上げて華彩は言った。


「先輩達に共通してる趣味として『漫画』なんてどうですか?」

「ほうほう。確かに私にもキョウさんにも馴染み深いモノだし、大抵の人は読んだ事あるだろうから、日和ちゃん的にも意見を纏めやすいかもね。いいんじゃない?」

「風間先輩はどうですか?」

「いいと思うぞ、今日はそれでいってみようか」


 正直、先日の恋愛に比べれば、断然優しいお題だったので、俺もすぐに了承する。


「じゃあ、日和ちゃんから行ってみましょうか」

「えっ? 私からですかっ?」

「うん。言いだしっぺだし、それに空気に触れるという意味でも、実際にやってみるのが一番だからね。ゆっくりでいいから自分の意見を言ってみて」

「え、えっと~。……困りました、正直、何について話すかばっかり考えていたので、何を話すかなんて全く決めてなくて……」


 おろおろと困り顔する華彩は、また先ほどとは違った意味で可愛らしい。


 だが、それでは先に進まないし、華彩が困っているのだ。


 何かアドバイスでもと思ったが――


 俺は踏みとどまった。


 いかん……華彩に関して何かしようとすると、絶対に裏目にでる気しかしない。


 だって、ねぇ。


 先日から、あれだけ情け容赦なく言葉の暴力でボッコボコにされているのに、ノコノコしゃりしゃり出て行っても、良くなるビジョンがちっとも思い浮かばない。

 

 そう思ってちらりと瑞希をみれば。


 

 ――あんたが、何か、言いなさい。



 華彩から見えないように、口ぱくでそう伝えてくる。

 

 ここから、口パクによる攻防が繰り広げられる。


『えぇ、無理だろ? だって俺だよ? 最近華彩に関して、全部裏目になってるんだよ? どう考えても俺は不適合だって!』

『何言ってるの? 日和ちゃんが困ってるの、見ればわかるでしょう? ここでやれる所を見せるのは、男として当然のことでしょうに』

『男としてどうこうより、より確実なのはお前がアドバイスすることだ……俺は華彩に、余計な事をこれ以上言いたくないんだ。頼むよ』

『はあっ? 何寝ぼけたこと言ってんのっ? いい? これは日和ちゃんだけじゃなくて、キョウさんにも必要な事なのよ。いいから、キョウさんが、日和ちゃんにアドバイスするの。これは決定事項よ』

『ちょ、瑞希、お前っ――』

『キコエマセ~ン』


 以降、俺がどんなに意思疎通を図ろうとしても、瑞希は答えようとせず。


 華彩には「落ち着いて、焦らず考えてね~」なんていいながら、俺には「早く早く、Hurry up!」とジェスチャーで伝えて来る。


 いやいや、どうすんだよ、これ。


 混乱する俺をよそに事態は進み、華彩が「私、やっぱりこう言うの向いてないんでしょうか……」なんて、悲しげに言い出した。


 ええい、ままよ!

 

 その顔を見て覚悟が決まり、極力華彩を傷つけることのないよう、頭をフル回転させながら、声をかけることにした。


「なあ、華彩?」

「は、はいっ?」

「この【集会】で何を言えばいいかわからないって言ってたけど、まず人に伝える前に、自分がどう思っているか、それを考えて整理した方がいい」

「えっ?」

「まあ、これは話し合う内容によって変わってくるから、あくまで今回はってことだけど。「漫画」聞いて思い浮かべるもの、感じる事なんていうのは、それこそ人それぞれだ」


 前回でも言えたことだが、お題が単語一つで行われると、頭の中に「コレ!」といったモノはすぐに浮かんでこない。


 それはそうだ。単語から連想されるものは多種多様で、正解も間違いも無い。


「だから、漠然としたイメージをはっきりさせるために。自分の中でその単語を聞いてどう思うか、何を感じたか。伝える前にまず自分の中ではっきりさせる」

「イメージをはっきりさせる、ですか?」

「そう、それこそ連想ゲームのように最初は単語を並べてみても良いし、自分の中で文章にして問いかけてもいい」


 例えば、漫画→面白い→恋愛漫画→主人公が好き。


 なら、自分が読んでいて面白い漫画は恋愛漫画が多く、特に主人公がこう言う性格ならいうことはない―-と言った話しをすればいい。


 また、文章にするとしても、変に小難しく考える必要はなく。


 一問一答形式で――

 

 Q、私にとって漫画は何ですか? 


 A、暇を潰すための道具の一つです。

 

 ――と、自分が答えやすい内容を考えればいいのだ。


「この集会の主な目的の一つは『自分の思っている事を相手に伝える』って事だからな。だから。伝える内容を考えるより前に、自分がそれについてどう思っているのか……それを考える必要があるんだけど、別に授業をしているわけでもないから、答えを難しくする必要も、変に気取る必要もない。だから華彩は漫画と聞いて思うことを、友達と話すみたいな気軽さで答えればいいんだ」


 相手が理解出来るようにする伝え方、それもこの集会においての大事な要素だが、それは今語る必要はない。


【集会】においてまず大事なのは、自分の思いを相手に伝えることだから。


「な、なるほど……わかりました」


 幾分落ち着いてくれたのか、話を聞いている内に緊張が解けたようで、真剣な顔をして頷く華彩。


 その様子を見てほっとする俺。


 今回、俺、やらかしてないよね? 


 そう瑞希に目で問いかけてみれば。


『キョウさんにしては、悪くなかったんじゃない?』


 というような視線が投げ返された、ような気がする。


「えと、私にとって漫画は、感動できるもの、です」


 言葉を選んでるからか、途切れ途切れに語っていく。


「感動できるというと、そういう作品を多く読んでいるの?」

「えっと、基本的には、薦められたり、人気が出ていたりするものを、何となくで読んでいるんですけど。最近読んでいる作品は、今まで読んだ中で一番好きなモノだと思って、それでその作品を読んで感動したから、そう思いました」

「思い入れのあるものが、感動系ってことか」

「はいっ」

 一度言葉をだして、問いかけられれば、思ったことがきちんと出ていて、最初の言葉を補完するように、華彩の言いたい事が伝わってくる。


 これが、【集会】なんだよなぁ。


 としみじみと思った。


 語り手は聞き手に伝わるように。


 聞き手はその内容を理解するために。


 人同士の、会話のやりとりを学ぶ場として、瑞希が言い出したもの。


 前回では、そんな風になることはなかったが。


 本来ならこれが俺達が行っている【集会】の形である。


「ちなみに、なんだけど。それ私も知っている作品?」

「私の部屋に置いてありますけど、その作品について話したことはなかったと思います。【○○○】って作品なんですが」

「あっ、俺、それ知ってる」


 瑞希が作品に興味を持ち、華彩がタイトルを言った時、読んだ事ある名前だったのでそう言うと、華彩は「えっ?」と驚いた顔をした。


「は、風間先輩、【○○○】知っているんですか?」

「ああ、確か内容は――」


 読んだのは、確か一年の終わり頃だったかな? 


 古本屋でタイトルが目を引いたから、何となく手にとって、読み出したら思ったよりも面白くて、その場で全巻買い揃えて、家でじっくり読んだな。


 寮に持ってきてないので、実際に見せることはできず、そのため記憶を掘り返しながら、内容を説明する。


「――高校生の女の子が、ある男子生徒と関わりを持つ。他人に対してどこかぶっきらぼうだけど、不思議と周りに好かれる人間で、それまでクラスメイトとしてしか、付き合いのなかった女の子なんだけど、偶然彼が、妖怪や幽霊に対する悩みや問題を解決する【万屋】をやっている人間だと知る」


 女の子は本来、そういったモノが見える人種ではなかったのだが、ある妖怪が起こしてしまった事件に巻き込まれる。


 その事件はただ彼女と再会を願う「彼女の飼い犬」だった妖怪が起こしたもので、それが何か、何で自分を狙うのか当初は何もわからずに困惑するんだけど、その男子生徒が介入したことで、無事解決。


 以後、男子生徒に興味を持った女の子が、彼と一緒に様々な妖怪や、幽霊、時には人間の問題を解決しつつ、その2人の恋愛模様を描いて行くといったストーリーだった。


「何が良かったって、やっぱり設定がどうのこうのより、まず一つ一つのエピソードで登場するキャラがみんな味があるってことだよ。主役の2人もそうなんだけど、どいつこいつもみんな何か憎めない。時折酷いこともする奴もいるけど、そもそも何で酷い事をしたのか、っていう理由もちゃんとあって、その事に気遣いながらも問題を解決する所がいいというか――」


 説明をしていく内、熱くなって自然力が入ったところで、正気に戻る。


 俺、あらすじ語るだけでよかったのに、何やってんだろう?


「わ、悪い……熱くなりすぎた。か、華彩、とりあえず言っていた漫画の内容あってるか?」

「えと……合ってるんですけど、一ついいですか?」

「うん、何?」

「私の言っていたのって少女漫画なんですけど、先輩少女漫画も読むんですか?」


 ああ、華彩が何か驚いていたような気がしたのは、それが理由か。


「……読むよ、それが面白ければ」


 華彩の言いたい事は、何となくわかる。


 男が少女漫画を読んではいけない、というルールはないが。


 少女漫画というものは、男は手が出しにくい印象が、確かにある。


 本屋に行けば、その区画だけ女性専用みたいな、独特な空気間があるし。


 当初は俺だって、誰かに言われていなのに「そこにいってはいけない」という脅迫概念みたいなものがあったしな。


 それはそれとして。

 

 俺は華彩に聞かなければならない。


「……けど、華彩がもし、俺が少女漫画を読む事に、気分を害しているのなら、俺はこれ以上それについて話はしない」

「いや、別に駄目とかそういうのじゃなくって、私の知り合いとか、友達の男の子って基本少女漫画を読んでいる人がいなかったので、意外だなって思っただけです」


 ぱたぱたと両手を振る華彩に、俺に対して嫌悪感を感じていない事がわかり。俺は心底よかったと思った。


 華彩みたいな人間に「気持ち悪い」なんて思われたら、俺、死ねる。


「よかったよ、いや、本当に。華彩に嫌われたら、俺しばらく学校行かなくなった」

「えっえっえっ?」

「だって、最近の癒しに「近寄らないでくれます?」なんて言われたらもう本当にどうしたらいいかと」

「い、癒しですか?」

「だって、可愛いし。それに俺みたいな人間にも優しくしてくれるし。最近、何か女子の風当たりがきつくてきつくて」


 主に、俺が悪いらしいんだけど、でもやっぱり、ねぇ。


「それは、キョウさんが原因でしょう?」

「わかってるよ、わかってますともっ。ただ、それとは別に、こうやって俺に笑いかけてくれる子がいるんだから、その子だけにはそういった態度とられたくないって思うのが人情ってもんだろう?」


 瑞希の突っ込みにそう返すと、やれやれとため息をつかれるが、そんなもの今更気にしてられないし、それに、今一番大事なのは、俺が華彩に気持ち悪いと思われていないこと。


 なので、そうじゃないとわかった俺が喜んだところで罰はあたらないよなっ。


「み、みぃ先輩……私どうしたらいいんでしょう? 風間先輩が予想外な言葉を、凄い勢いで何度も投げてくれるんですけど」

「正直、少し私も舐めてたわ。知ってはいたし、わかっていたことだけど。まさかこうまでやってのけるとは」

「私、これ以上は、心臓が持ちそうにありません」

「そう、ね。ちょっと待ってて。今あの馬鹿を止めるから」


 喜んでいる傍らで、何やらひそひそと会話をする2人。


 聞こえているんだけど、内容の意味が理解できず、きょとんとする俺。


「どうした2人とも?」

「んー、キョウさんが知らぬ間にグレードアップしていたことに驚いているだけ。とりあえず、あんたは一旦落ち着いて。その後で話しの続きをしましょう?」

「あ、確かに。今俺が華彩の可愛い笑顔に癒され――」

「いや、だから黙れ、この鈍感男っ!」


 言い切る前に、バシンッ、とチョップをされる俺。


 おい、瑞希……今、お前本気でやったな?

 

 かなり良い音がしたぞ。


 そして痛かった。


「そ、そうですよ。先輩、今は私のことより、【集会】の続きをしましょう?」


 俺が言い返そうとした所で、何故か顔が赤くなっている華彩に止められる。


 確かに華彩の言うとおり、本来は【集会】の途中ということだったと冷静になり、言われた通りに黙る俺。


 すると、華彩が再び話し出して、その事に瑞希が返し、俺もそれに混ざって話をする。


 そんな風にして、華彩が加わった二回目の集会は過ぎていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 楽しく読ませていただいてます。 なんと言うか、すごく真面目に、とても深く、なのに的確に的外れな考察をしていくキョウさんに、「なんでぇ!? そうじゃないんだよぉぉ!」とやきもきしながら読ま…
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